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『ファイトだ!! ピュー太』作戦本部(4)
 データ原口さんに色々と教えてもらおう(前編)

 『ファイトだ!! ピュー太』は色々と謎の多い作品だ。一度だけソフト化された10話「南太平洋 メチャクチャ 大戦争」以外は、ほとんど観る機会はなかったし、どんな人が作っているのかもわからなかった。現在、『ファイトだ!! ピュー太』DVDBOXの解説書の編集作業をやっている、リスト制作委員会の原口正宏さんに、現在までに分かっている事を色々と訊いてみたぞ。

── 原口さんは、今、DVDBOXの解説書の構成の作業をしてるわけだよね。原口さんは『ファイトだ!! ピュー太』は観た事あったの?
原口 ひょっとしたら小さい頃に本放送を観ているかもしれないけれど、その記憶はないね。レコードで主題歌を聴いて、『ピュー太』に関するそれ以外の情報はないという時期が長かった。だから、小黒君と同じで、毎日放送の40周年かなにかで『おそ松くん』『ピッカリ★ビー』『ピュー太』のビデオが出た時に、初めて本編をちゃんと観る事ができた。厳密に言うと、「TVアニメ25年史」(徳間書店)をやった時に、オープニングだけ観たんだ。「キリンものしりシリーズ」を作っていたオフィス・ユニの斉藤賢さんのところに取材に行ってね。斉藤賢さんは『ピュー太』を作っていた放送動画制作で現場責任者をしていた方なので、『おそ松くん』から『かみなり坊やピッカリ★ビー』『ピュー太』までのスタジオやスタッフについての詳細を教えてくれたんだ。それで「あのう、映像が全然ないんですけど」と言ったら、斉藤賢さんが座っている場所の横にフィルム缶がうずたかく積んであって、そこから斎藤さんが1本取りだして「これが『ピュー太』のオープニングだから、持っていって接写しなさい」と言って渡してくれたの。それで、初めて自覚的に『ピュー太』のオープニングを観た。『ピュー太』のオープニングが、やたらとスピーディでね、凄い作りである事だけ、その時に知った。
── 「25年史」に載っている『ピュー太』の写真って、凄いレアなコマだよね。タイトルが爆発した瞬間の画でしょ、あれ。
原口 そうそう(笑)。あれはね、僕が選んだわけじゃない気がする。誰かが、接写したフィルムから選んだんだろうと思うけど。それでビデオが出て、収録されたあの第10話「南太平洋 メチャクチャ 大戦争」を観て、まあ、ぶっ飛んだわけですな。
── それは、内容に?
原口 内容的にもぶっ飛んだし、技術的にも感心した。キャラクターの動きで遊びを一杯やってるのも面白かった。あの当時の作品で、あそこまで動かしているTVアニメはそうそうお目にかかれないからね。それから、小黒君もコラム(「アニメ様の七転八倒」第13回)で書いてたけど、印象に残ったのは、ピュー太が崖から落ちる瞬間の、島の女王様ですよ。あそこのインサートの実験性とかの凄さに面食らって、あれでちょっとクラクラッときた(笑)。
── 確かにあれは凄い。
原口 冷静に分析して観たわけではなくて、感覚的に「凄く遊んだアニメがあったんだな」と思った。でも、やっぱりその1本しかなかったから、作品の全体像が見当もつかなかった。それで、オープニングに、構成の役職で永沢詢さんの名前が出ていたし、斉藤賢さんから、毎日放送のシリーズは永沢詢がメインで動かしてたという話は聞いていたから、オープニングの作画も永沢さんなのではないか、なんて勝手に思っていた(編注:「東映長編研究 第8回 永沢詢インタビュー(6)」にあるようにも、永沢さんはコンテではアイデア出しのみを担当)。10話を観た時に「こんな凄いんだから、本編の演出も永沢さんだろう」と思ったら、あの話のエンディングには、永沢さんの名前が一度も出てこない。演出に「倉橋こうじ」、作画に「林 静一、鈴木欽一郎」とクレジットされているわけ。それで、作画が凄いのは林静一さんかなあと思ったんだけど、その一方で「倉橋こうじって誰?」という疑問がわいてきた。倉橋達治さんの事は『みんなのうた』でも取材をしていたので、知ってたんだよ。名前が似ているなあって。果たして同一人物なのかどうか、知りたいと思った。その直後に別件で、倉橋達治さんに取材する事があって、その時ついでに『ピュー太』について聞いて、「倉橋こうじ」が倉橋達治さんと同じ人だという事が分かったのね。それで「他の回もやってるんですか」と聞いたら、「やってる」と言うんだよ。それで、少なくともあのチームでやってる回が他にもあるらしい事が分かった。それと、永沢詢の回は別にあるんだろうかという疑問もわいて、それでまあ、幾星霜を経る事になったわけだよ。
── うんうん。
原口 それで『ファイトだ!! ピュー太』に関しては、さるメーカーでDVD化の話が一回進みかけて、中断してしまった。実はその時にビデオのテレシネまで作業が進んでいて、僕は、サンプルビデオをもらっていたんだ。それで、今回のDVDでも一緒に仕事をしているASHの新堂(真)さんが「『ピュー太』は人造人間の回が凄いんだ」と言っていたのね。関西ではある時期まで再放送をやっていて、新堂さんはそれを観て、僕達よりも『ピュー太』の事を覚えていたんだ。で、その新堂さんが言っていた人造人間の話というのが、23話の「よみがえる ノータリン部隊」という回なんだけど。その話を観てみたら、これが永沢脚本、永沢演出だったわけなんだよ。しかも、倉橋さんが原画に入っていたりするわけだ。
── じゃあ、『ピュー太』のゴールデンスタッフだね。
原口 うん。実際に観てみたら、これも凄いんですよ(笑)。10話と並ぶ問題作で、10話とも異質の社会派の話なんだよ。当時のものとしては、戦闘シーンとかも凝っていてね。クライマックスのところで、おそらく倉橋さんが描いてると思われる個所は、動きもいいんだ。倉橋さんが部分的に描いてる回は他にもあるんだよ。第13話「巨象 キング・バタリ」という回は、彦根範夫さんの演出回で、これも倉橋さんが作画に入っているの。この話の原画も林静一さんと鈴木欽一郎さんがクレジットされているんだけど、実は月岡貞夫さんも描いてるんだ。月岡さん自身は『ピュー太』に参加した事は覚えてないそうなんだけど、その月岡さんの動きがあまりにも見事だったので、彦根さんが今でも原動画を保存してたんだよ。
── へえ、それは凄い。
原口 その原画は、DVDBOXの解説書に部分的に載せるつもりなんだけど。……何だか、最初から個別論になっちゃったかな(苦笑)。
── じゃあ、ちょっと全体の事を聞くね。この作品の原作はどういうものなの。オープニングには、マンガ家のムロタニ・ツネ象が原案としてクレジットされているよね。原作じゃないの?
原口 原案です。で、これは原案としか言いようがないと思う。本編にツルリ博士の名前として残ってるんだけど、「ドクター・ツルリ」という漫画をムロタニ・ツネ象さんが描いていたんです。それは『ファイトだ!! ピュー太』が放送される前の年に、「別冊少年サンデー」に連載されていた。主人公のドクター・ツルリは、『ピュー太』に出てくるツルリ博士とは全然違っていて、見た目が子供っぽいキャラクターなんだよ。その漫画のコピーを持ってきたんだけど(『ピュー太』の資料をまとめてプリントアウトしたものを取り出す)。
── ああ、なるほど。『(ろぼっ子)ビートン』のガキオヤジみたいなキャラなんだ。
原口 そうそう。この漫画は、ドクター・ツルリが毎回発明をして、その発明品で何かを解決したりする話で、特にレギュラーの敵役が出てきたりするわけでもないし、ましてやピュー太みたいな相棒もいなかった。それで(永沢詢さんを中心にしたスタッフが)『ピッカリ★ビー』を放送してる最中に「ドクター・ツルリ」を元に、次の作品を考えようとしたらしいんだ。ただ、主人公が大人の博士だと、視聴者への引きが弱いから、元気な少年をくっつけようという話になって、主人公のピュー太が生まれる事になった。コンピュータというものが目新しかった時なので、そこからとって、名前は今野ピュー太。さらに主人公が発明コンビならば、それに対して悪のレギュラーも天才科学者にしよう。ちょっとスノッブなのがいい。そんな風に悪役側も、アニメスタッフの方で考えた。特にワルサーに関しては、最初っから『おそ松くん』のイヤミみたいなやつがいいなあと思っていて、声はイヤミと同じ小林恭治だと考えたんだそうな。
── それは誰が?
原口 永沢さんが思っていた。勿論、最終的には、合議制で決めたんだと思うけど。そういったキャラクターの配置に関しては、ほとんどアニメのオリジナルなんだね。ツルリに博士に関しても、見た目は原型をとどめていないに近い。実は、当時の「毎日夕刊」に『ファイトだ!! ピュー太』の企画についての記事があってね(と言いつつ、資料をめくって見せる)。
── うわ、すごい。企画のメイキング記事だね。よくこんなものを見つけたなあ。
原口 大阪の渡辺泰さん(「日本アニメーション映画史」の著者)が当時、スクラップしていたものをコピーしてくださったんだ。これによると、最初、主人公はドクター君という名前だった。多分、これはドクター・ツルリを発展させたキャラクターだよね。
── 科学者みたいな少年というわけだ。
原口 それに野性味を加えたのが、このドッカン君というキャラクター。これだとメカ好きな少年に見えないので、少し科学者寄りに戻してピュー太君になった。そういう成り行きだったと思うんだ。最初のドクター君は、ムロタニさんのデザインで、ドッカン君とピュー太は、作画監督の小華和(ためお)さんの画だろうと思われる。つまり、アニメスタッフ側の討議の中でこういうキャラが必要だという話になり、そこでムロタニさんがキャラクター原案を出して、それを元にアニメスタッフ側で設定を起こしていったという順番だったと思うのね。そういう意味で言うと、確かにムロタニさんは『ファイトだ!! ピュー太』の原作ではなくて、原案だったと言えるんじゃないかな。全部のキャラクターの原案をムロタニさんが描いたかどうかは分からないけど。
── なるほど。
原口 物語の設定に関してもアニメスタッフ側が用意して、それを元に、ムロタニさんが改めてマンガを描いて発表したという事らしいんだ。『ピュー太』の放映開始に合わせて、ムロタニさんは「週刊少年サンデー」と「別冊少年サンデー」で並行して連載を始めるんだよ。「週刊少年サンデー」の連載は「ドクターツルリ」で、「別冊少年サンデー」の連載は「ファイトだ!! ピュー太」なんです。
── しかも、このドクター・ツルリは、前の「ドクター・ツルリ」とは違って、アニメ版のキャラなんだね。
原口 そう。タイトルが違うだけで、この「ドクターツルリ」と「ファイトだ!! ピュー太」は同じ世界の話みたいだね。アニメだと、ツルリ博士が、頭を打ってハッスルして発明をするのが定番のシーンで、そのハッスルする場面が使い回しじゃなくて、毎回新作なんだよ。どんなハッスルの仕方をするかがシリーズを通じての見どころなんだけど、マンガの方だと、そのハッスルがないまま発明をやってしまう。そこがアニメとマンガで決定的に違うというところなんだ。
── なるほど。
原口 それからもうひとつ、アニメ『ファイトだ!! ピュー太』の見所としては、カッコちゃんの位置づけというのがありまして。ビデオ化されていた10話の「南太平洋 メチャクチャ 大戦争」では、カッコちゃんがピュー太のお知り合いでしかないんだけど。
── 何者だか分かんないよね。
原口 むしろね、あれが普通じゃない回なんだよ。普段の『ピュー太』では、カッコちゃんは毎回違う役どころで出てくるのがお約束になってて。ある時は魚屋さん、ある時はそば屋さん。
── あ、そうなの?
原口 ある時は宇宙飛行士、ある時は女スパイ。峰不二子の先を行く! じゃないんだけど(笑)。むしろ、マンガ版の峰不二子だね。要するに「カッコ」という名前があるだけで、女性がなりうるあらゆる職業になる。1話なんかレポーターをやってたでしょ。あれは、あの回だけなの。
── ピュー太のクラスメートとかじゃないんだね。
原口 違うの! 謎の女カッコちゃん!
── ああー、そりゃ凄いなー。
原口 しかも、ピュー太とツルリは、悪役のワルサー達とはすでにお知り合いなわけ。ピュー太は、ワルサーに対して「あっ、お前はワルサー!」と言ってるくせに、カッコちゃんは毎回、新キャラクターとして登場するの! なかなか凄いよ(笑)。
── 毎回初対面なんだ。
原口 当時のアニメとしては画期的なんだけど、カッコちゃんは着たきりスズメじゃないんですよ。毎回全部違う服を着てる(笑)。「水爆ドカ〜ン 5秒前!」という小華和(ためお)さんが演出をやった話では、チューリップセブンという平和組織の諜報部員でね。水爆計画を阻止するために派遣されてきて、劇中で4回ぐらい衣装が変わるの。キューティーハニーばりに、雑誌記者のふりをしてワルサー邸に忍び込んだり、捕まりそうになった時、ピアスから光線を出して、ワルサーを撃退したりとかね(笑)。途中は『レインボー戦隊 ロビン』のリリばりの黒スーツを着て、活躍したりとかね。24話は美人コンテストの回で、カッコちゃんが、その予選を勝ち抜いて日本代表になるんだよ。ここは当然、いろんな格好で出てくる。なかなか豪華ですよ。しかも、カッコちゃんの作画に関しては、みんな、それなりに愛情を込めて描いてて、基本的に可愛いんだよ。描き手の個性による違いはあるけど、総じてカッコちゃんがブサイクな回はないですね。
── なるほど。それは観るのが楽しみだなあ。

■『ファイトだ!! ピュー太』作戦本部(5)
  データ原口さんに色々と教えてもらおう(後編)に続く


(05.05.20)
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