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animator interview
なかむらたかし(2)


小黒 『宇宙魔神ダイケンゴー』も、おやりじゃないですか?
なかむら そういったメカものと呼ばれる作品を、小さなプロダクションが製作していた時代ですね。覚えています。志はあるのに、やっている仕事や、自分のアニメーターとしての、なんとなく先の見えない気分にとらわれていたような……。その中でもなんとかやりたい事を見つけようとしてました。
小黒 確かオープニングで、1コマで、敵のメカを壊したりしていましたよね。
なかむら 全然覚えてない(苦笑)。
小黒 オープニングをやったのは間違いないんですね。
なかむら それは覚えてる。
小黒 『ダイケンゴー』は、本編もやってます?
なかむら やってない、と思うんだけど。俺がアニメルームにいた頃に、金田(伊功)さんの存在を知ったんです(注6)。劇場『(銀河鉄道)999』を観て、「うわあ、すげえ」と思ったのを覚えてます。あの爆発のインパクトは強烈だった。
小黒 ええ、凄かったですよ。終わりの方のメーテル星のシーンですよね。
なかむら 爆発のフォルムにしても、メカの描き方にしても、動かし方にしても、それまでああいうものは無かったわけじゃないですか。東映の長編にも、ディズニーの作品にも、ああいうものは無かったし、それまで、タツノコのものを含めて、メカや爆発の処理の仕方が全然違った。
小黒 シャープな感じですか。
なかむら シャープで、尚かつ気持ちがいい。動きで、生理的な気持ちよさがあった。煙や爆発のフォルムをシンプルなラインにして、動く事によってダイナミックな表現ができる。あのアニメーターとしてのデザイン力っていったい何だろうと、どこから来たのかって、思いました。
小黒 金田さんのアニメは、あの時点でかなり完成されてますよね。しかも、あんなに刺激的で、よく動いてるのに、枚数は決して多くないという。
なかむら いや、そうでもないよ。
小黒 金田さんがあんなに枚数使ったのは、『999』が初めてじゃないんですかね。
なかむら ああ、なるほどね。『999』を観た後に、それ以前に金田さんがTVでやった『(大空魔竜)ガイキング』とか、『(無敵超人)ザンボット3』を観たりしたんですよ。それで「ああ、なるほど、そういう事なんだな」って思った。TVシリーズだと、金田さんの爆発の表現も、パカパカッと動いて、ボンとなる感じじゃない。
小黒 そうなんですよね。ああいう極端に枚数が少ない動きをTVでやっていて、そのタイミングをベースして『999』等をやっていたんでしょうね。
なかむら そう、劇場クラスになると、ああいうふうなものになるんだろうね。
 話を戻すとね、極端に枚数を抑えて、その動きそのものが世界観を作り出した、いわゆるリミテッドのスタイルで成功していたのが、TVの『ガンバの冒険』ですよね。俺がアニドウに行ってた頃の作品で、放映当時から気になって観ていましたが、惹かれながらも、自分の中に、どうもああいった動きが出てこないんです。
小黒 Aプロ系ですね。
なかむら Aプロ系っていうのかな。『ど根性ガエル』からなのか、『天才バカボン』からなのか、あの流れがどこからスタートするのかよく分からないけどね。あの人達は『バカボン』もやってるよね。
小黒 芝山さんと小林さんの作品歴としては、旧『天才バカボン』、『ど根性ガエル』、『ガンバ』、『元祖天才バカボン』の順番ですね。
なかむら ああ、なるほどね。大したもんだよね。動きと作品世界観が上手くマッチしていたね。
小黒 アニメルームの頃から、なかむらさんはバリバリと原画を描くようになるんですよね。
なかむら うん。割と好きなようにやらせてもらえました。スケジュールさえ守れば、作画枚数も目をつむってくれてましたから。まあ、枚数を使うという事は、それだけ原画枚数も描かなくっちならないわけです。でも、いちアニメーターが生き残るためには、多少会社に迷惑がかかっても、やっていかなくてはならないんです。そうしないと何も残らないですから。

(注6)金田伊功
独特のセンスとフォルム、タイミングで、多くのファンに熱狂的に支持されたアニメーター。後のクリエイター、作品に与えた影響は大きい。他の代表作に『幻魔大戦』『BIRTH』『DOWN LOAD 南無阿弥陀仏は愛の詩』等がある。
小黒 フリーになってからの、最初の作品は何になるんですか?なかむら フリーになって、最初にやったのが『Gライタン』かな(注7)。いや、その前に『ヤマトよ永遠に』があるんだ。そうそう、あの時に初めて金田さんと対面したんだよ。『永遠に』の時にはフリーだった。その後だね、『Gライタン』や『エステバン』をやったのは(注8)
小黒 『永遠に』では、どこやってるんですか?
なかむら 『永遠に』は最初の方の、敵の兵士がわーっと降りてくるところ。あとは、何をやったのかな。作監補佐やったのかな。
小黒 ヤマトが発進するところは違うんですか?
なかむら あれは違う。あれは誰だったかなぁ……覚えてないなあ。俺じゃないんだよね、あれ。
小黒 みんなが、そう思ってるのは、岩が崩れるからですね(苦笑)。
なかむら 俺が岩にこだわるのはね、ある作品の影響が強烈にあるんですよ。
小黒 『ホルス』ですね。
なかむら そう。『ホルス』! 動画をやっていた頃に、TVシリーズで岩とかが出てきても、「なんで、あまり動かないのかなぁ」って、いつも思っていた。「なぜ『ホルス』の岩って、あんなに重量感があって、あんなに動くのかな」って、凄く不思議だったんだよね。俺が岩を動かす原点は『ホルス』だね。
小黒 岩男が登場するシーンですね。
なかむら そう。だーっと手が出てきて、岩がバラバラと崩れるんだよ。巨大感とか、重量感とか、そういうものが気持ちよかったんだよね。だから、ついね、自分でもそういう事をやってしまった。

(注7)『Gライタン』
タツノコプロ製作のロボットアニメ。彼が担当した話数は必見。取材中で名前が出ている真下耕一は、総監督である。

(注8)『太陽の子エステバン』
このシリーズでは、第18話「大コンドルの秘密」に参加。これも当時、話題になった。
小黒 あの頃は、「岩石アニメーター」とか言われてましたよね。(注9)
なかむら それは『ホルス』のせいだね(苦笑)。
小黒 『Gライタン』は、あの頃のなかむらさんの代表作だと思うんです。あれは1話分を、どのくらいかけてやったんですか?
なかむら 2ヶ月かな。
小黒 2ヶ月ですか。
なかむら 「作監と原画で2ヶ月だよ」って言われて、2ヶ月でやった。
小黒 1人で2ヶ月。
なかむら そう。だいたい、カット数が350ぐらいで、それを2ヶ月でやる。石川(光久)君に「とにかく2ヶ月で上げれば、どんなに枚数使っても、(動画や仕上げに)撒くから」って言われた。「俺はそんな事言ってない!」って怒るかもしれないけど(苦笑)。
小黒 え! 石川さんって、Production I.Gの石川さんですか?
なかむら そう。あの頃の石川君は、まだ制作進行だったんだけどね。石川君の非常な理解があったという事かな。彼が、こっちが描いた原画を一所懸命に撒いてくれた。
小黒 ああ、『Gライタン』のあの仕上がりは、強力な制作に支えられていたんですね。
なかむら 勿論、真下(耕一)さんの理解もあったし。
小黒 凄いですね、石川さん。
なかむら うん。『(未来警察)ウラシマン』の時もそうだったよね。俺が、1本だけ絵コンテを切った回があるんだけど……。
(注9)「岩石アニメーター」
当時、彼は岩が崩れたり、地面がめくれたする描写を頻繁に描いていた。
小黒 「ネオトキオ発地獄行き」ですね(注10)
なかむら そうです(苦笑)。あれをやった時もね、枚数をどれだけ使ってもいいとは言わなかったけど、「とにかくスケジュールさえ守れば、ちゃんとやるから」って。
小黒 「動画以降は俺に任せろ」みたいな。
なかむら うん、そういうふうに言ってくれた記憶がありますね。
小黒 『ライタン』は1人で1話分の原画をお描きになっていたんでしたっけ?
なかむら そうだね。でも、毎回ではないんだよ。例えば、半分を別の人に原画を描いてもらって、作監をした回もある。
小黒 「標的マンナッカー」や「大魔神の涙」は1人でおやりになったんでしたっけ。
なかむら いや、「標的マンナッカー」はね、原画マンが何人かいるんですよ。今、フッと思い出したんだけど、あれは絵コンテのラストの辺りが気に入らなくてさ。真下さんと話したんですよ。「ロボットものの最後の見せ方は、どうしてもこうじゃなくちゃいけない」って言われて、それがなかなか納得できなかった(苦笑)。「大魔神の涙」のラストも、巨大なロボットが空中でいくつも出てくるというところがあって、俺、ああいう表現が大嫌いでね。空間的に理解できなくて。
小黒 ライタン軍団が同時に現れるところですね。
なかむら そうそう。1体の巨大ロボットなら、空間的に許せるけどね。でも、それはシリーズものの、観せ方のひとつのパターンとして、しょうがないって言われて。
小黒 「大魔神の涙」は痺れましたよ。魔神の掌の上を子供が走るところとか。
なかむら ああ、あったね。何とか巧く空間を作りたいと思っていたんだよね。それで、空間を作るには、どうしたらいいのかなって考えて、1コマを使えば、多少なりとも空間が存在するように見えるかもしれないと思ったんだ。まあ、そういう試行錯誤をしていた感じだよね。なんせ、一発勝負だったからね。こう動かしたらどうなるか、なんて確認しながらやるわけにはいかなかったから。
小黒 原画とシートを、渡したら……。
なかむら 渡したら、後はフィルムになって、TVで放送されるだけだから。自分の力を試しながらやっているみたいなところがあったよね。
小黒 技術的な事も、あるいは制作的な事を含めて、『Gライタン』はTVシリーズの限界に近い仕事だったのでは、という気がします。
なかむら それはどうかな。ただ、今振り返るとアニメーターとしての、自信をつけたという意味で、大事な作品かもしれない。
小黒 あれだけの密度のアニメーションって、当時、劇場でもなかなか無かったですよ。
(注10)『未来警察ウラシマン』
第26話「ネオトキオ発地獄行き」では、絵コンテ、作画監督、原画を担当。Aパートの原画を森本晃司と福島敦子が担当、Bパートの原画を彼が担当している。

なかむら いや、それで言うなら、『日本絵巻』の「ぬえ退治」は観た事ある?(注11)
小黒 すいません。タイトルしか知らないんですよ。
なかむら それを観なくちゃあ(笑)。それで、いいところがあるんだよ。1コマで、岩からぬえが出てくるんだよ。そのエピソードは、前田(康成)さんという人が演出をやって、原画も描いていて、それを手伝ったんだけど。「ぬえ退治」はね、俺は好きなんだ。
小黒 それは、自分で原画を描いたんですか。1コマなんですか?
なかむら 岩を動かすんだから、最低2コマだろうって思ってやったと思うよ(苦笑)。1コマだったかなぁ。大きく砕けるところは2コマで、部分的に1コマを使ったのかなあ。
小黒 当時としては「やったぜ!」というお仕事なんですね。
なかむら うん、そう(笑)。気持ちよかったんだよ。まあ、今観たら、ちょっと荒いかもしれないけどね。いや、岩を動かすってねぇ、結構しんどいんだよ。
小黒 そうでしょうね。
なかむら 動きを細かく描かなくっちゃいけないし、面をちゃんと捉えないといけないし。そんなに動画の人に任せられないじゃない。

(注11)『まんが日本絵巻』
第17話A「妖怪ぬえ退治 源頼政」。


●「animator interview なかむらたかし(3)」へ続く

(00.12.06)


 
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