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animator interview
なかむらたかし(5)


小黒 振り返って見ると「動き」に関して、違ったテイストを狙った『ロボットカーニバル』(注15)は当然として、『AKIRA』の時にすでに、ガチガチのリアルだけじゃないテイストがチラリと見えていますよね。
なかむら 見えているとすれば、すでに『AKIRA』においても、そういう動かし方は作品の方向とは異質な感じだったかもしれない。
小黒 ちょっと柔らかい感じの動きとか。
なかむら ああいうのは好きなんだよね。今、大友さんが『スチームボーイ』という作品を作っているじゃない。作品世界そのものや、アニメートのムードみたいなのが、非常によさそうだなって思うよ。
小黒 なるほど。
なかむら やっぱり、俺は基本的にそっちの傾向になるね。どうしても。
小黒 さっきのアニメートする事の目的の話に、ちょっと戻りますけど「物語を表現するための動き」と「気持ちのよい動き」は違うと思うんですよ。
なかむら うん。
小黒 それが全く別のものだとは言わないけれど、同じものではない。世界観や物語を表現するための動きに、必ずしも「動きの気持ちよさ」があるとは限らない。だけど、その一方で、動いている事だけが魅力のアニメーションもあるわけですよね。
なかむら そうだね。
小黒 例えば「物語が必要とする動き」と「動きの気持ちのよさ」が一致している作品は、アニメーションとして幸せなんだけど、必ずしもそうじゃないですよね。
なかむら 「動きの気持ちのよさ」、もしくは「動きのみによって創られるアート」は、創る側は情熱や職人意識で作り続ける事はできても、それを観る側にとっては、瞬間的な感覚であって、1時間も2時間もその事のみで観ていられるものではない。だから、単純に動かして喜びを得ようと思っても、それは現実的には難しい事なんです。
 自身の事で言えば、漫画からスタートしてしまったアニメーションであるために、また、その魅力に惹かれてしまっている以上、色んな素材や工夫によって創られるアニメーションの方向へとは行かないという事です。漫画からスタートと言うのは、まずキャラがあり、ストーリーとその世界観がなければ成立しないアニメーションという事です。
小黒 例えば『未来少年コナン』で、コナンがラナを助けるために疾走する描写は、物語が必要とする芝居でもあるし、動きの魅力も持っていますよね。ある意味、アニメーションの理想のかたちの一つかな、という気がします。
なかむら そういう感覚は、ディズニーや、フライシャーの作品の中でたくさん味わってきたと思う。躍動感だけではない、ストーリーと動きの魅力の両方を。ディズニーの作品が嫌いな人も多いけれど。でも、考えてみると、ディズニーの作品ほど、強いテーマや時代感を排除して、排除する事で作品に普遍性を持たせ、アニメーター達の動きの魅力のみによって創られている商業的作品はないのかもしれない。一作ごと実験的に創られているし。
小黒 なかむらさんは、現在、自分で作品を作っていて、どうなんですか。動きの気持ち良さを捨てたくないですよね。
なかむら それがアニメーションの本質なので、作り続ける以上、ずっと考えていく事だと思います。
小黒 話はちょっと戻りますが、なかむらさんは『まんが日本絵巻』や『ライタン』、あるいは『幻魔大戦』の頃に、自分は変わった仕事をしているという意識はありました?
なかむら 全然無い。
小黒 全然無い、ですか。
なかむら 変わったどころか、割と正当なところに向かっているつもりだった。
小黒 ああ、正当っていうのはつまり、かつてのディズニーや『ホルス』という素晴らしい作品があって、それと同じ系統の仕事を。
なかむら そうだね。それを一所懸命に目指したって感じだよね。それを、自分に与えられた環境でやっただけだよね。
小黒 やれるだけやった。
なかむら そう、やれるだけやった。演出家の演出があって、決められたキャラクターがあるんだから、そんなに変わった事ができるわけないしね。極めて正統的に、先輩達がやった仕事の一番いいところを一所懸命に目指して、やってきてたって事だよね。
小黒 爆発等で、破片が細かいのも(笑)。
なかむら うん、破片が細かいのも、劇場作品では、もうすでにやった人がいたわけじゃない。
小黒 ああ、なるほど。
なかむら ただ、TVシリーズでそれをやる人がいなかったというだけだよ。描ける人はいたんだろうけど、スケジュールが無くて描かなかったんだろうね。俺はやってみたいなと思って、描いただけだよね。

(注15)『ロボットカーニバル』
オムニバス形式のOVA。その中の1本である「ニワトリ男と赤い首」は、彼の初監督作品。キャラクターや動きに関して、ディズニーやフライシャー作品の影響が色濃く出た作品となっている。

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(00.12.06)


 
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