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第1回 
井上・今石・小黒座談会(1)


―― 今回の企画の趣旨からお願いします。
小黒祐一郎 僕らが若い頃と違って、今、とにかくアニメの数が多いよね。そこで、色んな人に若い人に観てもらいたい20本を選んでもらって、なるべく無駄なく、若い人がよい作品を観られるきっかけにしよう、というシリーズとして考えたわけです。それで、最初に「アニメスタイル」でお馴染みの井上さん、今石君と、僕の3人の座談会というかたちでやってみたい。
―― なるほど。
小黒 僕は、特に、アニメマニアになれるような作品を紹介したいと思う。あらかじめ言っておくと、勿論、マニアになる必要はないんだけど、なりたい人もいるんじゃないかと思ってね。それに僕の仕事としては、マニアがもうちょっと増えてくれた方がありがたいから(笑)。
井上俊之 なるほど、分かるよね。俺の狙いは小黒君とはちょっと違って、俺たちの世代と似た資質のアニメーターに入ってきてほしいと思って参加したんだ。これを観れば作画にかぶれるという作品を選んだつもりなんだよ。
小黒 今石君も、GAINAXで若いアニメーターにビデオを観せたりしてるんでしょ。
今石洋之 ああ、してますよ。
井上 今石君は貴重な存在だよね。今石君みたいな人も現場に少なくなってきているから。新人達が意外に濃いものを観てきていないんだよね。よいものは観ているんだろうけど。
今石 それですよね。僕は作品としてはよいかどうかは別として「マニアとしてはここを見るべきだろう」というのを選んでみました。
井上 そうそう、俺の選んだのものの中にも、作品としてはちょっと……というものもあるんだよ(笑)。作品としてよくないと語り継がれなくて、観る機会がない。今日、選んできたのは、この場で語らなければ、歴史からほぼ消えていくかもしれないものがかなりあると思うんだ。
小黒 前に今石君からGAINAXの事を聞いて、いい話だなあと思った。彼がまだ新人だった頃に庵野(秀明)さんが「今石、これを観ろ」とLD―BOXを押しつけていたんだよね。その後で、今度は今石さんがさらに若手に「これを観ろ」とやっているんだよね。
―― 大学のアニメ研っぽい感じですね。
今石 さすがに今はあまりやらないですけどね。下の人とは歳が離れすぎているから。今、入ってくる人って、22、3歳ですから。
井上 最近は、ジェネレーションの壁も小刻みになっているんだよね。昔は10年ぐらいでひとくくりにできたんだけど。
今石 金田伊功が分からないのは仕方ないにしても、大張正巳も知らないとなると、もうどうしていいか分からない(笑)。
小黒 今、入ってくる人はどういう人なの?
今石 初めて覚えた名前が黄瀬和哉みたいな、そういう世界ですね。
井上 それもアニメーターとしての資質を把握して、黄瀬さんの名前を意識しているのか気になるよね。俺は、若い頃は作監のクレジットには興味なかったから。
今石 むしろ「作監は、原画マンにつながる道しるべでしかない」という感じでしたよね。
―― えーと、すでにこの時点で、話についてこれない読者も多いんじゃないかと……(苦笑)。
井上 いや、こうして皆、アニメーターになったと分かってもらえれば。
小黒 いや、アニメーターにならんでもアニメマニアに(笑)。でも、常々感じている事だけど、濃いアニメマニアと巧いアニメーターは、結構近いかもしれないから。
井上 と言うより、巧いアニメーターは濃いアニメマニアである事が多い。
小黒 ……というところで、では、僕から20本の紹介を。

●小黒祐一郎(編集長)が選んだ
「アニメマニアになるために観ておきたい20本」

1 『THE八犬伝』(1話)
2 『THE八犬伝[新章]』(4話)
3 『御先祖様万々歳!』
4 『太陽の王子ホルスの大冒険』
5 『ルパン三世[旧]』
6 『巨人の星』83話
7 『母をたずねて三千里[TV]』(全話)
8 『未来少年コナン[TV]』(全話)
9 『ガンバの冒険[TV]』(全話)
10 『宇宙戦艦ヤマト[TV]』(全話)
11 『銀河鉄道999[劇場]』
12 『THE IDEON』(接触篇&発動篇)
13 『ロボットカーニバル』
14 『Manie−Manie 迷宮物語』
15 『妖獣都市』
16 『機動警察パトレイバー2 the Movie』
17 『DOWN LOAD 南無阿弥陀仏は愛の詩』
18 『フリクリ』
19 『人狼』
20 『マジンガーZ 対 暗黒大将軍』

番外
『少女革命ウテナ[TV]』
『ずっこけナイト ドンデラマンチャ』6話
『Gライタン』の「大魔神の涙」
『ど根性ガエル』の「かんかんアキ缶の巻」


小黒 これは、これからアニメスタイル編集部でバイトをする20歳ぐらいの若者がいたとして、これだけは観ておいてほしい、という基準で選んでみた。だから、必ずしも作画が基準になっているというわけではない。それから、今、レンタルショップで借りられそうなもの。
井上 順番に意味はあるの?
小黒 あまりないけど、強いて言えば観やすい順かな。
井上 観やすい順で最初が『THE 八犬伝』か(笑)。
小黒 観て欲しい順という意味もある。『八犬伝』に関しては、いつも作画の話ばかりしてるけど、個性的な演出にも注目してもらいたい。
今石 ストーリーはよく分からないけど。
井上 いや、その分、作画に集中できる。
今石 大事な発言ですね。“作画アニメ”はストーリーが面白くちゃいかん、と(笑)。
小黒 いや、『八犬伝』に関しては、あの話が分かりづらいところもアジとして観てもらいたいと付け加えておきましょう。
―― 『八犬伝』1話、『新章』4話、『御先祖様万々歳!』は「アニメスタイル」ではお馴染みのタイトルですね。
小黒 うん。このあたりの作品は、映像のインパクトもさる事ながら、歴史的な意味も考えて見てもらいたい。多少技術的に古くなっているかもしれないけれど、それでも面白いと思う。あと、『八犬伝』に関しては、とにかくDVDが安い。他の回も観どころは多いので観てほしい。
井上 確かに歴史的な意味を考えるのは大事かもしれない。時代背景も想像しながら観る事が必要だよね。エポックな作品がどれだけ凄いかっていうのは、想像力を働かせながら観ないと。不毛の大地にね、最初の木を植えた人がいかに凄いか。
小黒 『御先祖』は、押井さんの舞台劇調の独特の作りと、人物芝居をたっぷり見せるという狙いとがマッチしてできあがったものだ、という事も押さえておいてほしい。
井上 『御先祖』は作品として、当時非常に批判的に言われていた覚えがあるんだけど、そこまでなぜ非難されたのか不思議なくらい、作品としてもよくできてると思う。
小黒 4本目の『ホルス』は、まあ基本でしょう。
井上 そうだね。俺は、あえて選ばなかったけど。
小黒 本当は、その前の東映長編を順番に観ないとありがたみがないのかもしれない。僕らの世代でも『ホルス』がドーンと出てきた時の衝撃ってのは、本当の意味では分からないし。
井上 基本的な作画を確立したような感じはあるよね。これより古いと、フルアニメーションの伝統みたいなものに縛られてたところがある。『ホルス』はやっぱり日本の作画法を確立したと言うか、ここから日本のアニメーションが始まっているみたいなところがある。
小黒 ドラマ的にも後のアニメに与えた影響も大きいでしょ。
井上 「漫画映画」ではなくなったもんね。
小黒 で、『ルパン三世[旧]』も基本なんで、全部観てほしい。作画も勿論凄いんだけど、最近思うのは、画作りにしろストーリーにしろ、とにかく『旧ルパン』はアイデアや描写が独創的であり、なおかつ魅力的だったんだ、という事。今になっても延々とパクられたり、「『旧ルパン』に戻ろう」と言われるのは、そういうわけでしょう。単にキャラクターが魅力的だったとか、作画がよかったとかいう事だけではない。宮崎(駿)、高畑(勲)、さらには吉川(惣司)、出崎(統)と、当時の東京ムービーとしては考えられるスタッフが全て投入されているよね。作画だけでなく、演出もいいところが多い。「狼は狼を呼ぶ」の時のカットバックなんかも凄いよね。
井上 五右ェ門再登場の回ですね。いいよね。
小黒 ああいうセンスは、後の作品は受け継いでないよね。で、次が『巨人の星』の83話。
井上 83話って何?
小黒 花形のホームランです(83話「傷だらけのホームイン」)。
井上 ああ、はい。それがきましたか。
小黒 これを最初にしてもよかったぐらい。インパクトがあるし、この1話だけ観ても凄い事が分かる。あの突出ぶりは匹敵するものがないんじゃないか。作画もドラマも、ひとつの回があんなに異様に高まった例は他にないんじゃないか。
井上 そうだね。あの荒木伸吾さんの作画って、原画が素通りで画面になったわけじゃないでしょ。間には演出もいれば、動画マンもいて、トレーサーもいる。誰かが、「これは、放映しても大丈夫なのか」って問わなかったのかなあ(笑)。
小黒 あの回は斎藤博さんと荒木さんの2人で描いているんだよね。斎藤さんが第1原画で、荒木さんが第2原画だって聞いた事がある。
井上 あの辺の濃さは荒木さんによるところが多分大きいんじゃないかなあ。第1原画と言っても、斎藤さんが描いたのは、多分、今で言うレイアウトにつけるキャラクターのラフみたいなもので、実際の原画に近いのは荒木さんがやってるんじゃないかと思う。
小黒 花形のバッティングの、あの異様なバランスは荒木さんのものでしょう。
今石 異常ですものね。
小黒 人間の形をしてないからね。あのフォルムは『あしたのジョー』から『聖闘士星矢』まで続く、荒木さん独特のものだから。
井上 ジャガードの作画って完成されているのにびっくりするよね。全然破綻もしていない。
小黒 『巨人の星』の83話って、ドラマのテンションと作画のテンションと演出のテンションが見事に合って、最終回としか思えない仕上がりになってしまう(笑)。作っている人が興奮して作っているのが、観ていてもよく分かる。
今石 間違いなく興奮してますね。
小黒 83話はとにかく観ましょう。日本人に生まれてアニメを観てるからには。で、何か得るものがあったら、遡って1話から順に観てね。で、他のジャガードの回とか、Aプロの作画とかもチェックしましょう。『巨人の星』は内容に関しては、演出の派手さが話題になる事も多いけど、ドラマもかなり見応えがあります。特に大リーグボールを編み出した後ね。
―― 次が『三千里』ですね。
小黒 うん。『三千里』は演出という点で外せない。
井上 『三千里』は作画的にもポイント高いよ。
小黒 とにかくトータルでよくできている。よくこれを週に1本作ったな、と思う。これも全話観るのはしんどいかもしれないけれど……。
井上 いや、全話観てもらいましょう。さっき俺は「作画以外は眼中にない」と言ったけど、この作品では、やっぱり演出のよさは無視できない。それも含めて、通して観るべきだね。
小黒 そうですね。はい。
今石 僕、『三千里』はまだ観てないんですよ。
井上 あらま。
小黒 それはいかんなあ。
今石 僕は、名作ものは全然観ていなくて、ここ何年かで『アルプスの少女 ハイジ』と『赤毛のアン』を初めて観たんですよ。『アン』を観た時は「世の中にこんな面白いアニメがあったのか」と素直に思いましたけど(笑)。
井上 作画的な面でも、作品としての完成度の面でも『三千里』の方が上だと思うよ。
小黒 『三千里』は高畑さんの最高峰のひとつですかね。
井上 うん。奇跡的な仕上がりだと思う。
今石 うーん、じゃあ、次は『三千里』をDVDで買おうかなあ。
小黒 で、『コナン』『ガンバ』『ヤマト』。これはアニメファンの基本だと思うので。
井上 そうですね。
今石 それはもう、やむをえんですね。
小黒 3本とも全話観ましょう。
井上 このあたりはね、小黒君が選ぶだろうと思って、あえて私は選んでません。
小黒 『ヤマト』はもしかしたら、今の若い人にはつらいかもしれない。
今石 微妙ですよね。『コナン』『ガンバ』は大丈夫だと思うけど。
井上 『ヤマト』はかなり想像力働かせながら観ないと。当時の状況を想像してほしいね。
小黒 『ゲッターロボ』や『グレートマジンガー』なんかと同時期に作られたわけだからね。メカをメカらしくじっくり描くだけでも凄かった。『ヤマト』と『ガンダム』が、現在のアニメの基本を作ったようなものなんだから。あと、今『コナン』を観る時には、高畑さんが演出した回の、作品のムードの変化なんかも気にしながら観てもらえるといいかもしれない。『ガンバ』は普通に観ても面白いけど、虫プロとAプロの個性と技術が融合したという歴史的価値や小林七郎の初期の代表作だという点にも留意して観てもらいたい。とにかく観て損はないので、観よう。で、劇場版『999』ですが、これまた名作中の名作だと思います。それから劇場版『イデオン』も。
井上 すいません、私は、劇場版『イデオン』はまだ観てません。
小黒 おお、井上さんともあろうお方が。
今石 僕も『発動篇』は入れようかどうしようかで悩んだ。
小黒 ちなみに今石君、この前『アベノ橋魔法☆商店街』の3話で『伝説巨神イデオン』の「神」の字が間違ってなかったか。
今石 間違ってました? あ、そう言えば「人」になってましたね。
―― あれってよく間違えられるから、それをネタにして、わざと間違えたのかと思ってたんですが(笑)。
今石 いや、いくらなんでも、そこまでは濃くないです(笑)。
小黒 それはともかく、『イデオン』は、今もって富野(由悠季)さんの最高峰のひとつでしょう。個人的には『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の方が好きだけど、まあ若い人が観る分には劇場版『イデオン』じゃないかと。
井上 最近、ケーブルTVでTVシリーズをやっているのをチラチラ見て、こんなに面白かったのか、とは思ったんだけど。
小黒 『999』はなるべくだったら若いうちに観てもらいたいね。
今石 ああ、そうですね。小学6年とか中1ぐらいで。
井上 俺は高校で観たんだけど、感動しましたよ。
小黒 僕は前の年の夏に公開された『さらば宇宙戦艦ヤマト』で泣いたんで、今年は泣かないぞと思って観に行ったんだけど、結局泣いちゃった。
井上 普遍的なよさがあるよね。
小黒 作画的には、友永(和秀)、金田(伊功)だけじゃなくてスタジオバードも観てほしい。
井上 そう、作画マニア的にも観どころは多い。
小黒 友永さんはメカもいいけど、ハーロックの変な歩き方も。
井上 えっ、変じゃないですよ。好きですよ。初めて左右に揺れたんだから。
今石 「初めて左右に揺れた」(笑)。いいセリフですね。
井上 つまり、人物がゆっくり歩く時、体重移動で左右に揺れるんだ、っていうのをやったんだよ。左右に揺れて歩いたのは日本のアニメで初めてのような気がする。
小黒 時間城が崩れるところは金田さんですよね。
井上 確認した事はないけど、金田さんだと思うよ。
小黒 エンディングのスタジオバードの作画もいいよね。稲野(義信)さんの。
井上 兼森(義則)さんが描いたお母さんが死ぬシーンもいいよ。兼森さんの端正な作画が美しい(あくまで、俺の推測ですが)。
小黒 で、『ロボットカーニバル』は色んなものが観られて面白いよ、と。インパクトがあるのは梅津さん。作画マニア的には、福島さんのや森本さんのもポイントが高い。「森本さんの作画はこれだよ」と観せやすいのは、『ロボットカーニバル』じゃないかな。
井上 いや、俺は違うな。劇場の『コブラ』でもいいんだけど、TVの『スペースコブラ』がいい。ただ、これは観た順番によってインパクトが違うみたいで、北久保(弘之)は熱烈に劇場『コブラ』を支持するんだ。でも、俺はTVの1話。
小黒 なるほど。『ロボットカーニバル』の話に戻すと、『ロボットカーニバル』全カットで最後に上がった1カットが、梅津さんのスカートのひだが広がるカットなんだって。
井上 あの執着は、あきれるくらい凄いよね。
小黒 あの時代のあのラインの作画としては最高峰でしょう。それから、濃密な作画と、ストーリーがマッチしているのもいい。
井上 でも、俺は、梅津さんだったら『時空の旅人』のイントロを押すな。あっちの方が梅津さんのよさが際立っていると思う。
―― 『迷宮物語』も、『ロボットカーニバル』と同様にオムニバスですね。
小黒 『迷宮物語』も観て損のない3本立てです。
井上 どの1本も凄いよね。
小黒 これを観て「話がないからダメだ」と言われると困る(笑)。
今石 そういう問題じゃないですよね。
小黒 セル画とフィルムでここまで作ってるって事も含めて観てほしい。で、川尻さんは『妖獣都市』にしようか『VAMPIRE HUNTER D』にしようか考えたんだけど、まあ話としてたっぷりしてるという事と、スタイリッシュさで『妖獣都市』を選びました。特に、蜘蛛女に注目してね。あれって、多分、1コマで動いてるのは1カットか2カットしかないんだけど、全体の印象とすると全部1コマで動いているように見えるんだよね。
井上 1コマの上手い使い方だよね。
小黒 『VAMPIRE HUNTER D』を観る時に、『妖獣都市』を頭にインプットしていると、あるキャラクターが出た途端に「あっ、こいつはきっと1コマで動くぞ」って分かる(笑)。『パトレイバー2』は、アニメで映画をやるっていうのは、こういう事だ、と。それから“レイアウトアニメ”のひとつの典型ですね。“レイアウトアニメ”は『デジモンアドベンチャー 僕らのウォーゲーム』なんかもあるけど、こっちは、きっとみんな言わなくても観るだろうから。
―― そんな事はないんじゃないですか?
井上 うん、ないと思う。事あるごとに言っとかないと、本当にあっと言う間に歴史の中に埋もれていくよ。
小黒 そうかあ。だったら、他のレイアウトアニメとして『三千里』の2話と『新・ど根性ガエル』の1話も推しておきます。
―― 『ど根性』じゃなくて、『新・ど根性』なんですか。
小黒 うん。レイアウトだったら『新・ど根性』の1話。それもAパートね。『新・ど根性』はレンタルでも観られるしね。『DOWN LOAD 南無阿弥陀仏は愛の詩』は、今石君も選ぶとは思うけど、今レンタル店で借りられるもので、金田アニメが満喫できるものはこれかな、と。
今石 1本丸々っていう意味では、そうですね。
井上 田中(達之)君なんかが、爆発してるしね。「田中達之ここにあり」って感じで。
今石 柳沼(和良)さんもやってますしね。
―― 柳沼さんは、どこをやってるんですか。
今石 最初(葬式のシーン)と、あと船の中をバイクで暴走するところ。
小黒 何と言うかバカバカしい感じがいいよね。天下のりんたろう監督があれを作ったというのもまたいい。
今石 ええ、あそこまでイッていれば、グーですよ。
小黒 僕としては『BIRTH』って、もうちょっと、おバカな方がうれしかったな、という思いがあるからね。さらに、金田でりんたろうで小山茉美という点も……。
今石 マニア的には押さえるポイントですね。
小黒 で、次。『フリクリ』というアニメがあるんですよ、今石さん。
今石 ああ、そうなんですか(苦笑)。
小黒 なかなかいいんで、これも観てほしい。近年のアニメとしては内容的にも飛ばしっぷりという事でも、作画的にも、損はないのでは。『人狼』は、何度も言うけど、正統派の作画としては現状の最高峰でしょう。観て損はないと思います。……おや、井上さん、首を捻ってますね。
井上 いやいや、自分が手がけたものだから客観的に評価できないんだよね。
小黒 井上さんや沖浦さんの作品としては、『MEMORIES』も考えたんだけど、『迷宮物語』と並べるとかぶっちゃうんで控えました。最後に『マジンガーZ対暗黒大将軍』。まあ、これはロボットアニメの傑作として押さえておいてしかるべき作品。
―― 番外として『少女革命ウテナ』を挙げていますが。
小黒 これは手前味噌って事で番外。演出ってものを考える上でちょっと面白いんじゃないかと。
井上 これもちゃんと観てないんだよなあ……。ちょっと観ると次が観たくなるんだけど。
小黒 何かが起きそうな感じがするんだよね。
今石 ひたすら何かが起きそうな雰囲気が続くって感じで。
井上 それが出るだけでも凄い。
今石 そういう雰囲気が味わえる。
小黒 あとの番外の3本は、これまた作画マニア的にはぜひとも観たいものなんだけど、ビデオになってないものなので外した。というわけで、ビジュアル寄りでしたが「アニメマニアになるために観てほしい20本」でした。
―― ご苦労様でした。何か付け加える事は?
小黒 これを手がかりに、例えば『ホルス』を観てから『空飛ぶゆうれい船』を観るとか『長靴をはいた猫』を観るとか、あるいは『コナン』を観たら『(ルパン三世)カリオストロの城』を観るとか、『ガンバ』を観たら劇場版『エースをねらえ!』を観るとか、そういうふうに同じスタッフの別の作品を観ていってもらえれば嬉しいな。
井上 そうだね。最近は追求する気持ちが薄いのか、追っかけて観ないんだよね。押井守のある作品が好きでこの世界に入ってきたのに、他の作品は観てない。そういう人がいるんだよ。俺には考えられないなあ。押井守が気に入ったんだったら、押井さんの作品を全部観よう。
今石 ああ、いますよ。せっかくGAINAXにきてるのに『トップをねらえ!』を観た事がない。
井上 それって不思議だよね。
小黒 もったいないよね。作った人がせっかく周りにいるのに。
井上 その辺の淡白さは、なんなのかな。豊かすぎるのかもね。我々の時代は探している本がなければ延々探し回ったよね。
小黒 観たい作品があると、遠くの上映会まで行ったりね。
今石 探すのが楽しかったりするわけじゃないですか。
井上 当時はやっぱり、なかなか観られないものが多かったから。どうしても観たい。そういう気持ちが今の時代には持ちにくいのかな。
小黒 飽食の時代なのかもしれない。僕らは、アニメに対する飢餓感みたいなのが、いまだに歳をとってもあるんだけど。
―― それでは、次は今石さんが選んだ20本をお願いします。
 

■「第2回 井上・今石・小黒座談会(2)」へ続く

(02.06.21)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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