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―― 「アニメマニアになるためのベスト20」。今回は演出家対談です。
佐藤 でも、マニアにも色々あるじゃない?
片渕 「マニアってなんなんだよ?」って話から始めると、面倒ですよね。
―― そんなに堅苦しく考えないでください(苦笑)。最近は、ちょっと突っ込んでアニメを観ている人が少ないと思うんです。だから、そういう人を、とりあえずここでは「マニア」としましょう。僕達が中学、高校の頃は、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』でアニメが好きになった人間も、学園祭や上映会で、東映長編や『せむしの仔馬』なんかを観たわけですよね。でも、今の若い人達が同じような事をしようにも、まず物量に負けてしまうと思うんです。
片渕 確かに「なんでアニメーションが今この姿になっているのか。それはここでこういう作品があったからだ」という分岐点が分かるような物があった方がいいかもしれないね。
佐藤 そのあたりを若い人に知らしめたい?
―― そこまで言わなくとも、単純に昔のものを観るときに指針がないですよね。そのあたりをフォローしていただければと思うんです。という事で、まずは佐藤さんから。
佐藤 俺は「画を描きたい」「フィルムを作りたい」と思い立ちそうなものを挙げてみたつもりなんだ。でも、TVアニメが少ないから困ってる(苦笑)。
―― ほうほう。かなり個性的ですね。
●佐藤竜雄(演出家)が選んだ 「フィルムが作りたくなる20本」(年代順)
『ダンボ(Dumbo)』(1941)ベン・シャープスティン ※ピンクエレファントのくだり
『線と色の即興詩(Blinkity Blank)』(1955)他、ノーマン・マクラレンの一連の作品
『こねこのらくがき』(1957)森やすじ
『お嬢さんとチェロ弾き(La Demoiselle et le Violoncelliste)』(1962)ジャン=フランソワ・ラギオニ
『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)芹川有吾
『イエロー・サブマリン(Yellow Submarine)』(1968)ジョージ・ダニング
『ファンタスティック・プラネット(La Planete Sauvage)』(1973)ルネ・ラルー
『小さな五つのお話』(1975)岡本忠成
『霧につつまれたハリネズミ(Ежик в тумане)』(1975)ユーリ・ノルシュテイン
『POWERS OF TEN』(1977)チャールズ・イームズ&レイ・イームズ
『ビーズ・ゲーム(THE BEAD GAME)』(1977)イシュ・パテル
『ザムザ氏の変身(The Metamorphosis of Mr. Samsa)』(1977)キャロライン・リーフ
『ハーピア(Harpya)』(1979)ラウル・セルヴェ
『じょうぶなタイヤ』(1980)庵野秀明
『クラック!(CRAC!)』(1981)フレデリック・バック
「ロッテ 小梅ちゃん」シリーズ(1983)白組
『Take On Me』(1985)スティーヴ・バロン
『銀河鉄道の夜』(1985)杉井ギサブロー
『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992)芝山努 ※音楽シーン
『すごいよ!マサルさん』(1998)大地丙太郎
番外
『ねこぢる草』(2001)佐藤竜雄
佐藤 自分で言うのもなんだけど、『ねこぢる草』を作った人としては、こういうものかなと思うんだけど、『機動戦艦ナデシコ』作った人がこういうチョイスなのはいかがなものか(苦笑)。
―― いえいえ。中に『すごいよ! マサルさん』が入ってるところが、イカしますよ。
佐藤 とりあえず、どれも、観ればアニメが作りたくなるんじゃないかなあ、と思うんだよ。最近はCGが使えるから、割とアニメ制作に手を出す人が多いんじゃないかと思っていたんだけど、そうでもないよね。
片渕 絶対数は多くなっているのかもしれないけど、みんな作る態度が真面目すぎるかもしれない。以前、8ミリで撮っていた頃の方が、みんな気楽に作っていたような気がするね。
佐藤 CGだと、かなりちゃんと作れちゃうから。
片渕 そう、ちゃんと作ろうとしちゃうんですよね。なんかもっと、いい加減なものを作ってたような気がする、昔は。一発芸みたいなのとか、しりとりアニメとか。昔のPAFだと、シネカリだけで20分というようなものがあったんですよね。
佐藤 シネカリだと結構、有名なやつがありましたけど、なんでしたっけ。
片渕 二木(真希子)さんのやつでしょう。あれは技術的にも凄いんだけど、そういうものには敵わないから、長さで競おうとしたんですよ(笑)。そういうおバカなものがいっぱいありましたね。CGって結構、みんな真面目に作ってる気がするんです。
佐藤 テーマとか考えちゃってるみたいな。そういう事も踏まえて、割と気楽に観て、触発されそうなものを選んできたつもり。
―― この中で、今観られるものって、どれでしょう。『イエロー・サブマリン』はDVDが出てますね。
佐藤 『POWERS OF TEN』もDVDで出たばかりだよ。
片渕 『こねこのらくがき』はレンタルで観られると思うよ。それから、『ちびまる子ちゃん』もレンタルできるよね。
―― 『ファンタスティック・プラネット』『ハーピア』も観られますね。『小さな五つのお話』はソフトになってるんですか。
佐藤 LDの「アニメーション・アニメーション」シリーズで、出ているよ。もうちょっと観られるやつを選んできたらよかったのかな、とは思ったんだけどね。
―― 少し解説してもらえますか。
佐藤 とりあえず自分で作りたくなるようなものというのかな。全体として、「マニアになる」というのはすっぽり抜けているかもしれないけど。
片渕 いやいや、これもこれでマニアですよ。
佐藤 テーマ性よりは、パッと見た目で変わった手法のものを選んだつもり。テーマと手法が一体になったものも多い。そういうものの方が、ある意味入りやすいんじゃないかと思うんですよ。今は、アニメを観る時に、映画的な解釈を自分に強制しなきゃいけない、という構えの人が意外と多いんですよね。
片渕 そうですね。だから、「俺には、アニメはできないなあ」と思って、作るのを諦めて、とりあえず「萌え」みたいな方向に受動的に向かうのかも。
佐藤 実際には、テーマを追いかけるなんていう事は、表現を楽しんで観ているうちにできていくようになるものなんですけどね。色んな映像を観ないうちから、いきなり高度な事をやろうとしてくじけてしまっているような気がする。最近は、みんな敷居を自分で高くしてるのかな、と。
―― なるほど。
佐藤 だから、ここでは画づら重視で選んでみたんだ。ある意味イッちゃってるものばっかり。『マサルさん』もイッちゃってるって言えば、イッちゃってるし。ノーマン・マクラーレンの作品は、ひとつひとつ名前を挙げるのが面倒なので、「一連」と。
―― それでもあえて、挙げるとすれば?
佐藤 『線と色の即興詩』かな。シネカリのやつ。みんなは割と『隣人』を挙げるんだけど、俺はこっちかな。それから、『クリスマス郵便はお早めに』もいいね。
―― 『ダンボ』はシーンの指定がありますけど、どういうシーンなんですか?
佐藤 これは、ダンボが酒呑んで酔っ払う。そうすると、頭の中でピンクの象が踊るんだ。それで、ダンボがおかしくなって飛び回る。もう、クスリを一発キメて作ったとしか思えないシーンなんだよ。
片渕 「イージー・ライダー」の頃とかに本当にそんなふうに観られてたらしいね、アメリカで。もの凄くトリップしてるって。
佐藤 ディズニーでも『ファンタジア』を推すよりは、とっつきやすさではこちらかな、と。音楽に上手く乗っているとか、イラストチックな画風を上手く活かしてフィルムにしてるとかいう点もいい。『ちびまる子ちゃん 私の好きな歌』に関しても『ダンボ』と一緒だね。
―― ミュージッククリップ仕立ての作品ですね。あれは見応えもありますよね。
佐藤 音楽シーン、中でも湯浅(政明)君と船越(英之)さんがやってるところがいい。強いて言うと、湯浅君の「1969年のドラッグレース」。それから、『じょうぶなタイヤ』は、これはある意味、基本だね。カット割りするのではなく、描き送り的にワンカットで最後まで続いていく。そこがいいんだよね。
―― 『じょうぶなタイヤ』って、どうやって観たらいいんでしょうね。
佐藤 ははは、そうだね。あれは、以前、庵野(秀明)さんが深夜番組に出たときに流していたから、観られるんじゃないかな(笑)。ここまで徹底してしりとりアニメを作ろうって人は、最近じゃ、あまりいないかもしれないね。
―― 『Take On Me』というのは何ですか。
佐藤 a−haの『Take On Me』という歌のプロモーションフィルムがあるんだよ。実写の人物が、画の中に入っていく、っていうやつ。今なら、CGで簡単にできてしまうかもしれないけど。その『Take On Me』に触発されたのか、同じような趣向のものが、日本のCMなんかでも出たんだよね(佐藤注:「キリンビバレッジ シャッセ」1993、白組)。
―― えーと、画の中の人間と実写の人間が手を引っ張り合ったりするやつですか。
佐藤 そうそう、画の中からおいでおいで、って人が誘って。
―― ああ、観た事があります。『ハーピア』は鳥のやつでしたっけ。
佐藤 そうそう。ラウル・セルヴェは画も面白い。『人魚』っていう作品もあって、白と赤の使い方が非常に印象的なんだよ。人魚が出てきて青年と恋をするんですけど、科学者が出てきて「人魚なんていねえんだよ!」って感じで解剖したあげくに死んじゃった、っていう、身も蓋もない話なんだけどね。ああ、本当はもうちょっとTVアニメなんかを入れておけばよかったな。すいません、挙げていくうちに、20本埋まってしまいました(苦笑)。
―― 『POWERS OF TEN』って何でしょう。これも知らないんですけど。
佐藤 これはどちらかと言うと、実写に入ってしまうのかもしれない。科学アニメと言うか、科学映画。最初、芝生の上に寝ている人物の俯瞰から始まって、カメラがずっと寄っていったり、逆にずっと寄っていったりする。寄っていくと、細胞のアップになっていって……引いていくと、今度は宇宙空間へ……。
片渕 コズミック・ズーミングってやつですよね。
佐藤 ええ、そうです。要するに10倍、10倍で、倍率を上げていくんだよ。
―― ああ、観た事あります。あれはそういうタイトルだったんだ。
片渕 俺も、今の今まで忘れてました。
佐藤 作った人は、建築家なんだよね。
―― 佐藤さんは、自主制作が多くなるのかな、と思っていたけど、こんなに海外のものが多くなるとは思いませんでしたよ。
佐藤 いやあ、海外のもある意味、自主制作みたいなものだから。
片渕 俺のも、実は似たような傾向なんですよ。
―― もう少し、東映長編なんかが入ってくるのかと思ってました。
佐藤 いやあ、それはみんなが選ぶと思ったから、外してしまった(笑)。
片渕 俺も、東映長編からあえて選ぶなら『少年ジャックと魔法使い』になってしまうなあ。
佐藤 学生の時、初めて観て「なんだこりゃ」と思ったんですけど。時間経ってから観ると面白いですよね。
片渕 こちらは、公開当時に観たものだから、凄く記憶が焼きついてる。子供でしたからね。大人になってから観たときは、「なんだこりゃ」と思ったんですけど。だけど、あれはあれで結構テーマ的には「イケてる」と思うんですよ。つまり、アイデンティティの問題でしょ。一種、「存在」の狭間に立つという、そういうテーマのはしりなんじゃないかな、と思うんです。
で、そういう「はしり」で言うと、挙げたいのが、『九尾の狐と飛丸』ですね。これは東映動画を辞めた人達が作った映画だけれど、そんなことはどうでもいい。少年と少女がいて、少女とは実は九尾の狐の化身にしかすぎないんだけれど、本人はその事に気づいていない。で、九尾の狐に戻ると、少女の実体はなくなってしまう。その実体のないものを少年が追いかける、というとんでもない話。今観ると面白いかどうかは分からないけど、その当時の記憶で言えば、アイデンティティの部分をくすぐられるんですよね。「私ってほんとはなんなんでしょう」みたいなところね。
―― ああ、『ホルス』から『エヴァンゲリオン』まで連綿と続くヤツですね。
片渕 ただ、この作品は『ホルス』より前なんですよね。そういう意味では、「評価しろ」と強制はしませんが、先駆的な作品ではあると思う。
佐藤 『九尾の狐と飛丸』って、図書館でも、16ミリフィルムの貸し出し目録には載ってますけど、実際には置いてなかったりするんですよね。
―― 佐藤さんのリストの話をもう少し。『お嬢さんとチェロ弾き』というのは?
佐藤 これは、ジャン=フランソワ・ラギオニの作品。実は、『ねこぢる草』を作る時に思い描いたイメージの元になった作品なんだよ。浜遊びをしていたお嬢さんに、チェロ弾きが曲をプレゼントするんだけど、曲が大盛り上がりになって海も大荒れ。大波に襲われて、2人とも海の底。で、延々と2人が海の中をさまよっている、という。
―― 技法的には面白いんですか?
佐藤 まあ、切り紙アニメなんで、オーソドックスと言えばオーソドックス。ただ、ちゃんとしたアニメートではなくて、人形っぽい感じで動いているから、そこは面白いかな。
―― 変わった作品が並んでいる中で、『銀河鉄道の夜』は普通のアニメですね。
片渕 あれは、普通なのかな? 普通の長編アニメーションじゃないと思うんですよ。
佐藤 そうですね。あれは、杉井ギサブローさんが、各シークエンスごとにコンテをバラバラに振り分けて、あとで、シャッフルした上でまとめているんだよね。その作り方が、凄く上手くいっている。最後の「カンパネルラー!」だけ観ていると、普通のアニメっぽいんだけど。
―― あそこで普通のドラマツルギーになりますね。
佐藤 そうそう。でも、ある意味、とってつけたような(笑)。あのまま終わらせるわけにはいかなかったんだろうね。『ストリートファイターII』の終わり方とも、ダブるところがあるんだよね。テーマが似ているというんじゃなくて、なんとなく付けちゃうところが。そういうところが、杉井さんぽいかもしれない。
―― じゃあ、『銀河鉄道の夜』は観るべきところが多いんですね。
佐藤 そうだね。『銀河鉄道の夜』は、通常のアニメーションの手法を使ってはいるんだけど、でき上がりは微妙にズレている。それがいいのかもね。それだけに「カンパネルラー!」が浮くのかもしれないけど。
―― あのために、淡々と続けたという言い方もできるでしょう。
佐藤 そうかもね。銀河鉄道に乗ってからの話も好きなんだけど、俺は、銀河鉄道に乗る前の、牛乳屋や活字を拾っている場面が好きなんだ。杉井さんらしくてね。
―― 杉井ギサブローさんって、作品は有名ですが、作家としての個性の部分はあまり話題になりませんよね。
佐藤 『飛べ! イサミ』のオープニングなんかも、いいと思うんだけどな(笑)。
片渕 いや、やっぱり『悟空の大冒険』ですよ。あれの何が凄いって、『鉄腕アトム』の後番組でしょ? 『アトム』を子ども心にも熱心に観て来た後で、後番組にあれがきたんですからね。
―― ああ、なるほど。そういう評価は思い当たりませんでした。佐藤さんで、もうひとつ、『わんぱく王子』はどうして入ってるんですか?
佐藤 アマノウズメのシークエンスをプッシュしたいんだよ。それ以外もいいんだけどね。基本的には平面なんだけど、立体的でもあるという、かなり画的に面白いじゃない。お話も画の邪魔にならない感じで潔いし。
―― お話は意外に理屈っぽいですよね。
片渕 話のまとまりとしてはそうなんですけどね。ただ、ひとつひとつのシーンが分断しているでしょう。だから柱は何も通ってないと思った方がいい。ただ、それぞれの表現は凄いですよ。
佐藤 串団子みたいな作りですよね。で、串が透明な感じかな。強いて言うと母恋ものなんだけど。
片渕 でも、母親はどうでもいい事になっているからね。
―― もう彼女ができたから母さんはいいや、みたいな感じですからね。乳離れの話なのかも。
佐藤 遠くの母より、近くの彼女、みたいな感じだね。というと、『ジャングル・ブック』みたいな話だけど。
片渕 そうですね。
―― 『ねこぢる草』が番外に挙がってますが。
佐藤 一応、ちょっと括弧つきで入れておこうかな、と。まあ、こうしたラインナップの果てに『ねこぢる草』がある、と。
―― そういった作品の影響下にある、と?
佐藤 というか、単純に、こういうものが好きな人は、『ねこぢる草』みたいな作品を作るんだなあ、と思ってもらえれば。
―― このリストを見ると、佐藤さんは、こういうものばかり観てきたようですけど、そうなんですか?
佐藤 いや、それは当然他にもたくさん観てるよ。『ど根性ガエル』の「かんかんアキ缶」も好きだし。
片渕 ああ、言われてしまった(笑)。こちらでもリストアップしておいたのに。
佐藤 その話をすると芝山(努)さんは、苦笑いするんですよね。「『ど根性』はかんかんだけじゃないよ」って。どうも、みんなに言われるらしいんですよ。ほら、亜細亜堂には、『ど根性ガエル』が好きで入ってくる人が結構多いから。
片渕 あれはほんとに先駆的なんですよ。ソフトがあるならぜひ観てほしいよね。
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