アニメ様365日[小黒祐一郎]

第137回 『CRUSHER JOE』

 原作の話から始めると、アニメ化される前から「クラッシャージョウ」は読んでいた。「クラッシャージョウ」シリーズは、高千穂遙の連載小説で、安彦良和がイラストを担当している。『無敵超人ザンボット3』を初めて観た時に「あれ? 主人公達の服のデザインがクラッシャージョウに似ている」と思った。前後関係で言えば『ザンボット3』の方が先で、そのデザインを「クラッシャージョウ」に流用したらしいが、僕は先に「クラッシャージョウ」に触れていた。僕が初めて原作シリーズを手にした時、「クラッシャージョウ」シリーズは、すでに数巻が刊行されていた。刊行データをみると、僕は1978年に「クラッシャージョウ」を読み始めたようだ。
 僕の認識では、1978年頃には中学生くらいの男子が読むような小説はあまりなく、ましてや、アニメファンが喜びそうなタイトルは少なかった。背伸びして大人が読む本に手を出したり、松本零士がカバーイラストを描いているという理由でC・L・ムーアのスペースオペラを買ったりしていた。翌年には、『機動戦士ガンダム』と関係があるらしいと知って、ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」を読んだ。そんな中、「クラッシャージョウ」は、僕達の好みにフィットしたシリーズだった。最後に読んでから30年も経つので記憶が曖昧になっているが、軽快さや、若々しいノリに惹かれたのだと思う。背伸びしないで、気軽に楽しめる小説だった(余談だが、僕が「クラッシャージョウ」を読み始めた頃、新井素子がデビューしており、彼女の作品を読んで「ああ、これは僕達の世代の小説だ」と思った)。
 その「クラッシャージョウ」が映画化される事になった。監督は、劇場版『機動戦士ガンダム』を終えた安彦良和だ。彼にとっては初監督作品であり、脚本(高千穂と連名)、キャラクターデザイン、作画監督も兼任している。高千穂遙は、公開前からマスコミで「これはB級映画として作っている」と発言しているし、安彦良和も、大感動のドラマやメッセージはない、楽しんでくれればそれでいい、と語っている。こちらも原作からしてアクション主体の娯楽作である事は分かっていたので、あまり身構えずに観に行った。安彦良和の画がたっぷり観られるのも楽しみだった。
 クラッシャーとは、危険任務を生業とした「宇宙のなんでも屋」だ。クラッシャーのジョウ、アルフィン、タロス、リッキーの4人組は、この映画では、マーフィ・パイレーツと対立する事になる。実際に映画を観て「あれ?」と思った。辻褄が合わなかったり、呆れる個所があったわけでもない。だけど、あまり面白くはなかった。ワクワクしたのは、オープニングくらいだったはずだ。例えば、クライマックスで、ジョウ達はマーフィの宇宙要塞に突入。敵幹部の1人がパワードスーツを着て現れて、ジョウ達の戦車のようなメカと一騎打ちになる。どんな派手な展開になるのかと思ったら、ジョウ達はパワードスーツを壁にぶつけて、力まかせに悪党ごとペチャッと潰してしまう。この場面が一番印象に残っている。B級アクションに残酷な描写があるのは構わないけれど、残酷なばかりで痛快さはない。他の部分も同様で、スカっとするところはほとんどなかった。しかも、最後に、全てがジョウの父親によって仕組まれていた事が分かる。父親の手のひらの上で、ジョウ達は踊っていたわけだ。そういったストーリー構成も、スカっとしなかった原因だ。
 画に関してはよくできていた。安彦良和が全カットの第一原画を描いたのだろうと、ずっと思っていたけれど、当時のアニメ誌の記事を読み直してみたところ、他にも第一原画を担当したアニメーターがいたようだ。いずれにしても、ほぼ全カットに安彦良和の手が入っており、乱れはない。ではあるが、物語面の不満を解消するほど、画に魅力があったわけでもない。1カットごとの魅力で言えば、劇場版『機動戦士ガンダム』の新作カットの方が上だった。『機動戦士ガンダム』で彼の画が輝いていたのは、富野由悠季の演出との相性によるものだったのかもしれない。
 改めて『CRUSHER JOE』を観返すと、あまりに長いので驚いてしまう。決して複雑な話ではないのに、2時間12分もある。DVDの解説書には高千穂遙と安彦良和の対談が掲載されており(LD BOX解説書に掲載されたものの再収録だそうだ)、最初は2時間30分くらいの話になりそうだったのを、刈り込んでこの時間にしたというエピソードが語られている。その対談で、高千穂遙は「でも、まだぜんぜん刈り込みが足りなかった」「あれはまだ切れます。切ったら、もっとずっといい作品になる」と発言している。原作者も適切な長さだとは思っていないようだ。それから観返して、演出的な押し引きが弱いな、とも思った。「これからどうなっちゃうんだろう」と観客に思わせるような作りになっていない。
 解説書の対談によれば、監督が決まらないまま、2人で脚本を進めたとある。アイデアを出し合って、高千穂が箱書きを作り、安彦が初稿を書き、それに高千穂が手を入れて決定稿にした。脚本が上がった段階で「安彦さんが監督をやればいいじゃない」という話が出て、彼が「あ、俺が監督という手もあったんだ」と言ったという。ただし、これは高千穂遙の記憶であり、安彦自身はその経緯を覚えていないようだ。いずれにしても「これは俺の監督作品だ」という意気込みで、スタートした企画ではなかったのだろう。
 安彦良和は『CRUSHER JOE』の後も、監督作品を発表していく。実は、スカッとしない印象は、彼の作風と関連したものだったのだが、それが分かるのは他の監督作品を観てからになる。

第138回へつづく

クラッシャージョウDVD COMPLETE BOX

カラー/252分/ステレオ/ドルビーデジタル/片面1、2層/4:3
収録作品: 「クラッシャージョウ」 劇場版
「クラッシャージョウ ―氷結監獄の罠―」
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価格/15750円(税込)
発売元/バップ
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(09.06.02)