アニメ様365日[小黒祐一郎]

第149回 手分けしてアニメ録画

 1983年に始まった新番組で、僕が全話録画して、コレクションとして残した作品は『未来警察 ウラシマン』と『聖戦士 ダンバイン』だった。『愛してナイト』と『魔法の天使 クリィミーマミ』は途中から毎週録画するようになった。どうして『装甲騎兵 ボトムズ』『銀河漂流 バイファム』『超時空世紀 オーガス』『機甲創世記 モスピーダ』といったアニメファン注目のタイトル(それにしても、この時期はロボットアニメが多い!)を録っていなかったかというと、友達が録画していたからだ。
 まだまだビデオテープは高額だったし、テープチェンジの都合もあって、一日に何番組も録画するわけにはいかなかった。ただ、この時期には、もう友達の家でもビデオデッキを購入していたので、結果的に、皆で分担して録画するようになった。新番組が始まる時期になると「お前、あれ録る?」とか「あれって、誰か録るかな?」といった具合に、友達と情報交換をする。それで、仲間の誰かが全話録画するのが分かっているものは、録らなくても大丈夫。後でその友達に観せてもらえばいい。ただ、実際には、録画したものを全話観せてもらった事はほとんどなく、評判のいい回だけを観せてもらう場合が多かった。
 『ボトムズ』や『バイファム』といったタイトルは、友達が録る事が分かっていたので、自分は録らなかった。『ウラシマン』は、『Gライタン』スタッフの新作であり、キャラクターデザインがなかむらたかしだ。僕にとっては大期待作だったので「これは全話録るよ」と、友達に宣言した。『愛してナイト』は仲間内で誰も録っていなかった。『愛してナイト』は同名少女マンガが原作のラブコメディだ。放映が始まってから、だれかが録っておいた方がいいのではないか、という妙な使命感もあって、録りはじめた(録りはじめてから、荒木伸吾が各話作監として参加するようになり、「録画していてよかった」と思った)。同じような理由で、翌年には『夢戦士 ウイングマン』や『OKAWARI-BOY スターザンS』を全話録る事になる。この妙な使命感は、若い人はピンとこないだろう。当時は、まだTVシリーズが全話ビデオソフト化されるような事は滅多になく、自分達で録画して残さないと、二度と観られないかもしれないと思っていたのだ。
 僕は『ボトムズ』は録らないで、裏番組の『クリィミーマミ』を録画するようになった。あれ? じゃあ、『バイファム』の時間はどうしていたんだろう? それが気になって「ザ・テレビ欄 1975-1990」をめくってみた。これは、1975年から1990年の新聞のTV欄を掲載した書籍だ。各年の4月、10月の1週間分のTV欄をチェックできる優れもの。当時の放映状況が素早く確認できるので、「アニメ様365日」を書く上で重宝している。『バイファム』が放映されてる時期のTV欄は掲載されていなかったが、裏番組は分かった。『ストップ!!ひばりくん!』だ。僕は『ひばりくん!』に関しては毎週録画して、出来のいい回だけを残していたのだろう。
 『ストップ!!ひばりくん!』は、江口寿史の同名ギャグマンガを原作にしたシリーズだ。アニメ版は、たまに作画的に突出した話はあったものの、センスのよい原作と比べると、残念に感じる事が多い仕上がりだった。裏番組の『バイファム』がよく出来ていて、面白い事は分かっていたが、ひょっとして、とてつもない傑作エピソードが出てくるかもしれないと思って『ひばりくん!』を録り続けていた。『バイファム』は後で観せてもらえばいいやと思っていた。今思うと、僕のアニメに対するスタンスは、この段階ですでにおかしくなっている。ナチュラルでなくなっているのだ。
 僕達はそんなふうに友達と手分けして、アニメを録画していたのだけど、1本だけ手分けしてないタイトルがあった。友達が録っているのを知りつつ、自分でも録っていたタイトルがあったのだ。それが『ダンバイン』だった。録画仲間はみんな、録っていたんじゃないかと思う。今年のシリーズはパッとしないなあ、なんて不満を言いつつも、やっぱり富野作品に執着があったのだ。

第150回へつづく

ザ・テレビ欄 1975~1990

ティー・オーエンタテインメント/15X22cm/1200円
ISBN: 9784904376072
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(09.06.18)