第168回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』7
50話「マミがいなくなる…」、51話「俊夫!思い出さないで」、52話「ファイナル・ステージ」が最終回3部作だ。優は1年の期間限定で、ピノピノから魔法をもらっていた。50話「マミがいなくなる…」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)で、その1年が終わるのは、6月30日午前5時45分である事がわかる。しかし、7月に香港でマミのデビュー1周年コンサートが予定されていた。マミは、コンサートを6月に国内でやりたいと立花に言うが、今から国内の会場は確保できない。一方、めぐみがマミの様子がおかしい事に気づき、新聞はマミが7月に引退する事を報じた。マミを助けたのは、20話「危険なおくりもの!」で登場したトンガリ王国の王子、呪術師の老婆、38話「ときめきファンクラブ」で登場したハイソサエティークラブの兵藤進ノ介だった。彼らのおかげで、6月に国内でコンサートができる事になる。兵藤が見つけたコンサート会場は、1話でマミがフェザースターの方舟と出逢ったセントラル競馬場だった。この話で、マミ引退を報じた新聞のソースを探るため、かつてマミの敵役だった芸能記者のスネークジョーが活躍している。スネークジョーは、カタギになり、40話「くりみヶ丘小麦粉戦争」で登場したお好み焼き屋の娘と所帯を持っていた。彼女のお腹には、もうスネークジョーの子どもがいたのだ。こういった人間模様を丹念に追っているのも、『クリィミーマミ』の面白いところだ。シリーズ中盤のクライマックスである25話「波瀾! 歌謡祭の夜」、26話「バイバイ・ミラクル」では、美也をはじめとするファンタジー世界の仲間に応援してもらい、マミはNPB歌謡祭で歌う事ができたが、最終回3部作ではトンガリ王国の王子、兵藤、スネークジョーといった人間界の友人達の助けを得て、ファイナルコンサートを実現させる事ができたわけだ。このあたりは、今観ても凝った構成だと思う。
「マミがいなくなる…」は、望月智充演出回だけあって、サービスシーンや映像的な見どころが多かった。ファンの間で話題になったのが、優の入浴シーン。思い切りよくペッタンコな胸が初々しい。他にはマミの水着姿での撮影、水着からの着替えを立花に見られる展開もあり。後藤真砂子の作監修正も素晴らしい。映像的な見どころもいくつかあるが、特に際立っていたのが、終盤にある立花や兵藤達がマミのコンサートについて話をする場面。ほぼ60秒もある長回しのカットだ。部屋の中央にマミを立たせ、周囲に他のキャラクターを配置。マミは黙ったまま立っており、周囲の人物のみが会話をする。実写的に言うと、常にマミをフレームの中心に置きながら、カメラが彼女の回りをグルグルと回転して撮ったカットだ。マミの背後を、他のキャラクターと背景が流れる(実際には、マミを作画で回転させて、背景と他のキャラクターをひたすらスライドさせている)。当然、喋っているキャラクターがフレームに入ると、口パクが動く。カットの構成自体が面白いし、仕上がりも鮮やか。ドラマとの関連で言えば、マミの気持ちと関係ないところで勝手に話が進んでいる事を表現した演出となっている。望月智充はここまでのエピソードでも、作画によるキャラクターの回転と背景のスライドで、カメラが360度回転するカットを作っているが、これが一番成功していた。
続く51話「俊夫!思い出さないで」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/立場良 作画監督/遠藤麻美)では、ファイナルコンサートまでの日々が描かれる。コンサートの日程がズレたので、マミのスケジュール調整が難しくなった。彼女はそれまで夜8時までしか仕事をしない「午後8時のシンデレラ」だったが、木所の頼みを聞いて、それを9時までに延長。一方、俊夫は、自分が謎めいた言葉を録音したカセットテープを発見。それはマミの正体を知ってしまった時に、自分の想いを残したものだったのだ。それを聞いて、彼はマミの正体を思い出しかけ、その事で悩むうちに、自分がマミに憧れるあまり、優を大事にしていなかった事を後悔する。コンサート開始直前、予定よりも早く、フェザースターの方舟がセントラル競馬場に迫っていた。俊夫が思い出しても、方舟がやってきても、優は魔法が使えなくなってしまう。マミは最後まで歌いきる事ができるのか。
最終回の52話「ファイナル・ステージ」(脚本/伊藤和典 絵コンテ/小林治、演出/向後知一 作画監督/河内日出夫)のプロットはシンプル。ファイナルコンサートに始まり、ファイナルコンサートで終わる構成だ。マミはコンサートで持ち歌を次々に披露する。開演前から降っていた雨は、次第に強くなり、立花達は、マミが最後の1曲を歌う前にコンサートを中止にすると言い出す。それを止めたのが、ずっとマミを目の敵にしていためぐみだった。これはちょっと泣けるポイントだ。最後の1曲を歌う前に、競馬場に方舟が飛来し、それを見た俊夫は記憶を取り戻してしまう。マミが方舟に取り込まれ、コンサートは中断。ピノピノは魔法の力を取り上げようとしたが、最後までマミの歌を聞きたいと熱望する観客達の声を耳にして、少しだけ魔法を延長してくれる。涙ながらに、最後の歌をうたうマミ。この歌が終われば、もうマミになる事もないし、ポジやネガともお別れなのだ。全てが終わったコンサート会場。雨の中、俊夫の前にはマミが立っていた。「ポジもネガも、帰っちゃった」という優の言葉に、俊夫は「でも、優がいるさ」と返す。52回の話をまとめるのに相応しい、堂々とした最終回だった。
最終回で驚いたのは、本編ではなくてエンディングだった。エンディングは止め絵で、メインキャラクター達のその後が描かれた。ボジとネガに似た野良猫を拾ってくる優。めぐみのマネージャーに戻ったものの、やはり胃薬を手放す事ができない木所。みどりにはなんと、ガールフレンドができた。優と同じくらいの背格好の美少女だ。これがサプライズ中のサプライズ。しかも、2人が見にきたのは「優とみどりの初デート!」で、彼が優と見たがっていたイルカショーだった。転校していく守。スネークジョーのその後まであり、彼は奥さんとと一緒に、生まれた赤ん坊を哲夫達に見せにきた。立花とめぐみはマスコミを集めて婚約を発表するが、その席上でまた立花が失言したのだろう。ここでも、めぐみの平手打ちをくらう。最後は大人になった優と俊夫で、2人は結婚して、一男一女に恵まれていた。スタッフのキャラクターへ愛情が感じられるエピローグだった。個人的には、幸薄いめぐみの事が、シリーズ中ずっと気になっていたので、2人の婚約が嬉しかった。
非常に満足感のある最終回だった。きっちりとシリーズが構成されている感じも心地よかった。スタッフも「作りきった」と思った事だろう。『クリィミーマミ』は、『超時空要塞マクロス』や『うる星やつら』と同様に、若いスタッフが中心となって作り上げた作品だ。ただ、他の若手スタッフが中心になった作品に比べると、ずっとバランスがいい。そうなっているのは、子ども向けの魔法少女ものというジャンルのためかもしれないし、ベテランである小林治と、伊藤和典をはじめとする若手の力関係がよかったからかもしれない。
第169回へつづく
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(09.07.15)