第172回 『未来警察ウラシマン』
『未来警察ウラシマン』という新番組が始まると教えてくれたのは、『Gライタン』を勧めてくれたのと同じ友人だった。おそらく、僕が購読してないアニメ雑誌に情報が載っていたのだろう。『Gライタン』スタッフの新作であり、しかも、なかむらたかしがキャラクターデザインを務める。『Gライタン』に注目し、なかむらたかしの仕事に興奮していた僕達は、この作品に大いに期待していた。
主人公は、1983年から2050年のネオ・トキオにタイムスリップしてきた少年。時代を越えたために超能力を持っていると思われる彼は、権藤警部によってウラシマリュウと名づけられ、機動メカ分署マグナポリス88の機動刑事として働く事になった。リュウの仲間は、ナンパな二枚目のクロード、元シスターでブリッコ刑事のソフィア。彼らが立ち向かうのは、犯罪帝国ネクライムのルードビッヒとその手下達だった。というのが、物語の基本設定。監督は真下耕一、原案・構成は曽田博久、制作プロダクションはタツノコプロ。放映されたのは、1983年1月9日から同年12月24日だ。
番組開始前後はハードなSFアクションなのだろうと思っていたが、いざ始まってみると、むしろ、ユニークなキャラクターや、軽妙なドラマが魅力の作品だった。主人公のリュウやクロードからしてノリが軽い。当時の流行言葉で言えば、ネアカな連中だった(それに対して、敵組織であるネクライムのネーミングは、ネアカの対義語であったネクラをもじったものだ)。悪役美形のルードビッヒだけでなく、その部下のジタンダ、スティンガー部隊のメンバーも、妙にキャラが立っていた。作り手が愛着を持って描いていたのだろう。
全体に『ウラシマン』は「外し」が多い作品だった。リュウ達には、バトルプロテクターと呼ばれる戦闘服を装着する。毎週それを着て戦うのかと思ったら、たまにしか装着しない。ネクライム総統のフューラーとリュウの関係にしても、同一人物ではないかと思わせておいて、実は別人だった事が明らかになる。13話「過去にささったトゲ」で登場した、いかにもいわくありげな悪魔の壺は、僕の記憶が正しければ、結局最後まで何だか分からなかった。死んだと思われたキャラクターが、実は……という事も何度かあったはずだ。そういうふうに予想を外されるのが、妙に心地よかった。そういう「外し」も作品の軽妙さの一部だと思っていた。
シリーズを通じて、演出や作画に光るものがあった。選曲や色遣いも独特だった。一風変わったアイデアで作られた話も多く、個々のストーリーはバラエティに富んでいた。全体として、若々しいスタッフが元気一杯に作っている印象の作品で、僕にとっては『うる星やつら』に印象が近い。ジャンルは違うし、『うる星やつら』の方がスタッフの暴走が激しいが、ノリは非常に似たものがあったと思う。
なかむらたかしの仕事としては、まずキャラクターデザインはリアルタッチのものであり、大友克洋の影響が色濃く出ていた。ただし、各話の作画で、そのデザインのよさが活かされていたとは言いがたい。彼が作画で参加したのは、13話「過去にささったトゲ」、26話「ネオトキオ発地獄行き」、33話「フューラーの真実」の3回のみ。「過去にささったトゲ」はルードビッヒの過去を描いた話で、大人びた落ちついた雰囲気を楽しむ話だった。「フューラーの真実」はリュウと、ネクライムの総統フューラーの関係が明らかになる話。いずれも彼の緻密な作画を楽しむ事はできたが、派手なアクションがないのが残念だった。「ネオトキオ発地獄行き」は彼が作画監督だけでなく、絵コンテも担当。映像的に見応えがある仕上がりであったのは間違いないが、枚数をたっぷり使って動かす事よりも、画面設計に力を入れている印象だった。動きの見どころは、なかむらたかしが作画を担当したAパートよりも、むしろ、森本晃司と福島敦子が作画したBパートの方だった。この頃すでに、なかむらたかしの中で、演出志向が芽生えていたのだろう。シリーズ全体としては、楽しんで観ていたのだが、彼の参加回が少なかった事、『Gライタン』的な枚数をたっぷり使ったアクションがなかったのは、ちょっと残念だった。
第173回へつづく
(09.07.22)