第254回 『魔法のスター マジカルエミ』と『魔法の天使 クリィミーマミ』
1985年くらいになると、僕達は、ちょっとばかり年季の入ったアニメファンになっていた。ちょっとやそっとの作品では感心しないようになっていた。『魔法のスター マジカルエミ』は、そんな僕達が熱心に観られる作品だった。この作品のキャラクターに執着していた友達もいたけれど、僕はむしろ、演出や作劇に対する興味で観ていた。派手さを抑えた渋い作りも、大人っぽい感じも、当時の僕達が喜ぶようなものだった。要するにイケてる作品だと感じていた。この僕達というのは、前に書いたように、演出やスタッフに興味があるファンの事だ。
作画に関しては『マジカルエミ』は、きくちみちたかをはじめとする若手アニメーターが大勢参加し、楽しげに仕事をしていた。キャッチーな作画——いわゆるオタク的な画も多い。この時期のTVアニメはモブシーン等で、他作品のキャラクターを勝手に出してしまうお遊びがよくあったが、『マジカルエミ』はそれが特に多かった。観返すと、そういった作画傾向やお遊びは、演出的な狙いとズレているようにも見えるが、当時はそれが楽しかった。
ここまで『マジカルエミ』について、絶賛モードで書いてきたが、この作品にも粗がないわけではない。例えば、設定的に無理が生じているところがある。劇中で、エミの連絡先を知っているのが舞だけであるのを誰も不思議に思わないし、どこから来ているのか分からないエミの正体を誰も探ろうとしない(『クリィミーマミ』では、立花やスネークジョーがマミの正体を探ろうとした)。他の部分をリアルにやっているだけに、そういった部分は気になってしまう。おそらく作り手は、魔法関連の設定に突っ込んでいくと、生活感を重視したドラマの邪魔になるという判断して、そこに触れないようにしたのだろう。
もっと大きな話をすると、派手さを抑えた渋い作りである事はストイックであるとも言え、魔法ものにあってしかるべき魔法の楽しさが薄いのも事実だ。レイアウト等の画作りに関しては、きっちりと画面を作り込んでいた『クリィミーマミ』に比べると、やや弱くなっている印象だった(画作りについては、美術の力も大きいのだろう)。
作品傾向が近いので、僕はどうしても『クリィミーマミ』と『マジカルエミ』を比べてしまう。『マジカルエミ』本放映時は、『マジカルエミ』を『クリィミーマミ』の進化形だと思っていた。『マジカルエミ』の方が完成度が高いと感じていたわけだ。
それが、本放映から数年経つと、エンターテインメント性の高い『クリィミーマミ』の方がいい作品だと思うようになった。上に書いたような設定的な無理、ストイックさが気になり、『マジカルエミ』は歪んだところのある作品ではないかと思うようになったのだ。日本に大勢のアニメファンいる中で、そんな事をマジメに考えていたのは僕だけかもしれないが、マジメに悩んでしまうくらい、この2作品に愛着があった。
またまた「ウルトラシリーズ」の喩え話になる。前に「ウルトラマン」に相当するのが『クリィミーマミ』であり、「ウルトラセブン」にあたるのが『マジカルエミ』だと書いたが、僕の中では作品の評価についても、この喩えが当てはまる。高校生の頃はハードな「ウルトラセブン」を傑作だと思い、20歳を過ぎると、バランスがとれた「ウルトラマン」の方が出来がいいと感じるようになった。自分の中で、時期によって作品の評価が逆転する。多分、その評価の変化は、受け手である僕の年齢も関係しているのだろう。
それでは今はどうかと言うと、この「アニメ様365日」で『マジカルエミ』について触れるまでは、『クリィミーマミ』の方がいいと思っていた。だけど、この一連の原稿を書くために全話観返して、久しぶりに『マジカルエミ』にハマってしまった。今日のこの瞬間は『マジカルエミ』の方が好きだ。
第255回へつづく
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