アニメ様365日[小黒祐一郎]

第278回 『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』

 『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人(エトランゼ)』は、TVシリーズ『戦国魔神ゴーショーグン』の後日談を描いたオリジナルビデオだ。非常にトリッキーな構成の作品であり、僕は首藤剛志・湯山邦彦コンビの仕事では、これが一番好きかもしれない。
 先にデータ的なところに触れておくと、本編でクレジットされるタイトルは『Goshogun IN 時の異邦人』。リスト制作委員会的なタイトル表記で考えると、これが正式タイトルという事になる。オリジナルビデオとして企画制作されたものだが、劇場でも公開もされた。今回の原稿を書きはじめてから気がついたのだけれど、劇場公開が1985年4月27日で、ビデオのリリースが5月10日。劇場公開の方が先だった。第269回「OVAの時代始まる」で、通常のOVAとしてリストに入れてしまったが、劇場公開の方が先なら『BIRTH』や『VAMPIRE HUNTER D』と同様に劇場作品として扱うべきだった。またOVAリストを作る機会があったら、間違えないようにしよう。90分の長編だ。
 原作・脚本は首藤剛志、監督は湯山邦彦(この作品の成り立ちに関しては「シナリオえーだば創作術」の「第71回 自由に書いた『時の異邦人』」を参照していただきたい)。TVシリーズ『戦国魔神ゴーショーグン』の後日談だが、タイトルになっているゴーショーグンは登場しない(本物は出てこないが、レミーの自動車内部に、ゴーショーグンのマスコットがぶらさがっており、また、博物館に他の展示物と共に模型が置かれている)。
 TVシリーズのヒロインであったレミー島田が主人公だ。本作では現在、未来、過去のみっつの時代の物語が並行して進み、それぞれの物語で現在のレミー、70歳を越えた老人のレミー、少女時代のレミーが描かれる。現在のレミーは、真吾をはじめとする仲間達と、謎の村に閉じ込められてしまう。そして、彼らの元に運命の手紙が届く。その手紙には、それぞれが死ぬ日が書かれていた。死んでしまう日は、レミーが一番早く、2日後に死ぬと予告されていた。その村には、不思議な力が働いており、脱出する事もできない。一方、未来の世界では、老人となったレミーが交通事故に遇い、しかも、その身体は難病に蝕まれていた。過去の世界では、友達のいない孤独なレミーが、墓地で穴に落ちてしまい、希望を失いかけていた。
 レミーは、みっつの物語で、老い、病魔、暴力、運命、孤独といった、困難と立ち向かう事になる。レミーの武器は、持ち前のバイタリティであり、彼女を支えているのは仲間の存在だ。物語の語り手は、レミーの人間として弱い部分を容赦なく攻める。彼女の母親は売春婦であり、少女時代のレミーは同世代の子供に蔑まれていた。現在のレミーが受け取った手紙には、彼女が「見ず知らずの男達の手によって、身も心もずだずたに辱められて死ぬ」とあり、輪姦されるイメージシーンまである。リリース当時の僕は、ヒロインの力強さを描くため、彼女が乗り越えるべきものとしてレイプの恐怖まで描いた事について非常に感心した。
 トリッキーな作りではあったが、当時の僕達にはこのくらい凝った物語の方が、見応えがあってよかった。みっつの物語の中では、現在のレミーの物語がメインだ。現在の物語はホラータッチであり、アクションもふんだんにある。だから、難解なばかりの作品ではなかった。OVAらしいマニアックさと娯楽性のバランスがよかったと思う。
 キャラクターデザインと総作画監督は、本橋秀之が担当。彼は、TVシリーズの『ゴーショーグン』でもキャラデザインを務めていたが、その時は作画監督やっていない。僕らにとって『ゴーショーグン』のキャラクターは、TVシリーズで作画監督を務めていた上條修や、原画で参加したいのまたむつみの画のイメージが強かったが、『時の異邦人』の画風はそれよりもシャープで硬質な印象のものだった。最初はその画風の違いに少し戸惑ったが、その硬質さが『時の異邦人』には合っていた。画作りは、基本的にはTVシリーズよりちょっと凝ったくらいの感じだったが、羽原信義、田村英樹、菊地通隆、上妻晋作といった若手アクションアニメーターが参加。後半のアクションは、作画マニアにも嬉しい仕上がりになっている。
 この原稿を書くために久しぶりに観直して、この作品の印象が少し変わった。リリース当時は、レミー島田というキャラクターが、老い、病魔、運命といった苦難に打ち勝つ話だと受け止めていた。つまり、レミーがスーパーレディであるから、そういった困難を乗り越えられたのだと感じたわけだ。観返して、そういったヒロインの活躍を通して、普遍的なものを描いているのだろうなと思った。受け止め方が変わったのは、僕が年齢を重ねたためだろう。それから、具体的な事は書かないけれど、本編の最後の最後でキャラクターの外見に関して、ある変化がある。それについては初見時も、今も、ちょっとやりすぎだと思っている。

第279回へつづく

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(09.12.28)