第279回 「Newtype」
1985年はアニメ雑誌に大きな変化があった。新雑誌として「Newtype」「アニメV」「月刊Globian」が創刊。既存雑誌では「マイアニメ」が月2回刊行となり、翌1986年に休刊。1987年には「ジ・アニメ」と「Animec」が休刊になった(厳密に言うと「ジ・アニメ」の休刊は1986年末になるのかもしれない)。この前後には、杉山卓が発行していた「アニメダマ」という業界誌があった。業界誌と言えば「BREAK TIME」というマイナーな雑誌もあった(一般の書店ではほとんど見かけない雑誌だった)。他にもマンガ情報誌の「COMIC BOX Jr.」が『とんがり帽子のメモル』の特集をしたりと、単に新旧交代だけでない、混沌とした状況だった。
アニメブームが一段落し、ファンの注目がOVAに集まるようになった。新旧交代に関しては、そういった時代の流れに、従来のアニメ雑誌の作りがついていけなくなったためでもあるのだろう。振り返ってみれば、この頃の出来事で、アニメ雑誌の歴史において一番大きかったのが、角川書店による「Newtype」の創刊だった。
「Newtype」の創刊は『機動戦士Zガンダム』放映開始のひと月前。雑誌名が『機動戦士ガンダム』に登場する新人類の名称と同じであり、創刊号の表紙が『Zガンダム』に登場するガンダムMk-IIで、巻頭特集が『Zガンダム』と『重戦機エルガイム』だった。だから、創刊号を手にした時は『機動戦士ガンダム』をメインに扱う雑誌なのかと思った。白地にキャラクター、あるいはメカを置く表紙のパターンは(一部の例外はあるが)創刊号から現在まで同じだ。
創刊当時の「Newtype」は、現在の同誌とは随分と違った雑誌だった。当時の僕の感覚としては、一般雑誌寄りのアニメ雑誌だった。初期はアニメ作品自体の記事は多くなかった。その代わり、コラムページがたっぷりとあった。アニメだけでなく、実写映画や「スケバン刑事」のようなアイドルドラマを取り上げる事もあった。連載コラムにも、アニメと関係ないものがいくつもあった。巻末カラーの目立つところに、角川3人娘の1人である原田知世のコラムが連載されていたのが象徴的だった。当時、角川書店は「バラエティ」という映画を中心にした総合雑誌を出しており、「『バラエティ』っぽい雑誌だなあ」と思った。
この雑誌の表紙には「Newtype」のロゴの下に「THE MOVING PICTURES MAGAZINE」という英文が入っている。MOVING PICTURESとは、普通に考えればアニメの事だろうが、実写映画や特撮ドラマだって、映像が動いているわけだから、MOVING PICTURESだと考えられる。アニメ雑誌じゃなくて、MOVING PICTURES MAGAZINEだから、アニメ以外も取り上げているんじゃないかと、友達と話したのを覚えている。
乱暴な言い方になってしまうが、「アニメージュ」をはじめとするアニメブーム期に創刊された雑誌の多くが、基本的にアニメを全肯定するスタンスだった。「アニメというのは素晴らしいものだ」という価値観で雑誌が作られていた。それに対して「Newtype」は「アニメにも、いいものとそうでないものがある。だから、いいものを選んで記事にする。アニメでなくても、いいと思ったものは取り上げる」というスタンスだったと思う。いいものを選んで取り上げるという傾向は、1980年代後半にさらに強くなっていった(そして、1990年代に入るとその傾向が弱くなる。きっかけは『美少女戦士セーラームーン』だったはずだ。それについては、この連載のずっと後で触れる予定だ)。
仮に「アニメージュ」を正統派のアニメ雑誌とすると、「Newtype」はそれよりも、ライトな雑誌を目指していた。スタッフのロングインタビュー等の、資料性の高い記事はほとんどなかった。正統的なアニメ雑誌の作り方は分かっているけれど、それは野暮ったいから、もっと違った事をやろうよ。そんなスタンスで作っていたのだろう。僕は正統派が好きだったので、「Newtype」にはちょっと馴染めないところがあった。それでも嫌いな雑誌ではなかった。特に創刊からの数年間は「分かっている人」があえてライトな記事を作っている印象があり、そういうところがいいなと思っていた。
「Newtype」に関しては、誌面デザインについて触れないわけにはいかない。それについては次回で。
第280回へつづく
(10.01.05)