第301回 『プロジェクトA子』
作品周囲の話が長くなってしまった。今回は『プロジェクトA子』本編についてだ。『プロジェクトA子』は「くりぃむレモン」の創映新社が手がけた劇場作品で、同時上映は「くりぃむレモン」の亜美シリーズの『旅立ち 亜美・終章』だった。『旅立ち 亜美・終章』も成人向けではなく、一般作品だった。公開されたのは1986年6月21日。80分強の作品だ。
『プロジェクトA子』の監督は西島克彦、キャラクターデザイン・作画監督が森山ゆうじ。メカニック作画監督が増尾昭一。西島克彦は原作と脚本に、森山ゆうじは脚本に、連名でクレジットされている。原画には活きのいい若手アニメーターたちが集結していた。元気で人間離れしたパワーの持ち主であるA子こと摩神英子、お嬢様でエキセントリックなB子こと大徳寺美子、ひたすら明るい能天気娘のC子こと寿詩子。この3人を主軸にして物語は進む(演じているのは、それぞれ若手の伊藤美紀、篠原恵美、富沢美智恵だ)。A子とC子は親友であり、C子に一目惚れしたB子は、彼女を自分のものにするため、A子に挑戦状を叩きつける。B子はパワードスーツや巨大ロボットを持ち出すが、A子にはまるでかなわない。やがて、巨大宇宙船が飛来し、戦いはますますスケールアップしていく。
ギャグとアクションが中心の作品だった。また、登場人物の大半が女性であるのも、本作の特色だ。主要登場人物に、Dという名前の強面のキャラクターがいた。声は玄田哲章で、どう見てもオッサンなのだが、実は女性。飛来した宇宙船のキャプテンは、マント姿でサングラスをつけており、声が池田秀一だが、これも女性。B子の子分の真理は、ケンシロウみたいな外見の女子高生であり、うなり声などは太い男性の声(先日亡くなった郷里大輔が演じている)なのだが、普通に喋ると小学生女子のような可愛い声になるという奇天烈をきわめたキャラクターだった。
西島克彦も、森山ゆうじも『うる星やつら』で注目を集めた若手クリエイターであり、『プロジェクトA子』のキャラクターデザインのラインも、美少女とメカの組み合わせでギャグをやるのも、アニメ『うる星』的。アニメ雑誌の記事を読んで、アニメ『うる星』のおいしかった部分を取り出して、凝縮させたような作品だろうと僕は思っていた。
僕は劇場に行かなかったので、この作品をビデオソフトで観た。雑誌で宮崎駿の「セーラー服が機関銃撃って……」発言を読んでから観たわけだ。むしろ、宮崎駿に怒られるような猥雑さに期待していたところがあった。
それでは、実際に『プロジェクトA子』を観てどうだったかというと、これがまるで楽しめなかった。面白い要素が沢山入っているのは分かったけれど、それがフィルムとしての面白さに繋がっていないように感じた。似たシチュエーションが繰り返されるのも退屈だったし、Dやキャプテンが女性だったというネタは、悪趣味にしか思えなかった。本作の主要スタッフは、まだ20代半ばだったはずであり、それを考えれば立派な出来なのだが、期待していただけに、ガッカリ感が強かった(監督、脚本、絵コンテのスタッフが入れ替わった第2作『プロジェクトA子2(PROJECT A-KO 2) 大徳寺財閥の陰謀』は、ほぼ同じコンセプトの作品だったが、第1作よりも楽しめた。僕が第1作を楽しめなかったのは、演出や作劇が好みでなかったからかもしれない)。
ただ、皆が僕と同じように感じていたわけではない。むしろ、僕は友人グループの中では少数派だった。好意的に受け止めている人の方が多かったし、中には目一杯ハマっている男もいた。この作品は、全体に作画が丁寧だった。アクションシーンはやたらと多いし、きっちりと動かしていた。話は面白いとは思わないけれど、画がいいから好きだというファンもいたようだ。『プロジェクトA子』を楽しめたかどうかは、A子、B子、C子を好きになれるかどうかにかかっていたのだろうと思う。僕はそこがダメだった。変わったキャラクターだとは思ったが、彼女達の存在を、いかにも作りものっぽく感じてしまい、好きになれなかった。
自分と周囲の温度差が気になって、『プロジェクトA子』にハマりまくっている男に問いただした事があった。問いただすなんて、物々しいけれど、本当に問いただした。あなたはこれが本当に面白いのか、と訊くと、彼は自信たっぷりに「面白いじゃないか!」と応えた。外見がオッサンのキャラクターが実は女だったなんて、悪趣味じゃないかと言うと、「それがいいんじゃないか!」と言われた。これには驚いた。要するに良いか悪いかの問題ではなく、感覚や好みの問題だったのだ。
宮崎駿が一部のファンに向けて作品を作っていてはいけない、と言っているのに対して、僕は反感を感じていたのだが、皮肉な事に、僕自身がその「一部のファン」から外れていたのだ。僕は自分をアニメファンとしては、相当にコアな人間だと思っていた。「自分はコアではなかったのだ」と思ったのは『プロジェクトA子』が最初だった。それは少しばかりショックな事だった。
第302回へつづく
(10.02.05)