第369回 『オレンジ☆ロード』のまどかの告白
第364回 「『オレンジ☆ロード』とセックスと青春」でも触れたが、5話「2人のひみつ、 とまどいアルバイト」(脚本/寺田憲史、絵コンテ・演出/松園公、作画監督/八幡正)で、バイト帰りに酔ったまどかが恭介に対して「ねえ、今晩、泊めてくれない? ひかるには黙っているよ……」と言っている。これは原作にもある展開だ。TVシリーズでは、このセリフが、まどかを描くキーになっている。
7話「まどかの私生活!? 口づけスパーク色」(脚本/富田祐弘、絵コンテ・演出/森川滋、作画監督/高倉佳彦)では、酔った恭介が、まどかの唇を奪おうとして平手打ちをくらう。中学生のくせに頻繁に呑んでいるなあと思うけれど、まあ、それはおいておく。恭介が学校でその事を謝ると、彼女は「お酒呑むのって、よくないね……。あたしだって、バイトの帰り、酔って春日君に……」「でも、あの時、一度だけよ。もっと不良だと思ってたんでしょ」とまどか。彼女が言っているのは「今晩、泊めてくれない?」発言の事だ。同場面では、まどかが自分があんな事を言ったのは、相手が恭介だからだったともとれる発言もしている。
そして、19話「二人の体験! 禁じられた恋の島」(脚本/寺田憲史、絵コンテ・演出/安濃高志、作画監督/高倉佳彦)だ。恭介達は海水浴に行き、ボートに分乗した。潮の流れが速かったため、恭介とまどかが乗ったボートは無人島に漂着。乗ってきたボートも、流されてしまい、2人は無人島から脱出できなくなってしまう。
演出は『魔法のスター マジカルエミ』の安濃高志。中盤では恭介とまどかが、南の島で楽しく過ごす様子を描いている。楽園気分を見事に表現しており、それだけでも傑作だと思うくらいだ。クライマックスは、島から出られない事が分かった後の、夜のシーンだ。2人は浜辺で焚き火を囲む。最後の食料であるリンゴを分け合う。恭介が囓ったところをまどかも囓る。間接キスだ。リンゴを囓るとき、まどかの目は恭介を見ていた。濃密な時間が流れる。そこで5話の例のセリフが話題になる。無人島に行く展開は原作どおりだが、以下で紹介するまどかの告白は、アニメのオリジナルだ。
まどかは、あの時に言った事を聞かなかった事にしてほしいと頼む。当然、恭介は「どうして?」と聞き返す。「あのさ……あんな事言ったの、あたし初めてだけど……でも……でも……あんな事言っちゃったけど……今を、大切にしたいって……そう思っているんだ」とまどか。リンゴを囓った時には、恭介を見ていた彼女が、そう言っている時には、彼と目を合わせる事ができず、うつむいてしまう。自分の気持ちを告白したのが恥ずかしかったのだろう。その後、可愛らしく舌を出してから、わざと不良っぽい言い方で「しょーがねーだろ! 不良してたんだからあ」と言っておどける。このおどけたところは猛烈に可愛い。この場面のまどかは、恥じらいを見せるごく普通の女の子だ。
自分は不良だった。ちょっと気に入った恭介と寝てもいいと思った。だけど、今はそうではない。自分を、そして、今の恭介達との関係を大事にしたいと思うようになった。「今を、大切にしたい」を、普通の女の子として恋をしたいという意味とも解釈できる。十中八九、そういう意味だろう。本人は語ってはいないが、まどかが自分を大切にしたいと思うようになったのは、恭介と出会い、明るく生きている彼の影響を受けたからだろう。荒んでいた彼女が、恭介との出会いで変わった。「寝てもいいと言ったのは忘れてほしい」と言われはしたが、大事なのは、恭介の目の前で、スーパーレディである鮎川まどかが心境を告白し、女の子らしい恥じらいを見せている事だ。要するに恭介が彼女を「女の子にした」わけだ。
TVシリーズの本放映が終わった直後に、『オレンジ☆ロード』を全話観返した事があるのだが、その時に「なんだ19話で終わっていたじゃないか」と思った。この時点で、まどかにとっての物語は7割くらい終わっている印象だ。彼女の恋愛準備段階はここで終了。この後、ひかるの存在がなく、恭介と交際を続ければ、あっという間にでき上がってしまいそうだ。
まどかは大人びており、スケバンであり、たまに可愛いところも見せる。クライマックスでのまどかの告白は、色々な顔を持った彼女のキャラクターをひとつに統合した。つまり、その時点でのまどかを描ききっている。続く20話からオープニングが変更され、「ひとつの出逢いが、ふたつの恋に進み」のナレーションで始まるアバンタイトルも、この19話までだ。19話は、内容に一区切りつけるエピソードとして作られたのかもしれない。
第370回へつづく
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