第370回 鮎川まどかのスケバン問題についてもう一度
月曜から木曜で更新した第366回から第369回の原稿は、この前の土日にまとめて書いた。まとめて書いた方が、効率がいいなあ。これからはなるべく、まとめて書くようにしよう。ちなみに、この原稿は、更新日である平成22年5月21日(金)の午前中に書いている。
『きまぐれ オレンジ☆ロード』の話を続ける。TVシリーズ『オレンジ☆ロード』には、ほろ苦さがある。青春のほろ苦さを描いた作品でもある。そのほろ苦さは、作劇、演出、ここまでに何度か話題にした恭介のナレーションから生まれている。同じ原作を映像化したとしても、もっとチャラチャラした仕上がりになる可能性はあった。
そもそも、この作品の大筋は超能力を持った少年が、2人の女の子の間で揺れ動くというものであり、恭介が超能力を使って、まどかとひかるの両方と上手くつきあってしまうような浮かれた内容になってもおかしくはない。しかし、恭介が超能力について自制している事もあり、そういった展開にはならなかった。原作でもそうだが、むしろ、超能力のために彼が困った状況に陥る事が多い。また、超能力の設定は、恭介の優柔不断を強化させるアイテムとして機能している場合もあったはずだ。
この連載で『オレンジ☆ロード』でついて書きはじめてから、気がついた事がある。1話におけるまどかと不良のケンカシーンについてだ。第363回「鮎川まどかの設定改変」でも書いたが、まどかは、不良達をコテンパンに叩きのめしている。原作ではそんな展開はない。どうしてまどかをスケバンにしたのかは、ずっと分からないでいた。それは、シリーズ全体のテイストを示すためのものだったのかもしれない。
まどかが大立ち回りを演じている時に、恭介が何をしていたのかといえば、妹達と一緒にその様子を見て、彼女の強さに驚いているだけだ。まどかは下っ端をやっつけた後で、不良のボスと戦う事になる。ボスは見上げるような大男だ。女の子の細腕ではとてもかないそうもない。その段階で、恭介とまどかは面識があり、視聴者に対して彼が超能力一家の一員である事はアピールされている。ボスとの戦いが始まったところで、恭介が超能力を使って、まどかを助けるのがセオリーだろう。しかし、恭介は超能力を使わない。まどかは一度はピンチに陥るが、結局は、実力でボスを倒してしまう。
それでは恭介は、超能力を何に使ったのかと言えば、タバコを破裂させたのである。不良達を追い払った後、まどかがタバコを吸おうとする。恭介はそれをやめさせるため、超能力でタバコを破裂させた。タバコの部分は原作とほぼ同様だ。タバコを破裂させた後で、原作でも印象的な「いまからタバコなんて吸ってると、丈夫な赤ちゃん、産めなくなるぜ」という言葉を、まどかに投げかける。ちなにみに原作では「中学」と書いて「いま」とルビを振っている。恭介としては、背伸びしてかっこつけたセリフであるのだが、それを言った後で、怒ったまどかの平手打ちをくらってしまう(つけ加えておくと「丈夫な赤ちゃん、産めなくなるぜ」と言われて、原作のまどかは顔を赤らめるが、アニメだとそんなそぶりは見せない。やはり、アニメのまどかの方がクールだ)。
背伸びしたセリフを言って、滑ってしまうのも恭介らしいが、アニメでは、彼女が不良とケンカをしているのに力を貸す事もできず、タバコを止めてかっこつけようとしたが、それも失敗というかたちであり、より情けなくなっている。「丈夫な赤ちゃん、産めなくなるぜ」というセリフは、まどかを女の子扱いしているという事であり、また、その素っ頓狂な言い方が、後に彼女が恭介に興味を持つきっかけになるのだが、この時にはまだ分からない。
1話のケンカシーンが示したのは、まどかが、男の助けも超能力の助けも必要としないスーパーレディであるという事。そして、恭介の超能力は、ピンチの女の子を助けるような華々しいものではなく、せいぜいがタバコを破裂させる程度のものでしかないという事。しかも、使った事で恥をかいたりする。つまり、超能力少年が主人公のラブコメディではあるが、浮かれた話にはなりそうもない事を示していた。
第371回へつづく
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(10.05.21)