アニメ様365日[小黒祐一郎]

第421回 『風魔一族の陰謀』のキャラデザインと作画

 『ルパン三世』のキャラクターデザインにはいくつかの系統があり、『風魔一族の陰謀』におけるデザインは、『旧ルパン』『カリオストロの城』系のものだった。大塚康生とテレコム・アニメーションフィルムが手がけているのだから、当然と言えば当然だ。ルパンのジャケットの色は『旧ルパン』『カリオストロの城』と同じく、例の青緑。ファンの間で「青ジャケ」、あるいは「緑ジャケ」と呼ばれているものだ。ルパン達が乗っていた車も、『旧ルパン』後期と『カリオストロの城』で登場したフィアット500だった。明後日の原稿で改めて書くつもりだが、『風魔一族の陰謀』は、『ルパン三世』の各系統を強く意識したシリーズだった。

 昔からのファンなら、スチール1枚を見ただけで、『旧ルパン』系統の作品である事が分かる。この頃になると、ファンの方も、ルパンのジャケットの色が、作品の方向性とリンクしているのは理解していた。それでは『風魔一族の陰謀』は、何が「青ジャケ」的だったのか。前半のようなハード路線という意味で「青ジャケ」だったのではない。「赤ジャケ」のようにハシャギ過ぎていないというくらいの意味で「青ジャケ」的だった。あるいは『カリオストロの城』を彷彿とさせるカーチェイスがあり、大塚康生流によるリアルタッチのアクションものという意味で「青ジャケ」的なルパンだった。
 コアな『ルパン三世』ファンでない人にとしては、何の話だかよく分からないかもしれないが、僕にとっては、この頃の『ルパン三世』は、系統や流派が気になる作品だった。そもそも、わざわざ青いジャケットを着せて、フィアット500に乗せているわけであり、作り手からしてそういった事を意識していなかったわけがない。

 ルパンファミリーのキャラデザインは、基本的には『旧ルパン』と『カリオストロの城』を踏襲していた。不二子は『カリオストロの城』よりも『旧ルパン』寄り。五右ェ門は『カリオストロの城』では、『新ルパン』的な二枚目の青年剣士になっていた。『風魔一族の陰謀』でも『旧ルパン』のような強面の殺し屋ではないが、『カリオストロの城』よりは『旧ルパン』寄り。プロポーションに関して言うと、全体にキャラクターの頭身が下がっているようだった。それは、動かしやすさを意識したものだったのだろうか。
 言葉にするのが難しいが、『風魔一族の陰謀』では、キャラクターが全体に男っぽい感じになっていた。『旧ルパン』も男っぽい感じだったが、それとも少しニュアンスが違う。ヒロインの紫は、美人ではあるのだが、昔のスポ根ものの少年マンガに出てくる女の子のような造形だった(中盤で、紫が五右ェ門にキスをねだる場面があるのだが、びっくりするくらい色気がない)。他のゲストキャラクターも、ややリアル寄り。ぶっちゃけて言ってしまえば、『風魔一族の陰謀』には、クラリスのような可憐な少女は出てこないだろう。キャラクターデザインがそういった作品世界を創っていた。
 動きも男っぽいところがあった。人物アクションが、ダイナミックな感じだったのだ。それから、一部のカットだけであるが、海外のアニメーション作品のように、枚数をたっぷりと使って人物を動かしているところがあった。バタくさい感じだ。特につけPANのカットで顕著だった。そういったカットがあるのは少し意外だった。

 『風魔一族の陰謀』は、長年に渡って準備をしてきた『NEMO』の待機中に制作された作品だ。テレコムは、それまでに海外との合作作品をいくつも手がけている。また、『NEMO』のために、アメリカのキャラクターアニメーションを学んでいたようだ。そういった背景があり、バタくさいと思うようなカットが生まれたのだろう。また、男っぽい感じや、アクションのダイナミックさは、大塚康生と友永和秀の持ち味なのだろう。いずれも、作品の味わいになるもので、粗になっているわけではない。同じ大塚康生で、同じテレコムでも、こんなに作画のテイストが違うのが面白い。勿論、ビジュアルの調子が少し違うのは、宮崎駿が参加していないためでもある。

第422回へつづく

ルパン三世 風魔一族の陰謀

73分/片面2層/4:3/スタンダード/
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(10.08.03)