第427回 『戦国奇譚 妖刀伝』
『戦国奇譚 妖刀伝』には、仕事で少しだけ関わった。元々はアニメビジョンに連載されていた作品なのだ。アニメビジョン連載中にはビデオ編集やスタッフインタビューの撮影にも立ち会ったし(立ち会ったと言っても、脇で見ていただけだが)、連載をVHDソフトとしてまとめる時には解説書をお手伝いした。
1巻「—破獄の章—」がリリースされたのが、1987年5月21日。続いて、2巻「—鬼哭の章—」が1987年12月16日に、3巻「—炎情の章—」が1988年11月5日に発売されている(以上は、VHDソフトの発売日。VHSソフトはそれにやや遅れて発売された)。また、1〜3巻をまとめ直した劇場版も作られている。内容としては戦国時代を舞台にした伝奇アクションで、主人公は男装の女忍者である綾之介(声/戸田恵子)、美形の青年剣士の左近(井上和彦)、巨漢で槍を得意とする龍馬(渡部猛)の3人。彼らはそれぞれの里に伝わる宝刀で、織田信長(矢尾一樹)が差し向ける忍者や妖魔達と戦うのだった。
監督は山崎理(現・ヤマサキサオム。1巻のみ、桜井利之と連名)で、脚本は1巻が鳴海丈、2、3巻が会川昇(現・會川昇)。なお、鳴海丈は2、3巻では、原作としてクレジットされている。キャラクターデザインと作画監督は大貫健一で、モンスターデザインがわたなべぢゅんいち。山崎理と大貫健一は、南町奉行所というスタジオのメンバーだ。
『妖刀伝』は当時のOVAとしては、かなりの人気作だった。記憶が正しければ、OVA専門雑誌「アニメV」が頻繁に取り上げており、同誌の人気投票では上位にランクインしていた。本作を支持していたのは、OVAの視聴者としてはやや年齢の低い女性が多かったに違いない。男装の女忍者、美形剣士といったロマンチックなキャラクター、大貫健一による美麗なデザイン等も、ファンを魅了した要因だったのだろう。
作画的な見どころもいくつかあった。マニアの間で話題になったのは、1巻で山下将仁が担当したアクションシーンだった。カット数も多いし、『うる星やつら』の彼の仕事を思わせる自由奔放さあった。
この作品もリリース後はほとんど観返す機会がなかった。この原稿を書くにあたって、数年前に購入した中古のVHSソフトで鑑賞してみた。ひょっとしたら、当時は仕事目線で見ており、客観的には観ていなかったかもしれない、改めて観たらどうだろうか、という興味もあった。1巻が記憶していたよりもいい出来だった。キャラクターを魅力的に描いているし、キャラ作画もいい。テンポよく話が進むのも気持ちがいい。1巻には桔梗(声/竹中三佳)という少女が登場する。綾之介に想いを寄せる彼女の、悲劇的なドラマも印象に残るものだ。2巻、3巻も見どころはあるのだが、1巻は盛りだくさんだし、歯切れもいい。
『妖刀伝』は一度もDVD化されてない。1980年代のOVAで、その後、振り返られる機会のない作品は多く、『妖刀伝』もその1本だ。人気作だったのに、もったいない。
第428回へつづく
(10.08.11)