アニメ様365日[小黒祐一郎]

第459回 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

 前回までで、自分の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』体験について書いた。前後するが、今回から改めて『逆襲のシャア』という作品について書きたい。『逆襲のシャア』は1988年3月12日に公開された劇場作品。内容としては『機動戦士ガンダム』第1シリーズ、『機動戦士Ζガンダム』に続くものであり、アムロとシャアの最後の戦いが描かれた。同時上映は『機動戦士SDガンダム』であった。
 第1シリーズの主人公であったアムロ・レイ(声/古谷徹)と、その宿敵だったシャア・アズナブル(池田秀一)の決着が描かれる。劇中で年齢には触れられていないが、設定的にはTVシリーズで15歳だったアムロ・レイがこの映画で29歳。20歳だったシャア・アズナブルが34歳になっている。シャアは、ネオ・ジオンの総帥として、地球に残った人類を粛正するために、地球に小惑星アクシズを落とそうとする。アクシズが地球に落ちれば、核の冬と同じ規模の被害を受ける事になり、人が住めなくなる。アムロは地球連邦軍のロンド・ベル隊のパイロットとして、シャアの計画を阻止しようとする。ロンド・ベルの旗艦であるラー・カイラムの艦長は、ブライト・ノアが務めている。

 『逆襲のシャア』は男と女の物語であった。シャアには、ナナイ・ミゲル(榊原良子)という部下がおり、彼女はシャアの恋人でもある。ナナイは落ち着いた大人の女性で、公私の両面で彼をフォローする。ヒロインの1人であるクェス・パラヤ(川村万梨阿)は、まだ幼さの残る少女だ。最初はアムロに興味を持ち、行動を共にしていたが、シャアと出逢って彼の元に走る。彼女はニュータイプであり、ネオ・ジオンのパイロットとして、ロンド・ベルと戦う事に。シャアの部下には、ギュネイ・ガス(山寺宏一)という名の若者がいる。彼もネオ・ジオンのパイロットであり、ニュータイプに近い力を与えられた強化人間だ。クェスはシャアに対する想いを隠そうとはせず、ギュネイはクェスに惹かれて、シャアに嫉妬する。そして、ナナイもまたクェスの存在に苛立つ。
 シャアはナナイを頼りにしており、その胸に顔を埋めて甘えまでもするのだが、いまだに1年戦争で死んだララァ・スン(潘恵子)を忘れられずにいた。ララァは、アムロとの戦いの中で命を失っており、死の前にアムロとニュータイプ同士の共感をしている。シャアはその事について「私が目をかけていたパイロット、ララァ・スンは、敵対するアムロの中に、求めていた優しさを見つけた」と語っている。シャアが今もアムロを敵視しているのは、アムロがララァを死なせたからだけではなく、死の寸前にアムロがララァと精神で繋がった事に対する嫉妬のためでもあるはずだ。
 劇中でナナイとギュネイが、シャアがアクシズ落としをしようとしているのは、本当はアムロを見返すためなのではないかと言っている。人類の粛正も彼の目的であったのは間違いないのだろうが、それと同時にララァへの想いと、アムロへの対抗心が彼を動かしていた。シャアの最後のセリフについては、後で改めて話題にするが、人類の粛正などという大変な事をしようとしている人間が、実はかつて死んだ少女にこだわり、その思慕の念で動いていた事が、最後の最後に分かる。『逆襲のシャア』というのはそういう映画だ。

 池田秀一は腹に一物あるような、含みのある芝居を持ち味としているが、『逆襲のシャア』では、そういった彼の個性が最大限に発揮されている。この映画のシャアは腹に一物どころか、二物も三物もある。目的を達成するために、敵にも味方にも嘘をつく。当たり前のように嘘をつく様子を観て、酷いとも思うが、それはいかにも大人のやり口でもあり、素敵だとも思える。
 男と女の話に戻すと、シャアはナナイ達にも嘘をつく。クェスには、お前のためにララァやナナイを忘れると言い、ナナイには、最終決戦の前にこの戦いが終わったら、何でも言う事をきくと言う。たとえアムロに勝ったとしても、野心家である彼が、他人の言う事を素直にきくとはとても思えない。ギュネイに対しては「私がクェスに手を出すと、どうして考えるんだ? ……私は、ネオジオンの再建と打倒アムロ以外に興味はない。ナナイは、私に優しいしな」と耳打ちする。クェスに手を出さないのは本当だろうが、ナナイがいるから満足しているというのは嘘だ。それから「ナナイは、私に優しいしな」というセリフで、自分とナナイが男と女の関係であると言っているわけだ。若い部下に対して、そんな事を言ってしまうのも、なんとも生臭い。観ていて「そんな事までよく言うよ、こいつは」と思うところだ。

 シャア陣営に比べると、アムロの女性関係はシンプルだ。アムロには、チェーン・アギ(弥生みつき)いうと名の女性メカニックがおり、2人はつきあっているようだ。年齢は分からないが、おそらく彼女は若い。20代前半かもしれない。チェーンはアムロのために一所懸命になり、彼の前で女の子っぼく振る舞う。それはいじらしいのだが、アムロは彼女に対していまひとつ心を開いていない。彼も、いまだにララァの事を忘れられないのだろう。2人の関係も乾いたものであった。また、ラー・カイラムには、非戦闘員として、ブライトの息子のハサウェイ・ノア(佐々木望)が乗り込んでいる。彼もクェスに好意を持っており、それが悲劇に繋がる事になる。
 シャアとアムロの戦いは、ララァをめぐる因縁の対決である。人間関係としては、シャア・アムロ・ララァの三角関係を頂点として、その下にナナイ、クェス、ギュネイ、チェーン、ハサウェイが入れ乱れる。宇宙を舞台にした愛憎劇だ。それが富野監督が言うところの、ロボットバトルに負けないくらい力のあるキャラクターのドラマだ。

第460回へつづく

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(10.09.28)