板垣伸のいきあたりバッタリ!

第241回
『ベン・トー』の話(4)

槍水仙は何を想い、誰を待つのか?

 これが板垣の提示した『ベン・トー』EDアニメーションのコンセプトであり、最初に原作読んだ際描きたいと思った事のひとつでした。だいぶ以前、とあるアニメ誌の取材を受けた際、記者さんから「板垣監督作品は、ファミリー感という一貫性がありますね」と言われたんですが、まあ俺程度に対して、どこかの作家さんみたいに「××監督作品」などとカテゴライズしてくださったのはインタビューを弾ませるための方便だという事は十分承知した上で、「ファミリー感」ってキーワードは思いあたるフシがあります。それは原作がマンガだろうがゲームだろうが、はたまたオリジナル作品だろうが、キャラとキャラが触れ合い語り合う以上、自分が扱いたいテーマが「仲間」にあるからです。自分の言う仲間とは、「いつも一緒、どこに行くのも一緒、何するのも一緒。皆一緒にドデカい事を成し遂げよう!」っていう分かりやすい「仲間」観ではなく、

いつなん時でも、一時の孤独を恐れなければ、どこへ行っても仲間になれる人たちに出逢える

って、まあ、当たり前の事なんですが「未来に仲間になるであろう人達に会いに行くためには、今目の前にいる仲間と別れる事も厭わない!」感じなのが自分の描きたい「仲間」で、『BLACK CAT』も『Devil May Cry』もそーゆーラストにしたつもりです。結局、究極の仲間というのは、各々が皆「孤独と友達である者同士のみ」が築き上げる事ができる信頼関係だと思うんです。つまり、やっと本題に戻りますが

「いずれ出逢えるであろう仲間」が来るのを待っている槍水

を描きたかったんで、あんな感じのEDになったというわけです。OPは「作品全体のイメージ」でEDは「槍水のキャラソン」でって事で。伊瀬茉莉也さんの歌声、可愛くていいですよね。槍水の本編で描かれにくい部分の少女っぽい魅力が表現されてて、キャラが膨らんだと思います。で、EDアニメの作り方としては、前回のラストでも書いたとおり、コンテ・演出は#01で演出デビューした江副仁美さんにやってもらいました。まずは当たり前だけど曲を聴いてもらって、

部室で1人誰かを待つ槍水

をテーマに自由にコンテを描いてもらって、それを

全面的に監修を入れたというわけ。あとレイアウトのチェックまではしましたが、作打ち〜背景・色打ち〜撮影打ちとかは、すべて江副さんです。リテイクもしっかりやってもらえて、とてもよいEDになったと思います。OPはシャープなカッコいい平田雄三作監で、EDはふんわりやわらかな杉本功作監——ふたつともそれぞれ魅力的な仕上がりでしたね。  と、そーこーしてる間にもう

#05まで放映されてしまいました!

 じゃ、#01からザザッとおさらい、といっても#01は第238回で書いたので、ちくわの話だけ。別にモノはちくわじゃなくてもよかったんですが「なぜちくわ?」と訊かれると早い話、原作で描かれてる主人公・佐藤のどことなく飄々としてトボけた性格を表すのと、何より安くてカロリーメイトやソイジョイに代わる食べ物を! という観点で選んだんです。原作を知らない視聴者さんたちには

戦いに敗れた者は「どん兵衛」
狼たちの携帯食は「カロリーメイト」か「ソイジョイ」

とハッキリ住み分けしてあげた方が分かりやすくなりますので。あと、クラスの女子にニヤニヤされながらも黙々と動じずちくわを食べる事で「どんな状況でもとりあえず受け入れ、我が道を行く」佐藤の性格も短い尺で表現できます。さらに板垣はちくわが好きです(第4647回参照)。ゴミ袋を持って歩くのも同じ理由で、真面目で健気、そして孤独をも短い尺で表すためのシーンなんです。こうでもしないと第1章の物量を圧縮しきれないくらい、濃い原作ですから。
 #02は#01を受けての謎解きと世界観説明というお決まりの構成に加えて、大猪、アラシなどとの戦い、さらに魔道士(ウィザード)こと金城優登場、槍水と一緒に夕げタイムと内容盛りだくさん。特に原作どおりお約束の夕げシーン、まず問題なのは原作には何気なく書かれている

月明かりのみでの食事シーン!

です。たぶん槍水や佐藤たちを「狼」と呼ぶところから、こーゆーシチュエーションにしてるのは分かりますが、映像にすると夜色(青色)ベースで食べ物を美味しそうに見せるのって大変なんです。なので多少ウソをついて夜色といえど青を入れない方向で色味調整してもらった上、弁当作監・色指定・特効・撮影とフル稼働で支えてるシーンなんです、実は。あと原作にある、食べた際の感想・解説の件——アサウラ先生の食べ物描写は最高で(原作未読の方に是非お勧めします。が、腹減りますから要注意!)、もちろんアニメでも活かしたいと思ってますが、そのまま喋りやモノローグでやると尺を食い過ぎるわりに、どっかの料理マンガの劣化版になりかねません。ただ、#02に関しては「佐藤が戦って初めて勝ち獲った弁当」という意味を立てるなら下手に喋るべきではなく「味わう顔のみ」で表現した方がよいとの判断が先でしたが。槍水も美味しそうに食べて頷くまでで潔く切ってみました。ふでやすかずゆき君が脚本段階で物量の調整をしてくれたおかげで、コンテにはしやすかった話数です。演出・橋本裕之君、作監・宮下雄次君も自分とは同学年の友人で非常に頑張ってもらいました。

 で、すみません。#03〜#05(とできれば#04用のOP)の話はまた次回。

(11.11.10)