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『時かけ』公開記念放談 細田守×小黒祐一郎
第4回 イベント性と映画的体験
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細田 でも、確かに山内(重保)さんのフィルムの面白さって、そういうところにありますよね。それをみんな、理解してないみたいだけど。
小黒 どうして、あの『デジモンハリケーン』の面白さが分からん!?
細田 ねえ。
小黒 目茶目茶に面白かったよ! いや、面白いという言葉は適切じゃない。
細田 適切じゃないんだよね。面白いと言わせない感じという。
小黒 そうそう。「面白い」という事すら違う。
細田 あんな映画は、なかなか観られませんよ。それは山内さんの作品の中でも『デジモンハリケーン』が一番強烈だと思うよ。『DRAGON(劇場版DRAGON BALL Z)』はそこまで行ってない。
小黒 行ってない。『カエル石(も〜っと! おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ)』の方が近いよ。
細田 『カエル石』は近いね。でもさ、そういう体験を「いいよね」と話すとさ、「それは作家主義的な観方ですよ」と言われてしまう事がある。それは違うんだよ。
小黒 違う! あれは! 山内さんを知らなくていきなり観・て・も!
細田 そうそう(笑)。『デジモン』や『どれみ』を全然知らなくて観・て・も!
小黒 持って行かれちゃうと思うよ。
細田 行かれちゃうと思うんだよなあ。
小黒 でも、レンタルビデオでいきなり借りて観ても、あのよさは伝わらないんだよ。
細田 それが悔しいんだよな。
小黒 あれは寝転がって、ポップコーンを食べながら観ちゃいけないんだよ。
細田 やっぱりそういう部分で、山内さんはアナーキストだからさ。ちょっと過激すぎるというか。
小黒 アナーキストか(笑)。そうだね。
細田 やっぱね。『カエル石』だったらさ、例えばバス亭の標識の上を流れる雨水が、とてつもなく綺麗に見えるじゃない。大事なのはそういう事だったりするわけだよね。線香花火が、観客に迫ってくるような綺麗さであったりね。今はそういった表現に触れる時に、ダイレクトに技術を語ったりするじゃないですか。だけど、CGがよかったとか、撮影がよかったという事ではないんだ。
小黒 「お面の特効がいい」とか言ってはいけないのね(笑)。
細田 だから、特効じゃないんだよ! 特効なんだけど、特効じゃない何かなんだよ。あそこに……あのお面におじいさんの闇が……(笑)。
小黒 なるほど!
細田 特殊効果じゃないんだ。あれは!!
小黒 おじいさんの心だ!!
細田 そうなんですよ! ……いやいやいや、俺ら、熱くなりすぎているよ!(爆笑) あまりにも山内さんが好きすぎて、トバしすぎているよ。これじゃあ、記事を読んでいる人がついてこないよ!!(大爆笑) かなりの読者を振り落としてるんじゃないの?
小黒 (爆笑)。そうだね。でも、まあ『デジモンハリケーン』は映画だったよ。
細田 そうだね。山内さんの作品なら『カエル石』よりも『デジモン』だという気がするなあ。だってさ、『デジモンハリケーン』には、技術や理屈を超えた破天荒ぶりがあるから!
小黒 作画のよさも気にならない、っていうね。それに対して『カエル石』はバランスがいい。さっきと逆の事を言うようだけど、作画のよさとか美術を楽しめるからね。
細田 作画と美術とCGのよさが結実していますからね。
小黒 『デジモンハリケーン』は行くところまで行く。
細田 そうそう。でも、難しいところですよね。例えば、映画を観て「お話が面白かった」と言っている人もさ、本当はお話だけで面白さを与えられているわけじゃなくて、言葉にできない映画的体験が彼や彼女に面白いと思わせているわけでしょう。つまり、お話以外の部分が、お話を面白いと言わせてるわけだよね。
小黒 それを分かりやすく説明できる例を挙げられればいいんだけど、今は、ちょっと思いつかないな。『風の谷のナウシカ』とか? 映画的体験という事でいうと、俺は『ナウシカ』はよく分かんないんだよね。
細田 僕も「アニメージュ」の盛り上げに乗ったクチですからね。『ナウシカ』については、イベントとしての体験しかしてないんだよね。映画として向き合った事がない気がする。
小黒 それは分かる。
細田 それも難しいところだよね。映画というのは興行だから、宣伝してお客さんを呼ばないといけないわけでしょ。だけど、宣伝すればするほど、イベント性が高くなっていくわけですよ。本来あるべき映画的体験よりも、そちらの方が大きくなってしまう場合がある。
小黒 思い出した。(鈴木)敏夫さんがまだアニメージュ編集部にいた頃の話だけど、宮崎さんの過去の作品を紹介する記事を担当して、そのために『ナウシカ』を観返したんだよ。そうしたら、記憶にあった以上に血まみれでどぎつい映画だったので驚いた。それを敏夫さんに言ったら「君は、今更何を言ってるんだ?」と呆れられてね。だけど、ロードショーの時に観た印象と全然違った。
細田 うん。
小黒 だってさ、公開時には「ナウシカからのバレンタインチョコレート」なんてCMをやってるわけだよ。
細田 そんなキャンペーンがあったんだ。ナウシカガールがチョコレートを差し出すようなCMなの?
小黒 だいたいそんなノリだったと思う。まあ、それで目が曇ったのは、俺が鑑賞者として腰が据わっていなかったんだろうけど。
細田 宣伝をしすぎると、きちんと映画に向き合えなくなるような気がする。かと言って宣伝しなきゃ誰も見に来ないしね。
小黒 観客が宣伝込みで観る事を悪いとは思わないんでしょ。
細田 うん。映画の半分はお祭りなんだから。でも、そういうジレンマはある。もしくはさ、宣伝で煽られてる内容と本編が違うという事もありえる(笑)。それは観客が怒り出したりするからね。『オマツリ男爵(ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―)』とかもう……。
小黒 あ! あれはひどかったよね。
細田 すいません。宣伝と違って申し訳ない。
小黒 俺ですらひどいと思ったよ(笑)。黒沢明の「生きる」(1952年、黒澤明監督)も、去年、新文芸坐で観た時に、初めてポスターを見たんだけどさ、初老男性と若い娘の恋愛映画みたいなポスターだったよ。
細田 全然違うじゃない。
小黒 あるポスターでは、志村喬よりもあの女の子の方が大きいんだよ。
細田 でも、そうなる事も仕方ないですよ。これは自己弁護するわけじゃないけど、映画と宣伝が食い違うというのは、映画産業そのものが内包するジレンマで、やっぱりイベント性と映画的体験というのは別個のものなんです。
小黒 だったら『時かけ』も別個の宣伝をすればいいじゃない(編注:これは『時をかける少女』制作中の取材です)。
細田 いや、一応は一致させようとしてるんだよ!
小黒 もっと派手にさ!
細田 「女の子の太ももムービーです」みたいな?
小黒 「時間旅行でSFです。過去と未来で大冒険。タイムリープで戦います!」みたいなさ(笑)。
細田 せっかくだから、最後に少し『時かけ』の話をしますね。「時をかける少女」って、今まで映像化されたものは全部実写だったわけじゃないですか。今回アニメーションでやったのは、今だと『時をかける少女』を実写でやっても、つまらないだろうなと思ったんですよ。大林(宣彦)監督版を頂点にして、何作か作られてるけどさ、あの物語を実写で語る事の限界みたいなものを感じてきたんです。例えば今だとタイムリープのシーンをCGでやると、大林版の特撮よりも、もっと迫力がある映像が作れそうじゃない。でも、それが観られたらなんなのよって気がするんだよね。CGで作ったタイムリープシーンより、大林版のタイムリープシーンの方が迫力があると思う。
小黒 手作り感のある特撮の方がね。
細田 そう。大林監督の「ねらわれた学園」(1981年、大林宣彦監督)の特撮シーンは、もっと凄いインパクトがありますよね。ああいったインパクトは、今のCGでは越えられない壁ですよ。
小黒 「ねらわれた学園」は、去年か一昨年にTVでやっているので、久し振りに観たけど「うわあっ」と思ったよ。あれは凄い。
細田 あれは公開から時間が経った事で、作品が熟成されて、ある種のアメイジングに変化していますよね。
小黒 だけど『時をかける少女』をアニメで作りたいと思ったのは、特撮的な部分だけではないんでしょう。
細田 それはそうです。
小黒 映画的体験の話ではなくて、アニメで映画を作る事のアドバンテージについての話だよね。それは次の機会にしようか。
細田 そうですね。それは映画が公開された後に、検証してみましょう。
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(06.07.24)
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