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特撮に導入されたジャパニメーションの技術
「ULTRAMAN」板野一郎インタビュー(前編)


 え!? どうしてWEBアニメスタイルで特撮作品の記事なの? と疑問に思ったキミはまだまだ甘い。『マクロス』シリーズでお馴染みの板野一郎兄貴が、劇場作品「ULTRAMAN」、そしてTVシリーズ「ウルトラマンネクサス」「ウルトラマンマックス」でCGスタッフとして腕を振るっているのだ。特に「ULTRAMAN」クライマックスのウルトラマンと敵怪獣ザ・ワンの空中戦は、実にスピーディであり、アニメ的な動きのメリハリのつけ方も素晴らしいもの。まさしく特撮版・板野サーカスだった。
 「ULTRAMAN」は、大人の鑑賞にも耐える「ウルトラマン」を目指して製作された意欲的な作品だ。この作品に格別の思い入れがあり、先日のアニメスタイルイベントでも多くの人に観てもらいたいとおっしゃっていた板野さんに、改めて「ULTRAMAN」についての話をうかがってきた。


●2005年6月30日
取材場所/東京 D.A.S.T
取材・構成/小黒祐一郎


▲「ULTRAMAN」より。左上、右下の写真が、彼が担当したフライングシーケンスだ
(C)ULTRAMAN製作委員会

小黒 「ULTRAMAN」に関わる事になったきっかけからうかがえますか。
板野 数年前に、3Dで美樹本晴彦キャラを動かす『零花』という作品がありまして。
小黒 ありましたね。DVDを買いましたよ。
板野 あ、買いましたか(苦笑)。僕は最初は参加していなかったんですが、作っている途中で、美樹本君から電話でヘルプがきたんです。それまで、CGクリエイターの人が動かしていたんですが、キャラクターの芝居が人形みたいだったんです。それで、アニメーションのモーションを見てもらえませんか、という事だったんです。その作品の監督が小中(和哉)さんだったんですよ。大昔に、小中さんの「四月怪談」という作品で、渡り鳥が飛んでいく辺りを作画協力した事があって、『零花』の現場に行って「あれ以来ですね。お久しぶり」なんて話して。小中さんも『零花』のCGに指示を出していたんだけど、思ったようになっていなかったみたいなんです。それで、アニメーションの原画修正みたいなかたちで、芝居を直していきました。なるべくモーションキャプチャーを使わないで、手づけにこだわって。それは大変だったんですけど、小中さん達も自分が思っている方向に直っていったので、喜んでくれたんですよ。
 僕は3Dの人にアニメーションを教える時には、まずCGスタッフを集めてゼミを開くんですよ。デフォルト環境で、そのまま演技をさせるんじゃなくて、カメラ位置やレンズを考えなくてはいけないんだ。生活感を出す時には標準レンズで、ディテールをはっきりさせたりとか、重さを出したりする時には望遠レンズ、スピードや形をデフォルメをする時には広角レンズとか。そういうところから教えるんです。そのゼミに美樹本君も小中監督も参加して、「勉強になりましたー」なんて言ってくれた。その時に、小中さんが「大人向けで、子どもが見たら怖いと思うみたいな、リアルな劇場版「ウルトラマン」を企画してるんですけど、その企画が通った時にはCGを使いたいので、ぜひお願いしたい」と言ってくれて。それで自分が「喜んでやらせていただきます! 飛行機も出してくださいよ」と言ったんです。
小黒 ああ、飛行機を出す事に関しては、企画段階で板野さんから言ったんですか。
板野 ええ。小中さんの方もジャパニメーションのいいところを特撮映画で使いたい。板野サーカスを取り入れたいと思っていらしたみたいなんですよ。それで、それから4年が経って(笑)。
小黒 (笑)。
板野 企画書から4年も経って。連絡がくるとは思わなかったですけどね。改めて、小中さんに「『零花』の時みたいにCGのアクションを全部、見てもらいたい」と誘っていただいて。だけど、その時は『GANTZ』の監督もあったし、『MACROSS ZERO』も続いていたので、全面的に参加するのは無理だったんですが「できるだけの事はやります」と言って引き受けました。シナリオを読ませてもらった段階で、「このシーンはコンテから、板野さんにやってもらいたい」と小中さんに言われて、そこはコンテからやっています。
 ウルトラマンや飛行機が飛んでいるシーンは、全部目を通しました。『GANTZ』のダビングやアフレコや編集と重なってない日は、なるべく出向いてチェックをしました。セスナが飛んでるだけのカットでも、ちゃんとチェックを入れて、飛行機らしさが表現できるようにしています。フライングのシーンの責任はとるという事でやっていたので、フライングシーケンスディレクターという肩書きでクレジットに出してもらいました。
 最後のウルトラマンとザ・ワンの空中戦はCGの方が多かったんですけど、CGのカットとCGのカットの間に、実写で撮ったウルトラマンやザ・ワンが入るんです。そういった場合は、実写の撮影に立ち会いました。あるいは空舞台を撮ってもらってCGを合成する場合も、撮影に立ち会っています。実写のカットとCGを並べると、やっぱり色合いが違ったり、CGカットの方がエッジが立ちすぎたりするんです。あるいは特撮の空はホリゾントで、グラデばかりで雲がないのに、CGの方は速く動かすために雲をいっぱい流すんですよ。そういった部分のすり合わせもやったり。
小黒 そういう意味では、特撮とCGの違和感は少なかったですね。
板野 ありがとうございます。ただ、アクションの段取りについては、もっとよくできると思うんです。それが劇場版をやって感じたところですね。CGの得意な分野と特撮の方が得意な分野を、もっと上手くつなげられるようにならなきゃいけないなあ。その反省は、TVシリーズの「ネクサス」に反映させているんですけど。


▲板野一郎の手による絵コンテ。
 ウルトラマンの飛び方についてアイデアも盛り込まれている
(C)ULTRAMAN製作委員会

小黒 他のスタッフとの連携は上手くいったんですか。
板野 何しろ僕達は、全然違う分野から参加していますから、(他のスタッフに)やりたい事を分かってもらうまでに時間がかかりました。ウルトラマンの飛び方も変える事も提案したんです。伝統的なウルトラマンの前に手を開いたポーズも、かっこよくて気持ちいいんですけど、今回は主人公がパイロットですから、それに相応しい飛び方がいいんじゃないか。自分が飛べるなんて思ってなくて、ザ・ワンに攻撃されたのを避けていたら、浮いたままになれたので、それでスーッと飛んで。また、攻撃を避けてたら、ビルに着弾してしまって、「やばい。ここで自分がうろうろしてたらビルも崩れるし、人も死ぬ。それは危ない」と思って、どこに逃げようかと考えて上に行ったら飛べた。「ああ、そうか、飛べるんだ、俺は飛べるんだ」。そう思いながら飛んでいく。そこで彼は初めて本当にウルトラマンになるわけですから、最初からウルトラスタイルで「シュワッチ!」と飛ぶのではない方が、人間臭さが出るのではないか。パイロットはフライト・シミュレーターを使ってイメージトレーニングをやっていますから、それと同じように「飛べる」と思ったら、自分を機体に喩えて手を後に向かって開く。減速は手を広げたり、加速は狭めたりする。これは大人向きでリアルな作品ですから、そういったかたちでリアルなスピード感が出る飛び方にしたいという意見を出して、なんとか通してもらえたんですよ。


▲同じく絵コンテより。パースがついたウルトラマンの姿に注目!
(C)ULTRAMAN製作委員会

 だけど、制作途中でワイヤーフレームのモデルが動いてるだけのCGのラフを見てもらったら「動きが速すぎて、よくわからないよ」とか言われて。それについては、小中さんが「この段階では分からないかもしれないけれど、背景が乗って、色もちゃんとついたら、凄い映像になりますから」とファローをしてくれたんです。CGスタッフがぎりぎりまで頑張ってくれたので、完成した映像を(他のスタッフに)見せるのが遅くなってしまって、それで皆が心配していたんですよ。だけど、ちゃんとしたラッシュが上がってくると、「おお〜っ!」と喜んでくれて。ずっと現場でやっている人は違いますよね。今までと違ったやり方でも、いいものは認めてくれるんです。「これは凄い」「面白い」「特撮で今までこういう画はなかった」と言ってくれて。それで、後から「もっとCGのシーンを増やせないのか」とか(苦笑)。予算的にもスケジュール的にもギリギリのところでやっていたので、後から増やす事はできなかったんですが。

●特撮に導入されたジャパニメーションの技術
「ULTRAMAN」板野一郎インタビュー(後編)に続く




PROFILE
板野一郎(ITANO ICHIROH)


1959年3月11日生まれ。神奈川県横浜市出身。血液型B型。『超時空要塞 マクロス』でメカ作画監督を担当し、常識を越えたそのメカアクションでファンを魅了。その仕事は“板野サーカス”の愛称で親しまれている。OVA『メガゾーン23』から演出を手がけるようになり、劇場『メガゾーン23 PARTII 秘密く・だ・さ・い』で初監督。現在は3DCGの仕事が多く、劇場特撮「ULTRAMAN」ではフライングシーケンスディレクターを、続いて特撮TV「ウルトラマンネクサス」「ウルトラマンマックス」ではCGIモーションディレクターの役職で腕を振るっている。また、「ウルトラマンマックス」では怪獣や宇宙人のデザインも担当している。



●関連サイト
ULTRAMAN THE MOVIE

●関連記事
アニメの作画を語ろう animator interview 板野一郎(1)
イベントルポ「板野サーカス! ウルトラマン! 板野一郎兄貴 大いに語る!!」


●DVD情報
「ULTRAMAN」DVD
価格:3990円(税込)
発売日:2005年7月22日
東映ビデオ/134分(本編97分+特典37分)/ドルビーデジタル(5.1ch・ドルビーサラウンド)/日本語字幕・英語字幕付(ON・OFF可)/片面2層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ
封入特典:オールカラー解説書(脚本・長谷川圭一書き下ろしサイドストーリー集「"N"THE OTHER」を収録)
映像特典:メイキング、未公開映像(解説付き)、ダイジェスト、劇場特報・予告、TVスポット、「Nプロ」プロモ
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(05.07.12)

 
 
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