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『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(1)
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今春に公開された『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』は、映画版『ONE PIECE』の6作目。『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』や『SUPERFLAT MONOGRAM』等で高い評価を得た、細田守の久し振りの劇場作品だった。彼の凝った画面作りは健在。また、重たいテーマを扱った異色作でもあった。DVDリリースをきっかけに『オマツリ男爵と秘密の島』についての話を、彼に訊いてみる事にしよう。
●2005年8月8日
取材場所/東京・吉祥寺
取材・構成/小黒祐一郎
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PROFILE
細田守(Hosoda Mamoru)
アニメーション映画監督。1967年9月19日生まれ。富山県出身。金沢美術工芸大学卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)でアニメーターとして活動を始め、後に演出家に転向。監督作品の劇場版『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』で高い評価を得る。他の代表作に『ひみつのアッコちゃん(第3作)』『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』(演出)、LOUIS
VUITTON店舗で上映された短編『SUPERFLAT MONOGRAM』(監督)等がある。『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』は、彼の3本目の劇場作品。現在は次回作になる劇場作品の準備中だ。
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小黒 劇場版『ONE PIECE』に参加する事になった時の事から訊きたいんだけど。最初は、どういうオーダーだったの。最初から、長編1本立てという話だったの?
細田 そうでした。「ワンピの長編をやらないか」という話で。「その前に、TVを1本やって勉強してよ」と言われて。はーい、って感じで。
小黒 それで作ったのがTVシリーズ『ONE PIECE』の第199話「迫る海軍の捜査網! 囚われた二人目!」ね。あれは細田演出にしては珍しく、カメラワークが……。
細田 (苦笑)カメラワークが派手でした?
小黒 いつもはカメラを振らない人なのに、珍しくPANとかしててさ。
細田 クイックTBとかね。
小黒 「あれえ?」とかって。ポリシーを変えたのかと思った。
細田 ハッハッハッハ(笑)。原作ものだし、続きものの中の1本だから、トーンを合わせる努力をしたんです。
小黒 「ONE PIECE」のマンガは、映画をやるにあたって初めて読んだの?
細田 読みました。
小黒 どうでした、マンガの方は。
細田 面白かったです。よくできた少年マンガだなと思いましたよ。あるべき少年マンガの姿だな、と思いましたけどね。
小黒 具体的には?
細田 なんだろうなあ。例えば、人間同士の絆みたいなものがまずあって、それをめぐる争いになっているところとかね。まず争いありきで、争いの中から人間関係が生まれるんじゃなくて、人間関係を深めていったら争いも必然的に生まれる、みたいな。そういうところが現実的だなと思った。
小黒 原作は、主人公が一度もパワーアップしてないところも凄いよね。修行して強くなる、とかやってないもんね。
細田 うん。「強い奴と闘いてえ!」というわけではないものね。それがあったので、より身近に感じたのかもしれない。
小黒 で、今回の映画のプランなんだけど、どこの段階から参加したの?
細田 えーっと、プロットができてから。
小黒 じゃあ、参加した時に、すでにオマツリ島の設定はあったんだ。
細田 あったあった。プロット見て「なんじゃこりゃ!?」と思った。
小黒 その発言、載せていいの?(笑)
細田 うん、いいよ。……と言ったところも載せましょう(笑)。本当を言うと、それを見た時に、一度は、これは自分にはできないかも、と思った。
小黒 なるほど。
細田 それは、原作のよさと違うと思ったんですよ。映画を作る準備として原作を読んで、面白いと思って。その延長線上でシリーズの演出をやってさ。なのに、プロットが上がってみると、原作の面白さとは別物のプロットだと思って戸惑いました。
小黒 プロットの段階ではどんな話だったの?
細田 「オマツリ島があって、色々試練を与える」というイベント仕立ての面白さが全てでしたね。それこそ「めちゃイケ」的なムードの、その場その場で面白がらせていくバラエティ的な作りでした。
小黒 で、シナリオが決定稿になるまでには、当然やりとりがあったわけだよね。
細田 あった。だけど、なかなか脚本を最後まで書いてもらえなかったんです。本当はシナリオ打ち合わせってさ、帰納法的に「ラストがこうならば、最初はこうなんじゃないのかな」と、全体像を考えてやっていくべきものじゃないですか。でも、脚本が最後まで書いてないから、そういったかたちで詰める事が、あまりできなかった。まあ、プロデュース・サイドとしては、バラエティで構成作家をやっている人に脚本を書いてもらってるから、バラエティ的なアイディアがあれば、アニメのシナリオっぽくなくて面白い、毛色の違ったものになるだろう。そういった考えだったんじゃないですかね。
小黒 その脚本は、プロデューサーの狙いどおりではあったわけだ。
細田 そうでしょうね。前作(『ONE PIECE 呪われた聖剣』)が、割と大人っぽい感じだったから、もっと笑いの多いものにしたいという意図があって、そのプロットを選んだんだと思うけど。
小黒 最初の脚本のプランだと、もっと試練がたくさんある感じだったの?
細田 うん。試練だらけだった。ひとつひとつの試練も長いしね。ただ、そういったイベント中心の内容を、どういうふうにアニメーションの面白さとして定着させるのかというのは、プロットの段階からちょっと難しいと思ってた。
小黒 映画の中で、ルフィに対する問題提示とか、「仲間とは?」といった事が浮上してくるわけだけど……。
細田 ああ、完成した映画ではね。
小黒 それは、脚本段階にはないんですか。
細田 あるけど、当たり障りのないようなものでした。よくある、仲間は大事だ、みたいな。そういうところを狙いにしているホンではなかったからね。
小黒 なるほど。絵コンテ以降の作業で、そういったところを膨らませていったわけね。
細田 そう。キャラクターの動機とか、気持ちの変化とかを、サブプロットとしてコンテの中に織り込んでいかざるを得なかったんです。コンテを描きながら考えていったら、ああいうかたちになった。
小黒 『ONE PIECE』ファンにとっては、ちょっと危険な回答を含んだ映画になっているよね。
細田 そうなのかな。
小黒 だって、今回の映画では、サンジやゾロも結果的に助かって、いつもの冒険に戻るんだけど。みんなが死んじゃっても、ルフィはお茶の間海賊団とか、チョビ髭海賊団と一緒に旅を続けられる可能性を示しちゃってるじゃない。
細田 そうだよね。
小黒 いつまでも昔の仲間にこだわるのもよくない、という事を言ってる映画でもあるわけじゃない。
細田 うん。だってさ、ルフィの目的は、ひとつなぎの財宝を見つけて海賊王になる事であって、今の仲間と冒険する事ではないんだもの。逆に言えば、ひとつなぎの財宝を見つけるために、仲間が必要だと言ってるわけで。そういう人物なんだよね。
小黒 それからもうひとつのポイントは、ルフィの「甘さ」だよね。いつも理想的な事を言って、それを実現させているけど、いつもそんな事を言っていられるのか、というクエスチョンも出している。
細田 うん。結果的にそうなっちゃったかなあ。そういう方へ行っちゃったかな。
小黒 結果的なの?
細田 うん、結果的だと思うよ。最初からそれを暴こうと思ったわけじゃなくて、やってたらそういうふうになっていっちゃったんじゃないかな。それは、ルフィについて考えたりとか、オマツリ男爵とは何者かというのを考えていった中で、ああいう展開に帰結しちゃったというか。だから、今回はあまり計算みたいなものがないのかもね。コンテを描きながら「こういう状況で、ルフィってどう行動するのかな」とか、「オマツリ男爵はどう行動するのかな」というのをその都度考えながらやっていったから。到達する場所があって、そこから逆算して作った感じではないのかも。
小黒 そこが『(デジモンアドベンチャー ぼくらの)ウォーゲーム!』との最大の違いだね。
細田 絵コンテ的にはさ、Aパートが終わったあたりから、なんていうか、真っ暗闇の中に漕ぎ出した(苦笑)みたいな気分でしたよ。ホントに。
小黒 Aパートってどこまでなの?
細田 Aパートは第1の試練が終わるまで。ジャングルの中を彷徨ってるところからBパートなんですけど。Aパートでオマツリ男爵の面々を出して、あとはブリーフ出して。Aパートのコンテの段階では、ブリーフがどういう人かよく分からないまま描いてた。
小黒 ブリーフって?
細田 チョビ髭。
小黒 ああ、そうか。最初に出てきた時に、いきなりルフィに石ぶつけたりして、「あれ、悪人?」と思うよね。
細田 (笑)そうそう。
小黒 あの場面では、ルフィの力を試してたんだね。
細田 あれですよ、「七人の侍」でこう……。
小黒 物陰から打ちかかるみたいな。
細田 そうです。そういう意味では、Bパートのコンテを描く段階から本気で考え出したんじゃないのかな。結論が分かんないまま進んでるから、ブリーフが何者かも分かんない。どういう役割をする人物なのかも分かんないまま描いていた。
小黒 脚本で、チョビ髭とお茶の間っているの?
細田 いますよ。チョビ髭はシナリオでは、説明を一手に引き受ける狂言回しみたいな役。お茶の間海賊団は、出オチというか、こんな弱い海賊団がいたら面白いという役。オマツリ男爵に導かれた不幸な海賊団のひとつとして登場していました。あんなに出番が多かったわけではないです。
小黒 で、細田さん的には「仲間」っていうのは必要なんですか?
細田 ん、どういう事!?
●『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(2)に続く
| ●DVD情報
「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」
DSTD02437/カラー/91分/ドルビーデジタル5.1ch/片面2層/16:9
価格:4725円 (税込)
発売日:2005年7月21日
映像特典:初日舞台挨拶、劇場予告、TVスポット
発売元:東映
販売元:東映ビデオ
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