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『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(4)
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小黒 DVDで観ると、みんながリリーに取り込まれてからの重さは、さすがに軽減されるね。劇場で観た時は、どうしようかと思ったけど(笑)。
細田 あのあたりのシーンは、音楽もついてないしね。あそこは単なる危機じゃなくて、物語の根幹に関わる事だから、重く受け止めてもらう必要がある、と思って。緊張感が出すぎて観客が疲れちゃうかもしれないけど、それでもちゃんと受け止めてほしかった。
小黒 難しい判断だね。他の活躍してくれたスタッフの話もお願いします。
細田 できれば、ビデオを観ながら「ここは誰々」と言いたいぐらいですよ。やっぱり、映画がいいのは「この人の原画があってこその、このシーン」みたいな感じになるところですよね。それは濱洲さんにしろ、馬越(嘉彦)さんにしろ、橋本(敬史)さんにしろ、伊東(伸高)さんにしろ……と言っていると、みんなの名前を言わなきゃいけなくなっちゃうけど(笑)。
小黒 濱洲さんって、どこやったの?
細田 濱洲さんはAパートの、ルフィが「俺はお前らを信じてるし」と言うところの一連。
小黒 ああ、門の前か。なるほど。
細田 つまり、ルフィたちのモチベーションがはっきりするところ。それからCパートで、お茶の間海賊団のパパが、チョッパーを助けようとする娘を力ずくで阻止するところですね。あそこを濱洲さんにお願いしたのは、ふたつとも海賊の船長が、仲間が(自分とは)逆の事を思っているのを、肩を掴んで押し止める、というところなんですよ。船長が自分の主張を通すところなんですよね。シチュエーションや目的は違うけど、ルフィがやったのと同じような事を、お茶の間海賊団のパパもやってる。だから、船長がどういう行動を取るか、という大きな節目の大切なところを、濱洲さんにやってもらってますね。
小黒 馬越さんは?
細田 馬越さんは、ブリーフにオマツリの矢襖が迫るところに、ルフィが戻ってきてはね返す。「オレの仲間に手は出させねえ」の後、ルフィがオマツリを殴って、振り返ると「チョビ髭!」と笑顔を見せる。ブリーフも感極まって「チョビ髭!」と言うところまで。
小黒 いいところをやっているなあ。さすがだ。
細田 さすがでしょ。素晴らしい! 馬越さんじゃなきゃ、ああいうシーンは成り立たない。
小黒 男爵との戦いで、弓矢が岩に当たる爆発で、岩の破片が飛ぶエフェクトがあったじゃない。
細田 あれは、橋本さん。素ッ晴らしいですよ、ホントに!
小黒 あの爆発って、カット数がずいぶんあったけど。
細田 爆発の一連はほとんど、橋本さん。あれは橋本さんを思い浮かべながら描いたコンテだから。
小黒 なるほどね。ルフィが空中からリリーを攻撃する空中戦は?
細田 今石(洋之)さん!
小黒 うわー、見たまんまだね。
細田 あそこは馬越さんのシーンの後の、ルフィが解放されたシーンだから、今石さんに清々しく、気持ちよくやってほしいと思って。
小黒 マニアの人が気にしてる松本憲生は?
細田 松本さんはね、Cパートのルフィとオマツリ男爵のいちばん最初の(館の中での)戦いのところ。最後に「犬神家の一族」みたいにルフィがグサッと地面に刺さって、というところまでです。松本さんにやってもらえるなんて、光栄だったなあ! それと……。やっぱり思いつくままに、原画の人の名前を挙げていいかな?
小黒 いいですよ。どうぞ。
細田 Aパートの冒頭は君島繁さんでしょ。で、金魚すくいは安藤正浩さんに、増永計介さんに、松田宗一郎さん。その後のルフィがチョッパーを助けるところが伊藤嘉之さん。Bパートのケロジイたちの登場が矢崎優子さん。そのあとのボートバトルは大塚健さん、高橋英樹さん、桑原幹根さん、渡部圭祐さん、楠三十朗さん、向田隆さんに、さっきも言った伊東伸高さん! 豪華なリレーですね!(笑) Cパートの鉄板対決は小松英司さんと東映の三浦(春樹)くん。カッパとウソップのところは白石亜由美さん、ナミとムチゴロウは中村章子ちゃん。射的の一連は吉田徹さんと杉浦幸次さんと一ノ関敦さん。カッパとゾロは和田高明さんで、チョッパーの戦いは坂崎(忠)さん。えっと、それから……。
小黒 まだ、続くんだ(笑)。
細田 ええ。ここからDパートですよ。磔にされるルフィは加々美(高浩)さんで、男爵の長セリフは西位輝実さん。声が聞こえた事を教えるデイジーは芳垣裕介さんで、ルフィを励ますブリーフは黒柳賢治さん。馬越さんの前が馬場充子さん。男爵の変形は吉成曜さんで、ルフィが矢を受けたまま歩くシーンは、名前は明かせませんが、最高のアニメーターです。
小黒 ほお。
細田 パパとデイジーのくだりは中鶴(勝祥)さんで、そのあとのパパのがんばりは、ROSETTE.Kさん。リリーが砕かれるところが新井(浩一)さんで、最後のルフィのパンチは中山(森)久司さん。で、エンディングに入る直前が福田(道生)さん。本当にため息が出るような豪華なメンツです。これだけの人が集まってくれたのも、作画監督の3人に人望があってこそです。でね、特にこの場を借りて言いたいのが、東映に西田(達三)君という子がいるんだけども、彼の仕事が凄かった。金魚の引き起こした大津波と、後半の首を伸ばすルフィのくだりという、大変なシーンばっかりやってもらってて、彼はまだ25歳と若いのに、こんなに巧いのかと驚きました。レイアウトの勘もいいし、動きも気持ちいいし……。作業中もスタッフルームに入って、作監諸氏の指導を受けながら、コツコツと分厚いカットを次々と上げてくれました。劇場作品のスペクタクルには、こういう人はなくてはならないですね。大変な実力の持ち主です。
小黒 それは今後の活躍が楽しみだなあ。それから、前半で極端な崩し顔が、何度かあるじゃない。あれは誰の意図なの。
細田 すしおさんですね。基本的には、すしおさんのやりたいようにやってもらってます。Dパートのルフィとオマツリの戦いの全体も、すしおさんの画です。すしおさん自体が元々巧かったから作監をお願いしたんだけど、作業をやってる間もどんどん巧くなっちゃって。AパートとDパートで、全然違うっていうかさ。Aパートも巧いんだけど、Dパートのオマツリに追いつめられるところから、最後にオマツリを打ち負かすまでのルフィの顔なんて凄まじいですよ。すしおさんの画力というか、漲る力みたいなものがそのまま画面になってるような。だってさ、9月10日に作打ちが始まって……。
小黒 よく日付を覚えてるなあ(笑)。
細田 それはもう、はっきり覚えてる。9月10日に作打ちが始まって、2月19日ぐらいに作監が終わったんだけど、その間に、すしおさんはどんどん巧くなっていくんだもん! もう驚異的ですよね。だから、劇場作品を作るって、こういうところがあるんだな。巧い人がさらに巧くなるっていう事がさ。貞本(義行)さんに「すしおは『ワンピ』をやって巧くなった」と言ってもらって(笑)。いや、山下さんや久保田君も素晴らしかったんだけど、ホント、すしおさんの仕事ぶりはかっこよかった。仕事をしている彼がルフィに見えましたよ。
小黒 なるほど。訊くまでもないかもしれないけど、という事は、チョビ髭のアジトのシーンは、山下さんが担当なんですね。
細田 山下さんです。素晴らしいですよね。
小黒 サッカーのファンみたいに海賊がウェーブするじゃない。あの場所(オマツリパーク)も山下さんがやっているの?
細田 そうです。あの一連は全て山下さんの原図と言うか、デザインですよ。あとホテルの中とか、廃船のくだりとか……。まあでも本来、山下さんの凄みって、現実や日常の情景で最大に発揮されるから、今回のような架空世界はやりづらかったとは思うんですけど。それでも凄かった。
小黒 全然違う話だけど、オマツリの部下が婆さんを除いて、全部男だったのは、元々彼らが海賊だったから?
細田 うん、そう。レッドアローズ海賊団という男爵が率いる海賊団だったから。
小黒 ウェーブを作れるぐらい手下がいっぱいいたの?
細田 いっぱいいたんです。
小黒 嘘くさいなあ。どんなでかい海賊船だい。
細田 船団を組んでいたんですよ。まあだとしても、(画面を見ると)1万人ぐらいいそうだもんね(笑)。
小黒 少なく見積もっても千人はいるよ。
細田 うん、千人はいる。でも、そのぐらいは、オマツリ男爵なら簡単にまとめそうだけど。大塚(明夫)さんの声を聞いてると、特に。
小黒 そうだね。キャスティングは今回、どうだったんですか。割とアニメらしいキャスティングだったよね。
細田 オマツリ男爵は、やっばり大塚明夫さんしかいないと思っていた。ただ、アフレコやってみたら、大塚さんは予想以上でした。
小黒 声優と言えば、やっぱりジジババがね。青二のベテラングループが豪華だったよね。
細田 豪華でしたね。今回、大物タレントを使ったりしていない事もあって、その辺も豪華に。八奈見(乗児)さんや、青野武さんにも出てもらえたし。山本圭子さんに、またやってほしかったし。
小黒 山本圭子さん、よかったよ。
細田 それから、安原(義人)さんも! 安原さんも素晴らしかったなあ。安原さんは、最初、お茶の間のパパかなと思ってて。でも、ちょっと考えてブリーフにお願いしました。安原さんでないと、「チョビ髭!」の説得力は出なかったでしょうね。で、パパの方を、浪曲師の国本武春さんにやってもらって。
小黒 どうして、そういう配置になったの?
細田 えっとね。いわゆる超人グループというか、ルフィ海賊団とオマツリ男爵の一味、それとブリーフとかはプロの声優さんにしたいと思って。でも、お茶の間海賊団だけはプロの声優さんじゃないようにしたかったんです。要は「普通の人」にしたかった。そういう割り振りなんですよ。それで、デイジーという女の子は、永井杏ちゃんっていうんだけど……。
小黒 えーと、下の娘?
細田 うん。耳がいい子。杏ちゃんは「66(ロクロク/The Creatures from
Planet 66 〜Roppongi Hills Story〜)」という六本木ヒルズの短編で初めてやってもらって。今だったら「女王の教室」に出てる。素晴らしいですよ、彼女は。テストの時から巧くて痺れました。ナチュラルさを芝居に定着できる素晴らしい才能です。
小黒 耳がいいという設定は、ちょっと唐突な気がしたんですけど。
細田 すいません! Cパートで思いついたんで、ごめんなさい!(笑) もうちょっと分かりやすい伏線を張れればよかったんだけど。
小黒 単にゾロ達が生きている事を知らせるだけでなく、娘がお父さんが言っていた事を知っていたという事をやりたいから、ああいう設定にしたわけだよね。
細田 そう。ああいうふうにしないと、お茶の間海賊団がルフィと関わらないんだよね。だらしない人だったパパが、どうすればやる気を出すのかな。娘にどんな事を言われると、最後に力を発揮するのかな、という事ですよね。
●『ONE
PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(5)に続く
| ●DVD情報
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