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『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(2)
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小黒 で、細田さん的には「仲間」っていうのは必要なんですか?
細田 ん、どういう事!? 仲間は必要ですよ、もちろん。……ああっ、そうか!? そうそう。多分、そういう事だと思う。これは脚本の人には悪いんだけど、僕がああいったかたちで映画をまとめたのは、単純に観客にとって面白いものにするためだけではなくて、僕自身の直面する問題があったからだと思う。要するに『ハウル』の問題があるんですよ。これ、載っけていいのかなあ、ハハハハハ(苦笑)。
小黒 いや、今日の話で一番面白いところだよ。
細田 そうなんだよね。要するに、そうなんですよ。『オマツリ男爵』という映画は、なんの映画かというと、僕のジブリ体験がね、基になってるの!(苦笑)
小黒 なるほど!
細田 ホントに! 実は。実は、というか必然的に。
小黒 ああっ、分かった。オマツリ島がジブリなんだ!
細田 そうそう、そうですよ! 要は、相手の懐に入って、アッハッハ! イーブンじゃない戦いを強いられた時に、アッハッハ! どうなるかという話なんですよ。
小黒 なるほどね。
細田 本当。本当にそうなんだよね。僕がジブリに行って『ハウル』を作ってる時に、その当時ジブリは『千と千尋(の神隠し)』で大変だったわけですよ。だから、『ハウル』の準備のためにジブリが割けるスタッフがいなかったの。いなかったんで、自分で集めなきゃいけなかった。作画にしろ、美術にしろね。自分が監督として、スタッフを集めていかざるをえなかったわけ。「お願いします」と言って、やってもらってたんです。僕はプロデューサーではないから、「気持ち」だけでお願いしてるわけですよね。「あなたが必要なんです」と言ってお願いしているんです。「『ハウル』は総力戦だ!」と思ってるわけだからさ、「この人がいなきゃダメだ!」と思うような人に、1人1人、お願いしてきてもらっていたんです。ところが諸事情で、プロジェクト自体がドカーンとなったわけじゃない。監督って、プロジェクトが崩壊した時に、スタッフに何かを保証できる立場にないんですよね。それが崩壊した時に、その人達に対して申し訳ないというかさ。「絶対にいいものを作ります!」と言ってたのに、公約を果たせなかった。ある意味、嘘をついちゃったわけです。裏切ったわけです。もう、誰も自分を信用してくれないだろう。映画って1人じゃ作れないからさ、本当に「もう俺は終わりだ!」と思ったんだよ(笑)。これはマジな話ね。これからは大きな事を言わずに、業界の隅っこで細々とビジネスライクにやっていこうと思ったわけですよ(苦笑)。そう思っていたら、『(おジャ魔女)どれみ(ドッカ〜ン!)』の40話で、関(弘美)さんと五十嵐(卓哉)さんがチャンスを与えてくれて。その上こんな俺に、「細田さんが何か作品を作るんだったら、やりたい」と言ってくれた人が奇特にもいたわけ。それが、すしおさんであり、久保田(誓)君なのよ!
小黒 なるほど、いい話だ。
細田 その時に、山下(高明)さんは「もうやらない」って言ったの(笑)。
二人 (爆笑)。
細田 「もう懲り懲りだ!」と言ったの。それは当然だと思うけどね。
小黒 それはそうだ。それで「やるよ」と言ったら、嘘だもんね。
細田 うん。嘘ですよ。それで、すしおさんとか久保田君が「やりたいです」と言ってくれたのが、俺にとっては凄い嬉しかったわけですよ。そういう意味では、僕にとってブリーフってのは、すしおさんであり、久保田君なの。
小黒 ああー、山下さんはゾロとかサンジなんだ。
細田 そうそうそう! 濱洲(英喜)さんとかね。そういう事なんですよ。分かりやすいでしょう?
小黒 分かりやすいね。でも、濱洲さんは『オマツリ』で原画をやってなかったっけ。
細田 ありがたい事にやってもらってます。山下さんが『オマツリ』で作監を引き受けてくれたりとか、濱洲さんが「原画をやるよ」と言ってくれたのが、心底本当に嬉しかった。だから、それは(映画の)最後で、朝日が昇ってきたところでやってきた人達のような(笑)感じなんだけど。
小黒 でもねえ、そういった事情があったとしても、細田守という人は、友情や仲間をテーマにするにはちょっとクールすぎたんじゃないか、というのは映画を観て思ったけどね。
細田 クールすぎるのかなあ。そうなのかなあ。自分の体験がたっぷりなんだけど。
小黒 だってさ、オマツリ男爵の魔力のせいで仲違いする前から、ルフィ達は仲が悪そうじゃない(笑)。
細田 それはデフォルトで、原作でもあるからさ。
小黒 いやいや。普通だったら冒頭では……。
細田 いや、だからAパートで、連携の取れたいいコンビネーションを見せてる。そういうふうに描いてるよ。それに対してオマツリ男爵が嫉妬する、という構図になってるよ。ちゃんと観てくださいよ。ホント。
小黒 いや、今朝もDVDで観てきたけどさ。
細田 ああ、どうもありがとうございます(笑)。
小黒 最後にみんなが復活した後も、「おい、船長! 何寝てんだよ」とか言って。うわ、優しくねー! とか思って。
細田 ハハハハハ。
小黒 クールだなー、って。
細田 うん、でもね、まあそれはどこか、そういうところがあるんじゃない? つまり、仲間と言っても、山下さんとか濱洲さんというのはさ、そんなに僕に甘くないからさ(笑)。全然甘くないよ。で、甘くないからこそ、信頼できるんですけど。だって仲よしクラブじゃないもの。
小黒 ルフィ達もね。
細田 うん。ルフィ達も。だって、ある種の目標を掲げた時にさ、途中で目標よりも仲よしクラブの方を優先するっていう事は、本来的にはないんですよ。そういった人達にとっての「仲間」というのはなんなのか、という事なんですよね。そりゃあさ、「何よりも仲間が大事」と言えばね、観客みんなが共感してくれる事かもしれないよ。でもさあ、それは現実ではないじゃない。つまり、一緒に仕事をしているスタッフ同士でもさ、時には袂を分かつような事というのは、起こりうるじゃない。
小黒 いやあ〜。
細田 クククク。もおー、ホントに! ハハハハ! そういう事なんですよ、ホント。で、そういう時にどうするか、という映画なの。
小黒 じゃあ、オマツリ男爵は、途中で終わってしまった『ハウル』の……いやいやいや(笑)。
細田 いや、いいよ! そういう事だよ!!
小黒 オマツリ男爵は、いなくなってしまったスタッフ達の事を、いつまでも思っているダメな監督で。
細田 メチャメチャ面白いインタビューじゃないの、これ(笑)。
二人 (爆笑)。
小黒 本当は、山下さんとか濱洲さんはいなくなってるのに(笑)。
細田 うん、そうそう。だからある意味、オマツリ男爵の姿って、僕の姿ですよ。そういう気分で仕事をお願いしてるし、ホントに彼らの事を必要に思ってるんだもん。いや、マジで。
小黒 仲間に対する理想と願望?
細田 うんうん。一緒にいてほしいな、というさ。一緒にやりましょう! という。
小黒 でも、「仲間」というものを大事にするがあまり、皆が不幸になってるという映画じゃない。
細田 そうだね。一方ではそういう側面もある、という事だね。
小黒 オマツリもそうだし、チョビ髭もそうだし。「お前何やってんだよ、旅立てよ! 仲間いなくなったんだから」とか思うんだけど。
細田 いや、でもチョビ髭は、仲間がいなくなっても、新たな仲間を見つけだす力を持ってる奴ですよ。
小黒 ルフィと出会えたから、そう思えるようになったんじゃないの。
細田 いや、前々からそういう奴ですよ。そういう意味ではブリーフも自分自身なんだけど。要するにそうやって信用を失った時にね。いつまでも、山下レイアウトや濱洲原画を求めて……これ、やっばいインタビューだよね! アッハッハッハ!
二人 (爆笑)。
小黒 それじゃいかん! と。そんなところで甘えていては。
細田 うん。だから、新しい仲間を見つけなきゃ立ち行かないというような、ある種、ギリギリの悲愴な覚悟なんですよ(笑)。いや、ホント。笑ってるけどさ、マジなんですよ。
小黒 いや、笑ってないって(笑)。それで、さっきも言ったように、すしお君や久保田君が、お茶の間さんだったり、チョビ髭さんだったりするわけね。
細田 まあ、ルフィ側からすれば、ブリーフだしね。ブリーフ側からすれば、ルフィなのよ。だから、もし俺がチョビ髭だったら、ルフィってのは、すしおであり久保田なの。いや、実際そういう話をさ、スタッフルームでも、山下さんを交えてした事があったけどね。
小黒 じゃあ、ちょっと違う話をすると。
細田 面白い取材だなあ。こんなに面白くていいのかなあ(笑)。
●『ONE
PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(3)に続く
| ●DVD情報
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