『キャシャーンSins』を戦い終えて……
山内重保監督・馬越嘉彦インタビュー(4)会心のソフィータ・アクション
小黒 馬越さんは作監で名前が出てる回と、総作監で名前が出てる回がありますよね。どちらの役職でも名前が出てない回、例えば羽山淳一作監の10話とかは、あんまりタッチしてないんですか?
馬越 はい。ゲストキャラとか、ほんの一部に手を入れたぐらいですね。逆に主役のキャシャーンには一切入れてないとか、そんな感じです。
小黒 特に10話はちょっとスペシャルな感じがありましたよね。これはどなたの意図だったんでしょうか。
馬越 ああ、俺です。
一同 (笑)
馬越 羽山さんに作監をやってもらって、俺はその画をただ「見る」っていう(笑)。
山内 あっはっはっは!
馬越 時間的な事もあったし、羽山さんは(山内監督タッチの)レイアウトも描けるので助かりました。結構、大変だったみたいですけど。でもやっぱり羽山さんのディオとかが上がってくると、俺は嬉しかったですね。
小黒 ああ、ちょっと男気が上がってる感じの(笑)。
馬越 ええ。
小黒 じゃあ、10話のアクションは完全に羽山テイストという事になるんですか。
馬越 でも、あの回は栗尾(昌宏)さんとか、巧い原画の人が結構いたんですよ。羽山さんがラフ原で動きを全部作ってるところもあったけど、原画の人もすげえ巧かった。ドゥーンの立ち回りとか、凄かったですよね。
山内 シャカシャカシャカってね。あのコンテは、僕からは出てこないタイプのものだった。
馬越 10話のコンテは伊藤(尚往)さんでしたか。
山内 うん。羽山君の話数(10話・17話)はふたつとも伊藤君がやってる。
馬越 そうだ。伊藤さんのアクションも大変なんですよ。
山内 羽山君も言ってたよ。2回目も伊藤君のコンテだったから「えーっ!」って。
小黒 伊藤さんは、アクションの組み立てが複雑なんですか。
馬越 いや、複雑ではないですよね。1カットで大半の立ち回りを見せるというか。
小黒 ああ、なるほど。
馬越 山内さんはカットカットで積み上げていくんですけど、伊藤さんのコンテは逆に1カット内で一手二手三手四手五手六手ぐらいまでいく。だから、変化がついてよかったと思いますけどね。作画は大変だけど、原画マンの人が凄く巧かったし。
小黒 馬越さん自身は、シリーズを通して原画はどれくらい自分で描かれてるんですか。
馬越 俺、原画はあんまりやってないんですよ。これも最近は増えてるかたちだと思うんですけど、レイアウトと第1原画までやって、2原さんに撒くというシステムなので。
山内 時間があれば多分やったんだろうけどもね。
馬越 まあ、2原はこっちの身内というか(気心が)知れてる人達にやってもらってます。だから1原は結構、自分でやってますけどね。
山内 前半は50〜60カットやってたよね。16話あたりから、120くらい?
小黒 ええっ!
馬越 そんなにやってないですよ。
小黒 16話というと、放映では15話の「死神ドゥーン」の事?
山内 うん、そうです。80くらいやってるんだっけ。
馬越 あれも50ぐらいじゃないですか。最終回も100はやってないと思います。
山内 最終回は140くらい、1原やってるって。
馬越 うそ!? ……いやあ、記憶がおぼろげですね。
小黒 放映15話で、馬越さんはどこを中心にやってるんですか?
馬越 俺は後半です。
小黒 確か前半で、リューズがお尻をポンポンと叩く、変わった動きがありましたよね。
山内 あれは澤田(英彦)さんという方の原画です。僕、あの人の画は好きですよ。
馬越 澤田さんも巧かったですね。
山内 レイアウトの取り方がちょっと僕とは違うんだけれども、動かし方はキチッとやってくれる。塔の話(第7話)で、最初にロボットたちがカードやったりしてるくだりも澤田さん。ホントに細かくやってくれてね。ちゃんとローテーションで入ってもらいたかったけども、なかなか……。
馬越 でも、最終回もやってくれましたよね。
山内 そうだね。だから全部で4回ぐらいか。
小黒 山内さんから見て、馬越さんの描いた部分で印象的なところはどこですか。
山内 やっぱり、2話が一番印象的でしたよねえ。当然、最終回も。ブライキング・ボスとの戦いはもちろん、その前のロボットとの戦いから、ルナのところを抜いてエンディングまでは全部馬越だから。
小黒 ああ、なるほど。
山内 それと「死神ドゥーン」の後半、ドゥーンとの戦いのところも馬越。あと、原画じゃなくて作監修正の話になるかもしれないけども、僕の意図といちばん合っていたよかったのが、4話のソフィータ。女の子だから元々力がなくて、プラス彼女のプロポーションも見せるという意図もあって、必ず全身を使って剣を振るうんです。腕だけで「えいっ!」みたいな斬り方じゃなくてね。跳ぶにしても「よっこらしょ」という跳び方が嫌だから、ポーンと。
小黒 花びらのように軽く、という感じですよね。
山内 その跳んだ時の足だとか、ポーズを作らなきゃいけないところとか、そういったソフィータ・アクションの一連をウマが全部押さえてやってくれた。あれは個人的に「こういう風にやってみよう」と決めただけで、ウマには話も何もしてなかったんだけれども、ちゃんとそういう風にやってきてくれてたから。
馬越 まあ、剣が凄く長いから、ああいうアクションにしかならないというのもありました。
小黒 丸加奈子さんが1人原画・作監をやった回がありましたよね。元々は前半の話数だった18話ですけど、あの回はかなり準備期間があったんですか。
馬越 まあ、他の話数よりは多少ありましたよね。
山内 後半になると、はっきり言ってもう作監がいなかったんです。別に丸さんの悪口じゃないですよ(笑)。
馬越 丸さんも作監はやりたくないと言ってましたよね。原画をたくさんやるだけならいい、とか。確か「半パートならいい」と言ってたのかな。
山内 結局、作画も人がいなくてね。だから苦肉の策ですよ。後半はもう全部(実質的に)ウマ作監のつもりで頼んでた。申し訳ないと思いながら。
小黒 なるほど。18話は、クレジット上は馬越さんが総作監で、丸さんが作監ですけど、総作監の立場で馬越さんが、丸さんの原画をみるかたちだったんですね。
山内 うん。本当はまた別の作監にきちんと入ってもらって、それでウマに渡したかったんだけど、それもできないし。後半は本当に「ごめんウマ」「ごめんウマ」って思いながらやってた。でも、ウマは来たらやるからね。
馬越 いやいやいや、もう無理です(苦笑)。限界を見ました。
山内 でも、丸さんはクセはあるけども、1枚(総作監修正を)入れると、画を合わせてくれる。
馬越 巧い人なんです。元々すっごいリアル画の人なんですよ。
山内 ただ、あの回はちょっと変にデフォルメした画になってたね。リューズがお尻振って歩いてるんだもん、ビックリしちゃった(笑)。
馬越 それはまあ、なかなか統一しきれないところですね。
小黒 ああいう可愛らしい歩きとかは丸さんの持ち味として、後半のアクションもですか?
馬越 ええ。動きは完全に丸さんです。
小黒 (チェ・)ウニョンさんの担当した20話もそういう事情だったんですね。
山内 そう。
小黒 僕らはこのあたりがバラエティに富んでて面白いなあと思ったんですけど、監督としてはそんなに意図したものではなかったんですね。その後の21・22話は作監を大量投入していますが。
山内 あれも、それ以外には絶対にやりようがなかった。確か21話はグロスに出して、あとはなんとか作ってる。
小黒 17〜22話あたりで皺寄せがドカンときてるわけですか。
山内 うん。長い事アニメーションの仕事をしてると、ここで止めたら絶対にポシャるというところは分かるんですよ。どこで手を打たなきゃいけないか分かっているのに、やるべきところが動いてないんだもの。かと言って納品しないわけにはいかないから、相当つらい手を打っていった。
小黒 つまり原画マンはなんとか揃えて、馬越さんがひたすら頑張る、と。
山内 それもそうだし、さっき言ったように1人原画・1人作監にしたりとか。……とは言っても、今回は思ったとおりの事はできたんだけどもね。
小黒 それは、どの部分で?
山内 「こんなものを作りたいな」というのが、最後まで貫き通せた。でき上がりの表面だけ見てると、あんまりブレなくできたと思う。
小黒 いえいえ、表面だけだなんて。「制作が凄く遅れてるらしい」という噂も聞いていましたけど、オンエアを観る限りでは、もの凄く潤沢なスケジュールで、作り手の狙いどおりに作ってるような印象でしたよ。
山内 ……この歳になって、あれだけ仕事したのは初めてですよ(苦笑)。
小黒 ああ、ひとつのシリーズで。
山内 もう死ぬかと思った。いやホント、寝る場所もないから椅子を並べて30分だけちょっとゴロンとして、また起きてコンテをいじって、というのをやってたから。そりゃ若い時は経験あるよ。(でも今は)もう無理。ただ、今回の作品をやって思ったのは、できるだけ自分でたくさんコンテを切った方がいいんだなという事。結果的にね。
小黒 実際には山内さんの手が相当入っていても、コンテに名前がクレジットされてない回もあるんですよね。
山内 うん。半分以上や、4分の3くらい手を入れたコンテもあったけど、それはもう元のクレジットのままで。全編直したのは2本かな。お陰でコンテが早くなりました。
小黒 おおー。
山内 22・23・24話は週に1本ずつのペースでしたね。この数まではウマならやってくれるという計算で(笑)。
馬越 いやいやいや、もう記憶がないです(笑)。
●第5回につづく
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(09.06.18)