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特撮に導入されたジャパニメーションの技術
「ULTRAMAN」板野一郎インタビュー(後編)


小黒 細かい事をお聞きしたいんですけど、絵コンテを描かれたのは、最後のウルトラマンが空中戦をするシーケンスですよね。
板野 はい、そうです。
小黒 日本のアニメらしい動きのタメが、CGで再現されていましたが、あれはどうやってるんですか。
板野 最後の空中戦のアニメーションは、僕が『零花』の時にモーションを教えて、『MACROSS ZERO』でも頑張ってくれた八木下(浩史)君と、『ゾイド』のアニメーションをやっていた原田(丈)君の2人が、ほぼ全部をやっています。前半のつけPANで大空を駆け回るやつを原田君がやって、後半のミサイルとかを八木下君が作って。彼らは自分達の事をアニメーターと名乗っているくらいで、ソフトを使って間を割って動かしたりしないんですよ。全部キーを打つタイプのCGクリエイターで。
小黒 つまり、作画で言うと、動画さんに中割を任せないで、全部原画で描いちゃうような?
板野 そうなんですよ。
小黒 それは凄い。
板野 2人がそこまでやってくれたんです。だから、使ったソフトやプラグインを公表したとしても、他のチームが同じものを作る事はできないんです。それらは作画で言えば、鉛筆とトレス台であって、やっぱり作ってるのは機械やソフトじゃないんだ。ただ、自分達は、やっぱりアニメ畑の人間なんで、コンポジットの作業は難しいんです。コンポジットはCINE-BOYという「ゴジラ」シリーズのCG合成をやってる会社にお願いして、ちょっとアニメっぽさを残しながらやってもらいました。この映画の実写のパートで、主人公が子どもの頃に憧れていたF-104とか、畑のところを歩いているシーンを、綺麗な思い出として表現しているんです。戦闘シーンは、そういった思い出の延長にあるので「綺麗に」という方向でやってましたね。綺麗に、速くて、かっこよく。
小黒 板野さんの具体的な仕事としては、CGスタッフが作ったものに手を入れている感じだったんですか。それとも先にラフを描いて渡していたんですか。
板野 基本的には、先にラフを描く事はしてないですね。打ち合わせした後に、1回好きにやってもらって、ワイヤーフレームで作ったラフなCGの段階で「技を撃つ前は、もっと身体丸めて」とか、「丸める時にタメとしてもう1枚いれて、その代わりに伸びる部分の2枚は取っちゃっていいから」と指示を出していました。今までCGの動きって(パーツがパーツに)食い込んだり、重ならないようにしていたので、そのせいで芝居が堅くなっていたんです。大人しくならないように「(パーツを)食い込ませちゃえ!」と言って大胆に芝居をつけて、食い込んだのが分からない位置にカメラをズラしたりとか。後で、実写の(スーツ)アクターさんが「着ぐるみでは、あそこまで柔軟に動かないよ」と言ってくれたんですよ。
 直す時には、クイックタイムでもらって、いらないコマを抜いて「いらない分を抜いたから、ここにタメを入れといてね」と言って戻したりしていました。そうやって少し手を入れる事で、力強さを出たしたり、力点移動を表現したり。ウルトラマンは人間に近い筋肉構造を持った巨人だから、ロボットと同じように動かすわけにはいかないんですよ。バルキリーと同じように動かしちゃうと、ウルトラマンの動きが軽くなってしまうんです。「やっぱりCGだと動きがヘンだよな」と思われたくないんで、その辺は神経質なぐらいに気をつけてやりました。
小黒 モーションキャプチャーは使ってないんですか。
板野 今やっている「ウルトラマンマックス」は使ってるんですよ。「マックス」はモーションじゃなくて、ビデオキャプチャーに近いのかな。映画でも、モーションキャプチャーは何ヶ所か録っていますよ。僕達がやったところではないですが、ザ・ワンが10mの時とかに使ってると思います。僕達がやったところだと、ビデオコンテを作るために、モーションキャプチャーを使ったんたです。段ボールを、新宿の副都心に見立てて置いて。僕が豆カムのカメラマンになって、ウルトラマンの人形を持ってもらって。(空を飛んでいる)気持ちよさが出るように、段ボールの間を飛ぶ人形をカメラで追って撮ったんです。CGIプロデューサーの渡辺(健司)さんに「板野さん、それ以上、近づくとビルのテクスチャーのバレが出ちゃうんで、カメラもっと離してください」と指示してもらいながら。
小黒 DVDの映像特典に、その撮影をしているところが少し入っていましたね。場面としては、最初にネクストが飛び立つシーンですね。撮影したビデオは、スピードは当然遅いわけですよね。
板野 遅いです。
小黒 動きやカメラワークだけ、それで作ったわけですね。
板野 そうですね。
小黒 そこはビデオの編集も、板野さんがやったんですか。
板野 あのカットは技術的にも渡辺さんの仕切りだったので、ビルのテクスチャが粗れてしまいそうなところ等を、渡辺さんが抜いて、という感じで進めてもらいました。


▲『マクロス』ファン感動のミサイルの乱舞。
 記事にあるように、コンテと実際の画面ではシチュエーションが違っている
(C)ULTRAMAN製作委員会

小黒 自衛隊機のミサイルも素晴らしかったですよ。あんなに『マクロス』的なミサイルになってるとは思わなかったです。
板野 コンテでは1機のイーグルが、ミサイルポットから計32発のミサイルを一斉発射する事にしていたんですが、(「協力」で参加していた)自衛隊の方から「こんな装備はない」と指摘されまして、それで、画面の外に3機いる事にして、4×4=16発を撃っている事にしました(苦笑)。映像では、1機がいっぱい撃ったように見えます。仕上がりには自衛隊の方にも喜んでもらえて。特に空自が喜んでくれました。
小黒 なるほど。
板野 この作品は本当に、やってよかったなと思いました。自分も、ジャパニメーションのタイミングや見せ方で、特撮が変わると思ってたんです。ハリウッドの映画なんて、露骨に(日本のアニメの)真似をしてるじゃないですか。そういうのを、さも「ハリウッドのオリジナルだ」みたいなかたちで見せてイイ気になってるところが、むかっ腹立ってたんで。
小黒 (笑)。
板野 だったら、日本で、日本のアニメの見せ方を取り入れた特撮を作りたい。ハリウッドの大作に比べれば予算は少ないけれど、やっぱり、凄いものを作るんだという心意気で。「ウルトラマン」だって、最初のシリーズは大人も子どもも、楽しめる作品だった。空想特撮シリーズじゃないですか。「ウルトラQ」なんて、子どもが怖くって泣いちゃうぐらいの内容じゃないですか。映画の「ULTRAMAN」と「ネクサス」は、本来のウルトラの姿に還ろうとした作品なんですよ。参加してよかったし、それを誇りに思っています。これを作った事で、今後の特撮が少し変わっていけるんじゃないのかなと、思ってますけどね。
小黒 映画「ULTRAMAN」と「ネクサス」については、内容についても、板野さんはOKだったわけですよね。大人びた「ウルトラマン」という事で。
板野 ええ。映画は「子どもを泣かすぞ」という事で作っていましたから。映画館にきた子どもがお父さんにしがみついたり、恐い怪獣を見ても動じないお父さんを見て、子供が尊敬したりとか。そういう風にしようという意図がありました。自分で監督をやった作品なのに『GANTZ』については「高いから買わなくていいよ、レンタル屋で借りて観なよ」と言っているんです。だけど、「ULTRAMAN」はDVDで観てほしい。「世界に通用したジャパニメーションが、今は特撮でこんな映像になっているんだ」というのを知ってほしいと思います。コマ送りするならビデオよりも、やっぱりDVDで。
小黒 DVDの方が綺麗にコマ送りできますからね。
板野 ええ。それで勉強してほしいなあ。アニメーションでも特撮でも、それを目指して勉強してる人は、やっぱり子どもの頃からいいものを見て、目を肥やしてほしい。「いいものが当たり前だ」と思って、業界を目指してほしいと思うんです。自分はこの20年間で、アニメーションを見ている子どもたちの動体視力を鍛え上げてきたと思うので。
小黒 そうですね(笑)。
板野 今の子どもたちが10年後、20年後に開花して、バカやキチガイが大勢出てくるといいなあ、と(笑)。最近の業界は、バカもキチガイも少ないですからね。型にはまらないようなバカが出てこないと。
小黒 WEBアニメスタイルは、バカとかキチガイといった言葉について、特に規制はしてないですけど、載せちゃっていいんですか。
板野 いいでしょう。普通じゃないくらいに夢中になってるという意味ですから。オタクとかマニアと言うと、内にこもったような、暗い印象の言葉になるじゃないですか。「○○バカ一代」とか、「あいつはもう○○の事となったらキチガイだよな!」とか。本当に、今の業界はオタクやマニアは多いですからね。だけど、やっぱり、バカ・キチガイですよね!(笑)
小黒 (笑)。「ネクサス」についても少しお願いします。「特に、この回を観てくれ」というのはありますか。
板野 やっぱり「姫矢編」の最終回(「Episode 24 英雄 ―ヒーロー―」)あたり。DVDでいうと6巻目から観てほしいですね。まあ、本当はみんな観てほしいんですけど、お勧めはやっぱり6巻ですね。「ネクサス」を全く観てない人は1巻の姫矢の登場から観てほしい。とりあえず1巻を観て、それで気に入ったら5、6巻を観るという事でもいいかもしれない。
小黒 じゃあ、1、5、6巻ですね。これから、リリースされるシリーズ終盤の方も。
板野 ええ、もうバッチリです。
小黒 バッチリですよね。ありがとうございました。


PROFILE
板野一郎(ITANO ICHIROH)


1959年3月11日生まれ。神奈川県横浜市出身。血液型B型。『超時空要塞 マクロス』でメカ作画監督を担当し、常識を越えたそのメカアクションでファンを魅了。その仕事は“板野サーカス”の愛称で親しまれている。OVA『メガゾーン23』から演出を手がけるようになり、劇場『メガゾーン23 PARTII 秘密く・だ・さ・い』で初監督。現在は3DCGの仕事が多く、劇場特撮「ULTRAMAN」ではフライングシーケンスディレクターを、続いて特撮TV「ウルトラマンネクサス」「ウルトラマンマックス」ではCGIモーションディレクターの役職で腕を振るっている。また、「ウルトラマンマックス」では怪獣や宇宙人のデザインも担当している。



●関連サイト
ULTRAMAN THE MOVIE

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イベントルポ「板野サーカス! ウルトラマン! 板野一郎兄貴 大いに語る!!」


●DVD情報
「ULTRAMAN」DVD
価格:3990円(税込)
発売日:2005年7月22日
東映ビデオ/134分(本編97分+特典37分)/ドルビーデジタル(5.1ch・ドルビーサラウンド)/日本語字幕・英語字幕付(ON・OFF可)/片面2層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ
封入特典:オールカラー解説書(脚本・長谷川圭一書き下ろしサイドストーリー集「"N"THE OTHER」を収録)
映像特典:メイキング、未公開映像(解説付き)、ダイジェスト、劇場特報・予告、TVスポット、「Nプロ」プロモ
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(05.07.13)

 
 
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