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■『トップをねらえ2!』秘話
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鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話
第1回 旧『トップ!』はオタク否定の作品だった?


 いよいよ最終巻を迎えた『トップをねらえ2!』。マニアックOVA金字塔の続編である事と、俊英・鶴巻和哉の監督作品である事で話題となった作品だ。シリーズ終盤の仕掛けに驚いたファンも多かった事だろう。今回のインタビューでは、企画の成り立ちから、鶴巻監督の旧『トップをねらえ! Gunbaster』への想い、テーマに関する事など、色々なお話をうかがった。なお、インタビューには佐藤裕紀プロデューサーにも同席していただいた。最終回の展開についても触れているので、未見の方はちゃんと本編を観てから読む事をお勧めする。


プロフィール
鶴巻和哉

1966年(昭和41年)2月2日生まれ。新潟県出身。血液型A型。高校卒業後、専門学校を経て、スタジオジャイアンツでアニメーターとしてデビュー。その後、ガイナックスに籍を移し、アニメーター&演出家として活躍。『ナディア おまけ劇場』で演出デビュー。『新トップをねらえ! 科学講座』が初監督作品。『新世紀エヴァンゲリオン』には副監督として参加し、デザインや設定にも関わる。オリジナル作品『フリクリ』が初の本格的監督作品であり、『トップをねらえ2!』はそれに続く監督作品となった。


●2006年8月15日
取材場所/GAINAX
取材・構成/小黒祐一郎


小黒 鶴巻さんは元々、旧『トップをねらえ!』がお好きだったんですよね。
鶴巻 ええ、勿論です。好きで好きで、大好きで。
小黒 『トップ2』の6話まで観て、鶴巻さんが『トップをねらえ!』のどんなところが好きだったのか気になったんですよ。
鶴巻 純粋に「努力と根性」とか、そういったところに感動したわけじゃなかった。熱血も、ある種のフェイクのように思えたんです。そういうどこまでがシリアスでどこからがユーモアなのかが分からない部分も含めて好きだった。例えば、ノリコが凄いオタクであるという事は「科学講座」では描かれているんだけど、本編中では直接は描かれない。オタクのメタファーとして描いている部分はあるけど。しかも、ノリコは自分がメタファーとしてのオタクである事を否定的に認識している。『エヴァンゲリオン』でやったような否定の仕方ではないのだけど、オタクである事を「よし」としていない。本編中では「私、オタクじゃなけりゃよかったのに」と思っていて、他の人がオタクにはならないように働きかけたりしている。だけど、科学講座の中ではオタクである事を誇っている。それは、多分、監督であった庵野秀明と、ストーリーをまとめた山賀博之の間でズレが起こっているためだと思うんです。そういうところも含めての、好き。
小黒 ノリコがオタクである事を誇っているというのは、科学講座であった「オタクね」と言われて「エヘへ」と言って流しちゃうところの事ですよね。
鶴巻 そうです。だから、一般的なファンの印象として、タカヤノリコは凄いオタクであるというような印象があって、なんとなく「それ、いいなあ」というイメージがあった。でも、『トップをねらえ!』では、制作者たちが作品中に積層させているテーマが一枚岩になっていない。それがひとつの塊にはなっているんだけど、めくればめくるほど違う地層が見えてきて面白いんです。SFである事についても自虐的なところがあると思います。言葉にするのは難しいんですけど、「SFって面白いだろう!」と見せているのではないんです。それは、最初に物語を作った岡田(斗司夫)さんの影響もあると思うんですよね。作品をちょっと引いて見ているというか、作っている自分達の事さえも引いて見ているような部分もあって。
小黒 「SF万歳」ですらないという事ですね。
鶴巻 一方で、当時の庵野さんはドーン! と作品に突っ込んじゃうタイプだったと思うんです。「自分たちが好きなものを好きなようにやって、何が悪いんだ」みたいところがあった。多分、当時の庵野さんや樋口さんはそういうタイプです。逆に山賀さんや岡田さんはちょっと引いて見ているところがある。引いて見て、冷静に別の意味合いを持たせて物語の配置をしている。その辺は相当に複雑にできているというか、複雑にできてしまった。見た目通りじゃない。そういうところも含めてとても好きです。
小黒 今のところをもう少し詳しく訊きたいのですが、劇中でノリコがオタクであるという事がメタファーとして描かれていて、それが「みんなオタクでなければよかったのにね」というのはどんなところに見えますか。
鶴巻 これは僕の解釈だから、実際に監督がどう考えていたか、脚本家がどう考えていたか分からないんだけど、ウラシマ効果でノリコは、他の人と違う時間を生きているわけですよね。
小黒 なるほど、その事ですか。
鶴巻 東京で必死にアニメを作って、久しぶりに田舎に帰ってみると、同級生だったオタク友達が結婚していて子供までいる。しかも、子供の事を第一に考えるような人になっている。ひょっとしたら、山賀さんが田舎に帰った時にそういう目に遭ったのかもしれない。友人に子供がいて、「え、まだアニメなんかやっているの?」なんて言われたのかもしれない。
小黒 昔は自分も友達もアニメが好きだったのに、友達は別の人生を歩んでいるわけですね。
鶴巻 あるいは「GAINAXって、君のとこの会社なんでしょ。将来ウチの子供が就職できなかったら、君の会社で雇ってくれよ」みたいな事を言われたのかもしれない。そういうウラシマ効果によって生まれたノリコの立場は、多分、オタクであるというか、アニメ関係者である自分に……少なくとも山賀さんにとっては投影されていると思うんです。その事をノリコが誇らしげに思っているのであればいいわけですよ。ノリコがバスターマシンに乗って地球を守っている事を誇らしげに思っていて、ウラシマ効果によって自分だけ年齢が若いままにある事さえ誇らしげに思っていれば構わないのだけれど、そうは思っていないんです。むしろ、そうなるのは自分が最後になるべきだと思っている。最終的にバスターマシン3号を起爆させる時に重力によるウラシマ効果が発生するんだけれど、そこにユングが参加しようとするのを拒む。ノリコは、私みたいにならない方がいいよと言うんです。そんな風に、テーマ的にはオタク否定と思えるような事をやっているにも関わらず、「トップをねらえ!」を観たオタクたちには大絶賛されてしまった。
小黒 他社の作品だけど、後の『RAhXePhON』と同じ構造ですね。
鶴巻 少なくとも、出渕(裕)さんはそれを自覚的にやっていて、しかも『RAhXePhON』ではずいぶん分かりやすく表現されている。『RAhXePhON』は『エヴァンゲリオン』の後でもあるし、自分批判というか、「自分自身も含めたオタク」をもう一度冷静に見てみることを自然にできた時代の作品ですからね。『トップをねらえ!』には、監督である庵野さん自身にそういう意識があったのか疑わしいのだけど、少なくとも脚本上ではそういう問題意識が、すでに描かれている。そういう部分も含めて、凄く楽しいなあ、と。
 しかも、そのくせオタクっぽい事を沢山やっていて、オタクでなければ分からないエピソードやパロディがいっぱい入ってもいる。ウラシマ効果のネタでさえ、一般の人では完全には理解できないだろうなと思います。そう考えると、オタクでなければ分からないお話に、オタク否定ともとれるようなテーマを入れているというのは、ほんとに面白い。もちろん、演出や作画の技術的なクオリティや、特撮、アニメ、アイドル、鉄道、そんなオタク的な小ネタの数々も含めて、僕は、そういう色んな変な要素が入っているアニメとしての『トップをねらえ!』が好きなんだなと思います。

●鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話 第2回に続く


●関連サイト
『トップをねらえ2!』公式サイト
http://www.top2.jp/
[DVD情報]
「トップをねらえ2!&トップをねらえ!合体劇場版!! BOX 」(初回限定生産)
BCBA-2786/カラー(一部モノクロ)/(予)345分(本編DISC1:約95分+本編DISC2:約95分+特典DISC1:約95分+特典DISC2:約60分)
価格:15540円(税込)
発売日:2007年1月26日
初回特典:特典ディスク1『トップをねらえ! 劇場版』上映版ディスク、特典ディスク2(キャストインタビューをはじめとした映像特典ディスク)、ノリコ&ノノ フィギュア、ブックレット、収納BOX
発売・販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]

[書籍情報]
トップをねらえ2! 画コンテ集 ガイナックス アニメーション原画集シリーズ (ムック)
A5版 888ページ
価格:3465円(税込)
発売中
出版社: ガイナックス
[Amazon]
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(06.09.21)

 

 
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