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■『ストレンヂア』
安藤真裕監督
インタビュー

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『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー
第2回 BONESに草鞋を脱いだ理由


小黒 ここ数年間はBONESの作品にずっと参加されていると思うんですけれど、最初はどの作品になるんですか。
安藤 最初は、劇場の『COWBOY BEBOP(天国の扉)』ですね。『メダロット』というTVシリーズで僕が初めて演出をした時に、プロデューサーの堀川(憲司)さんが、中村(豊)さんと伊藤(嘉之)さんの知り合いで、ちょうど仕事が空いていた2人を呼んできてくれたんですよ。そこで手伝ってもらったんです。僕はどちらかというと中央線沿線のアニメスタジオで仕事する事が多かったので、西武新宿線沿線のスタジオはシンエイ以外はよく分からなかった。上井草の方にはとにかくたくさんのスタジオがあって、巧いアニメーターさんが大勢いるらしい、という認識くらいで。それで『メダロット』で中村さんと伊藤さんの仕事を見て「すげえ巧いなあー」と思ったんです。その後、中村さんに「『ビバップ』の劇場があるんですけれど、手伝いませんか?」って言われたんですけれど、僕、よく知らなかったんですよね。コンテ見て「スパイクって誰なのかな」とか、「主役ってビバップっていう名前じゃねーの?」と思ったくらいで(笑)。
小黒 ああ、わりと間違いやすいポイントですね。
安藤 それぐらい知らなかったんですよ。それで中村さんに誘われて、一緒に仕事をして。ちょうどその時に「演出の仕事をしたい」という気持ちがあったので、その後の作品もあるみたいだから、とりあえずなんでも誘われたからやろうかな、と。それから『RAhXePhON』とかに参加して、それをひとつの区切りに、また違うところに行こうかなと思ってたんです。けど、『RAhXePhON』が終わる時、社長の南(雅彦)さんから「やりたい企画はないか?」みたいな話を受けたんです。
小黒 すると、『WOLF'S RAIN』の頃には、もう『ストレンヂア』の企画は動いていたんですか。
安藤 そうですね。『WOLF'S RAIN』をやっている時に、パイロットを作っているんです。それができた段階で「この企画、やるよ」と言ってもらえた。とりあえずその言葉を信じて、BONESにいようかなと思って。ただ、会社としては何年か先まで、ある程度は作品が決まっているわけですよね。アニメの企画なんて、パイロットフィルムで終わる事もあるし、どこまで実現できるか分からないけれど、途中で終わったら終わったで別にいい。逆に、外に行ってもそういう話があるわけでもないし、せっかくチャンスがあるんだったら、結果がはっきり分かるまで待とうかなと思って。その流れで、『鋼(の錬金術師)』とかも手伝いながらBONESにいた、という感じですね。
小黒 『ストレンヂア』をやるために。
安藤 そうですね。基本フリーなんで、仕事はどこに行っても一緒だから。
小黒 BONESという会社の印象はいかがですか。
安藤 『ビバップ』に原画で参加した時はスタジオに入らなかったので分からなかったんですけれど、『RAhXePhON』の演出をやった時、スタッフが作品に対して凄くこだわりを持って仕事をしているな、と感じましたね。なんか、もの凄くフィルムに対してアツいんですよ、しかもプロフェショナル。それは原画だけじゃなくて、逢坂(浩司)さん、川元(利浩)さんを中心に、色彩設計から動画チェック、各セクションの人達がフィルム作りに対して非常にこだわりを持ってやっている。フィルムに血が通ってるというか、そういう手作り感が凄くいいな、と。だから個人的には『RAhXePhON』の後はよそに行こうかと思っていたんですけれど、心のどこかで「やっぱりもう一度、このスタッフと仕事がしたい」という気持ちがあったんです。それで後ろ髪を引かれた部分もあって、今回の話がきた時、「ああ、またこの人達と一緒にやれるならホントにいいなあ」と思って。
小黒 『ストレンヂア』という企画は、先に原作や原案があるわけではなく、いきなりオリジナルで考えられた話なんですか。
安藤 そうです。
小黒 昔から温められていた題材だったとか?
安藤 全然。剣戟ものは学生時代は普通に好んで観てましたが、特には。最初、南(雅彦)さんに「なんかある?」って訊かれた時、「そんなのないっすよ。俺、アニメーターやってた人間だし」と答えたんです。けど、何年か前に違う会社で、結構有名な時代劇のゲーム企画があって、そのオープニングをやる話があったんですよ。剣戟アクションなんて意外とやる機会もないので「やるやる!」と言って話が進んだんですけど、結局、企画自体がポシャったんですよね。その時に「やっぱりこういうのって、自分でやらないとダメなのかな」とか思ったのが記憶に引っかかっていた。それで時代活劇ものの話をポロッと出したら、南さんも「ああ、面白いかも」って感じで、そこから動き始めたんです。当時は実写の時代劇映画というと「RED SHADOW 赤影」とか「梟の城」ぐらいしかない頃で、迫力のある時代劇もの自体、何年もなかった。「今のアニメート技術なら面白いものができるかな」と思ったんです。それが5〜6年前かな。
小黒 それこそ『RAhXePhON』の頃?
安藤 そうですね。まあ、そういう思いは脈々と『オーフェン』の時からあって。剣戟ものってそんなにない、というか難しいじゃないですか。「ソリッドな時代劇もの、きますよ!」って言ってたら、その後で「たそがれ清兵衛」とか、実写でもわりと凄い剣戟ものが出てきちゃって。
小黒 アニメ界にも、ちょっとした時代劇ブームがきますよね(笑)。「週に何本、TVで時代劇アニメをやってるんだ?」っていう。
安藤 そうですね。まんまと乗り遅れてしまいましたよ(苦笑)。
小黒 今だからこそ逆にいいタイミングなんじゃないですか。時代劇と言っても、いろいろなタイプがあると思うんですけれど、何か特定の作品をイメージされたりはしたんですか?
安藤 ……いろんなものが入りすぎちゃって、なかなかひとつには絞れないですね。実写だと時代劇だけじゃなくて、西部劇だったり、いろんな要素が僕の中では入っちゃってるんで。
小黒 一言では言いにくい?
安藤 そうですね。時代劇アニメの括りでいうと、僕の中では思春期に観た『カムイの剣』があって、それは今回の映画でも“俺的気持ちリスペクト”(笑)してます。
小黒 企画段階で押したいと思ったのは、やっぱりアクションの部分なんですか。
安藤 うん。自分が演出していく上で、いちばん最初に提示できるのって、その部分かなと。自分が得意だったところですから。そこにドラマが巧く絡まると面白いものになるんじゃないかなと。あと、「自分がアニメ−ターだったら参加したいような作品」っていうのが、まず最初にコンセプトとしてありましたね。それは、ただ実写の殺陣をトレースするようなアニメでなく、地に足が着きながらも、アニメ的な面白さも加味した活劇アニメを創ってみたい、と。
小黒 映画を観ていて、アクションに関してはホントに出し惜しみをしていないな、という印象を受けました。
安藤 ええ。もうこれが最初で最後になるかもしれないと思ったんで(笑)。
小黒 こういう作品の場合、えてして「もっとアクションが見たいよ!」とか思ってしまうんですが、『ストレンヂア』はそんな事を思わせないぐらい、よその作品の倍ぐらいアクションがある(笑)。やっぱり企画当初から、アクションがたっぷりある時代劇というのを想定していたんですか。
安藤 それはありましたね。脚本の高山(文彦)さんとも、企画に参加された時からずっと話し合ってました。「時代劇の王道を行くドラマで、アクションをやりたいよね」って。あと、最初はフォーマットをビデオにするのか、TVにするのか、という話もあったんですけれど、やっぱり劇場に対する思い入れがね。俺らの世代としては、80年代の劇場に騙された世代なんで。
小黒 『カムイの剣』とか、『マクロス(超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか)』とか?
安藤 まあ、83〜88年ぐらいの間にかけての劇場作品ですよね。それこそ『幻魔大戦』『クラッシャージョウ』『カムイの剣』『(うる星やつら2)ビューティフル・ドリーマー』、まあ『AKIRA』で終わるんですけれど。中には予告だけ凄くて本編観たら騙された、という作品もあるんですけれど(笑)、なんとも言えない高揚感があった。当時は「アニメの表現が、日本の映像表現の中でいちばん新しい」と、思春期ながらに思っていましたから。言うだけならタダだし(笑)、大きく言っちゃえ! って感じでしたね、ダメもとで。それと高山さん曰く、「時代劇をやるなら、劇場じゃないとちゃんとできないよ」という意見もあって、劇場にこだわったんです。
小黒 高山さんはわりと初期の段階から参加されたんですか。
安藤 パイロットができた後に空白期間があって、『鋼』の劇場ぐらいからなので……初期ではないんですけど、実際に制作が動き始めてから、まず来てもらったのが高山さんです。
小黒 なぜ高山さんだったんですか。
安藤 南さんとの話では「シナリオライターは、外国人以外だったら、実写の人でも誰でもいいよ」という話だったんですけれど。昔『オーフェン』をやった時に、知り合いの松倉(友二)さんというプロデューサーから「高山さんと安藤さんって合いますよ」と言われた事があったんです。僕はその時、高山さんってよく知らなかったんですよ。でも、そう言われた事がずっと引っかかってはいた。それで「シナリオどうする?」という話が出た時に、ちょうど『WXIII PATLABOR THE MOVIE 3』が公開されて、それを観たら「ああ、なるほど」と腑に落ちる事があって、高山さんにお願いしたという感じです。
小黒 高山さんとのお仕事はどうでしたか。
安藤 今回初めてがっぷり四つに組んだんですけれど、作り上げてくるものがホントに緻密ですね。打ち合わせして、「分かった。じゃあ2週間後」と言って、2週間後に来る時もあるし、捕まらなくて来ない時もあるんですけれど(笑)、少し話が固まったらやって来て、話の骨格を少しずつ増やしていく、という感じです。煮詰まったらまた来て、話し合って。
小黒 少しずつプロットの形を作っていった、という事ですか。
安藤 そうですね。あと、いちばん最初にペラでプロットを書いた時、字面だと剣戟だけではどうしても弱いんで、アニメ的なスペクタクルシーンをクライマックスに用意したりしてたんですよ。でも、高山さんから「劇場でやるには尺がちょっと足りない」とか、理詰めでちゃんと説明してもらって、俺もそれほどやりたくて入れた部分でもないので、外しちゃった。ただ、これを外すとスゲエ地味になるけどスポンサーとか大丈夫かな? という部分だったんですけれど、高山さんの話を聞いて南さんも納得して、上のセクションの方々にも説得してもらって、それで行こうという事になった。逆に言えば高山さんという人がいたからこそ、上の人達も納得してくれた部分がある。多分、俺だけだったら通らなかったと思うんですよね。ああいう地味な展開は。
小黒 なるほど。じゃあ、プロットの初期段階では、今よりもっと大がかりな仕掛けを考えていたんですね。
安藤 そうそう。もっとアニメ映画としてね。俺的には、今の方がいいんですけれど。ただ、どうしても多方面からいろいろ言われちゃうんですよ。「最後はやっぱり地震とかが起きて、塔が崩れないと」とか。
小黒 その言い分も分かります。
安藤 俺も分かります(笑)。でも、そうなると時代劇というジャンルでアニメーションをやる上で本当に何を見せたいのかな? と。高山さんはちゃんとそこを見抜いていて、上と話して「この方がいい」と説得して、他のセクションの人達にも納得してやってもらった。
小黒 あと、凄く瑣末な事なんですけれど、どうして川元(利浩)さんが参加していないのに、犬が出ているんですか?
安藤 え? いやあ、それは……。
小黒 BONES作品には犬か狼を出さないといけないとか、そういう決まりがある?
安藤 どうなんですかね? 他作品は分かりませんが、この作品の犬については単なる話の展開上、ですね。見ず知らずの他人が出会って、100分ある本編の中でお互い親しくなっていくには、間に何か必要なんですよ。だからそういうドラマ作り上のアイテムとして「犬、いいな」と。
小黒 なるほど。
安藤 聞くと非常につまらない理由です(笑)。あ、それと最後は、川元さんにも手伝っていただいて参加してもらってますよ。やはりBONESの中心の1人である方に手伝っていただくと心強いですね、本当に助かりました。

●『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー 第3回につづく

●『ストレンヂア』公式サイト
http://www.stranja.jp/

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(07.09.28)

 
 
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