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■『ストレンヂア』
安藤真裕監督
インタビュー

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『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー
第4回 たとえ何があっても、必ずフィルムにする


小黒 キャストはいかがでしたか。世間的には主役2人のキャスティングが話題になっているようですが。
安藤 最終的には「面白いところに落ち着いたなあ」と思いますね。最初に決まった時には「えっ!?」とか思って、結構スタッフの間でも驚きの声が多かったんですけれど。俺の中では意外とアリかなと思ったんですよ。長瀬(智也)さんも、声の雰囲気とか凄くいいなと思いましたし。知念(侑李)君も、最初にオーディションで会った時は、ちょっと難しいかなと思ったんです。声質自体は凄くイメージに近かったんですが、作品の中でいちばん喋っているし作品を引っ張って行く役でもあるので、初めてでは少し荷が重いかなと……。だけど役者さんに付いてボイストレーニングみたいな事をしたら、凄く飲み込みが早くて、アフレコ当日には、オーディションの時とは雲泥の差になっていました。俺は、彼と長瀬君との声のバランスが凄くいいなという感じがして、とてもよかったです。
小黒 その他の声優の方々は、どういう風に配役されたんですか。若干『ビバップ』寄りの顔ぶれという感じがしますが。
安藤 まあ、BONESのオリジナル作品なんで。
小黒 そうか、『ビバップ』というよりも、BONES作品でお馴染みのメンバーが出ているんだ。
安藤 それもまあ意識したのか、しないのか(笑)。ただ、しっかりした実力のある人をと、音響監督と相談してお願いしました。羅狼に関しては、結構二転三転して、最終的には山寺(宏一)さんに落ち着くんですけれど、中国語も喋る役なので、「それはもう山寺さんしかいないな」と。
小黒 なるほど。
安藤 中国語の台詞というのも、最初いろいろとネックになって、「みんな誰もそこに突っ込まないけど、大丈夫かなあ」と思いながらやっていたんです。それでコンテができ上がった時に、「これ、中国人は中国語のつもりなんですけど」と言ったら、みんなから「えーっ!」て言われて(笑)。俺自身それに関しては難しいだろうなと思っていたのでアッサリ諦めたんです。それで、最初は中国語の台詞はなしにして、全編日本語でやろうという事になったんですけど、でもある時、南さんが「やっぱさあ、日本語だけだとつまんねえんだよ!」って(笑)。結局その折衷案として、同じ中国人同士の会話は日本語の台詞にして、彼らが日本人相手に喋る時は中国語で、という方法にしたんです。分かりづらいかもしれないけど、まあ、それはそれでね。僕の世代としては、アニメの中で異国語か少しでも聞こえただけでOKで(笑)、何せ『(あしたの)ジョー2』とかもありますし。
小黒 ああ、やっぱり『ジョー2』なんですね!(笑)
安藤 そう。やっぱりアニメって画に描いたキャラクターなんで、それだけだと異質感が弱いんですよね。『ジョー2』を改めて見たら、キャスト見ても「全然外人いないじゃん!」っていう(笑)。エセ英語なんですけれど、それでも外国語で喋っているという事が、やっぱり幼い僕にはもの凄く分かりやすかったんですよ。「あっ、違う国の人間がいる」と。
小黒 ジョーとこの人は話が通じないぞ、と。
安藤 そうそう。特に今回は中国人なので、結構ジャパニーズにも近い。そういう異国間同士のニュアンスというのを出したかったんですよ。
小黒 中国人同士が日本語で会話するのはわざとなんですね。
安藤 そうです。少し強引ですが(笑)、互いに言葉が通じ合っているという事で。逆に言うと、中国人役には中国語を喋れる人しかキャスティングできない。だから山寺さん以外は、基本的にダブルキャストなんですけどね。山寺さんはホントに、もの凄くしっかり台詞を覚えてこられて。中国人のダイアローグアドバイザーみたいな人がいて、その人に「100点じゃなかったら何度でもやり直しますから」と言って。もの凄くプロフェッショナルでしたよ。
小黒 流石! 格が違いますね。
安藤 ええ、ちょっと感動しましたね。アドバイザーの方が「99点!」とか言って、「残る1点は?」「この最後の発音が……」とかやってるんですよ。当然そこはやり直す。凄いですよ。
小黒 大塚明夫さんの芝居も目立っているように感じました。
安藤 大塚さんの役は結構キャラが濃いんで、あのキャラクターが話を引っ張っていく部分は結構ありますね。羅狼と名無しって、お互いそんなに交流しないので。
小黒 終盤で、ちょっと主役みたいになりますものね。
安藤 そうなんですよね。コンテを描いている途中で「あまり後半出過ぎちゃうと、誰の話だかわからなくなってくるなあ」という怖さもあって。結構あっさり処理しちゃったんですけど、ホントはもうちょっと違う展開も考えていたんですよ。名無しと出会う場面をコンテまでは描いたりしてました。でもまあ、尺の問題もあって残り15分で羅狼と名無しと仔太郎、3人だけの話に持っていきたかったので。逆に、ああいうあっさりした終わり方が戦場っぽい感じで、あれはあれでよかったかなとは思っています。戦国時代に槍と刀でのし上がろうとしていた男の最期としてはね。
小黒 話は変わりますけど、今回かなり人体切断描写が多いじゃないですか。手首が切れたりとか、腕がチョン切れたりだとか。これもさっき言った、80年代アニメっぽい感じなんですか?
安藤 いや、そういうわけじゃなくて……作っている時に「痛さ」というのを意識したんですよ。アニメでそれを表現する上で、血ってあんまり出しすぎると、痛いというよりは汚くなっちゃうんですよね。それは80年代のアニメを観ていて、いろいろと思ったところでもあって。今回も、やっぱりどうしても血は出ちゃうんですけれど、なるべく一瞬だったり、そういう部分は意識して外してました。どちらかというと「砕く」とか「欠ける」……身体からものが欠けていく、そういうところで表現できないかという部分がありましたね。斬るというよりは引き裂くとか、そういった感じで。アニメで痛みを表現しようとする事自体、無茶と言えば無茶なんですけれど。
小黒 確かに、80年代スプラッタ的な感じとは、少し違いますよね。
安藤 そこは避けるようにしました。痛さを表現するなら、極端に考えて「バガボンド」みたいにもの凄くリアルなキャラクターが2人対峙していて、黒バックに光がピッ! と走った次の瞬間、血がブシューっと出てる、そういうほとんど動かないものか、もしくは『しんちゃん』みたいなキャラクターがいて、それがバサッと斬られて切れた腕が血も出ずにコロコロと転がる表現。結局は自分のやりたい事もあって、難易度の高い方向性にはなってしまいましたが……でも、そこは模索しながらやっていましたね。正直どこまでできたのか、微妙だなとは思うんですけれど。僕がアニメでホントに痛いと思ったのは、『タイガーマスク』の最終話で、タイガー・ザ・グレイトが折れた板で攻撃して、タイガーが避けた時に皮がめくれるところ。それか、『聖戦士ダンバイン』の1話で、ショウ・ザマのヘルメットに蹴りを入れるところ。アニメで「痛い!」と思ったのはあれぐらいしかないんですよね。
小黒 そっちかあ(笑)。
安藤 ああ、あとは劇場『ゴルゴ13』で、ゴールドの頭を拳銃の台尻の部分で殴る場面があるんですけれど、あれも痛かったな……思い出すと意外と出てくるなあ。……う〜ん、この話をしだすとキリがないのでやめます(笑)。
小黒 ドラマ的には、監督ご自身はどのあたりに思い入れがあるんですか。
安藤 僕としてはもちろん、名無しですね。やっぱり主人公なので。キャラクター的には、羅狼とかの方が好きなんですけど。名無しと仔太郎の、ベタにならない感じの心の交流とか、そういう部分は凄く好きです。高山さんって、そういうところあるじゃないですか。普通ならベタになるところを、ギリギリのところでグッと引く感じ。ああいうのが凄く好きだったんで、そういう意味で高山さんにお願いした部分もあるんです。
小黒 領主が捕まったところで、家臣が助けるのかと思ったら……というところも面白かったです。ああいうドライな感覚というのは、どなたのセンスなんですか?
安藤 高山さんだと思いますね。そこも僕が大好きなところです。でも、いちばん気に入っているのは祥庵かな? 人間臭くて。シナリオ読んだ時に、まさかああいう最期になるとは思わなかったですけれどね。えっと驚いた後に、「流石は高山さん……!」って。
小黒 その前に、祥庵が名無しに「あんたも所詮、私と同じだ!」みたいな事を言うところが、映画の中で唯一と言ってもいいぐらい、クドいところでしたね。
安藤 ええ、あそこはもう、クドくしました(笑)。シナリオではあそこが沸点のいちばん高いところですね。実を言うと、シナリオではあそこで名無しが刀の封を切るんですよ。
小黒 ああ、なるほど。
安藤 「あんただって、わしと同じじゃないかー!」と祥庵が叫ぶや、名無しが抜刀して袈裟を斬る、という展開だったんです。シナリオ上では、やっぱり文字でドラマを追いかけていくので、そうすると名無しのクライマックスはあそこになるんですよね。ただ、映像にしていくとそこから先のアクションが長いんで、刀を抜く場面をコンテで変えたんです。ちょっと終盤の方に。僕はどちらかというと、動的な場面の中でやりたかったので。
小黒 確かに、シナリオ的にはそこで刀を抜く方が理解しやすいですね。
安藤 そうそう。お話的には確かにそこで抜くよな、っていう。ああいう人間臭さというか、生っぽいところは、高山さんにお願いしてよかったなと思います。祥庵は凄く好きですね。
小黒 画の話に戻るんですけど、ご自身がイメージされていたアニメーションとしての質感や、動と静のメリハリみたいなものは、どういうイメージを持たれていたんですか。作る前のイメージと完成したフィルムを比べて、違いはありますか。
安藤 最初、もっと乾いた静的なイメージでしたね。フィルムの質感にしても、アクションにしても。ただ、やっていく中でどうしても派手になっていくというか、俺の中での漫画映画が好きな部分が出ていますね。高山さんのシナリオは、どちらにも振れる感じだったんですよ。やろうと思えば、スーパー地味にもやれるし。ただ、オリジナルの時代劇もので、もの凄くマイナスイメージばかりの中で、女の子キャラも出てこないとなると、やっぱり派手な方に行くんですよね。
小黒 「もっと女性を出せ」という周囲の要望はなかったんですか。
安藤 いやあ、山ほどありましたよ。
小黒 (笑)。
安藤 というか、俺も「ホントに大丈夫なのかな?」って。いざとなれば「実は仔太郎は女の子だった」という設定にでもしなければ、とか思ってましたけど、そこまでベタでいってもねえ。やり始めた時の思いとしては、「どういうかたちになろうとも、いろんな人の意見が入っても、最終的にフィルムまで持っていく」というのが、自分の中での目標だったんです。これまでいろんな人が自分の企画を温めてきて、結局は最後にちゃぶ台ひっくり返してか、返されてかフィルムにならずに終わっていく、という事例を端で色々見てきたので。そうじゃなくて、いろんな人の意見も取り入れながら、たとえ何があっても最後にフィルムまでには持っていきたい、という目標があったんです。そういう意味では、意外と最初の狙い通りにいきましたね。女の子も出ないし、時代劇で「少年と男の物語」なんて絶対に無理だと思ったんですけれど、これはホントにプロデューサーの南(雅彦)さんの力だと思いますよ。本当にこの企画に惚れ込んでくれたから。そのおかげでここまでやれたんだと、つくづく思いますね。南さんの作品に対する愛、オリジナル作品に対する愛は、僕なんかよりも溢れてますよ。また、そうでないとオリジナルなんてできないんだなあ、とも思いましたね。
小黒 プロデューサーが作品を愛していたからこそ作れたフィルムだった、と。
安藤 そうです。よく知り合いに言われるんですけど、「これから先はこんなの、もうないよ」って。確かに俺もそう思います(笑)。
小黒 また機会があったとしても、こんなリッチには作れない。
安藤 ええ。僕なんかホントに、いつどこで頓挫するのかと思いながら、ここまできた部分はありましたからね。「アニメの企画っていろいろあるからなー」って、ダメなマイナスイメージも常に持ちながら作業していましたから。
小黒 完成してよかったですね。
安藤 全くですよ(笑)。
小黒 映画が完成して、手応えはいかがですか。
安藤 そうですねえ、ちょっと「やりすぎたかな」って思いましたね(笑)。かなり歪なフィルムになったというのもあるんですけれど、まあ初監督だから、歪でもいいかなって。
小黒 歪というのは、構成的に? それともフィルム的に?
安藤 フィルムとして、ですね。最初に観た時はそうでもなかったんですけれど、この間久しぶりに試写を観た時、「確かにちょっと歪かなあ」と。でも、凄くパワーのあるフィルムになったという手応えもあって、それは凄く嬉しいです。今回、初めて監督やってみて、改めてアニメって本当にたくさんの人が関わって細かいこだわりの積み重ねでできているんだな、と新鮮に実感できましたし。自分としては至らないところが山ほどあるし、今オーディオコメンタリーなんかしたら凄い反省会になりそうな感じがするんで絶対できないですけれど。でも、監督としては本当に満足しています。ありがたいなって、とにかくスタッフに感謝の気持ちでいっぱいですよ。

●『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー おわり

●『ストレンヂア』公式サイト
http://www.stranja.jp/

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(07.10.02)

 
 
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