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熱烈再見『佐武と市 捕物控』

データ原口さんに『佐武と市 捕物控』について教えてもらおう(1)


 
小黒 原口さんが、最初に『佐武と市 捕物控』を観たのはいつなの?
原口 ちゃんと通して観たのは、かなり最近の事だよ。20年以上前に、アニメージュ編集部に「シャマイクル」の回(14話「荒野の魔犬 シャマイクル」)をダビングしたビデオが転がっていて、それを観たのが最初かも(笑)。多分、本放送では夜9時台にやったシリーズ前半は観ていなくて、観たとしても7時台になってからだと思う。
小黒 なるほど。多分、僕らと同年輩のアニメファンは、20世紀末にLD-BOXが出るまで、あまり観る機会がなかったのかな。
原口 だろうね。ただ、『(ファイトだ!!)ピュー太』じゃないけど、関西の方はどうだか分からないんだよね。今回、関西がキー局だったという凄い事実を知ったんだけど、もしかしたら関西では再放送をしてたかもしれない。ただ、『ピュー太』みたいな謎のアニメではなくて、知識としてこんな作品なんだというのを知ってはいた。
小黒 そうだったよね。耳年増的に知識を得ていた。「虫プロの映像主義のひとつの典型」みたいな感じでね。
原口 そうそう。スチールは、虫プロ資料集を始めとして、アニメージュとか、ランデヴーなんかに掲載されてたじゃない。で、そのスチールが結構な割合で「シャマイクル」だったりするんだよね。
小黒 それと印刷物で目にしたのは「三匹の狂犬」(1話)とかね。アニメージュの記事に載ったスチールが格好よかったのを覚えている。今思うと、虫プロが担当した話ばかりだね。
原口 そうだね。自分で作品を観て「この回が傑作だ」と思う前に、どれが傑作かという情報を植えつけられていたような気がする。だから、佐武役の声優が、途中で富山敬から井上真樹夫になるのだって、作品をほとんど観ていないのに知っていた。
小黒 分かる分かる。
原口 で、そういった事前の情報で、全体をりんたろうが総監督で仕切ってるんだ、と僕は長い事思ってた。実はそうじゃなくて、りんたろう(林重行)が仕切っていたのは虫プロの回だけで、スタジオ・ゼロの回にはまったく関与してないんだけどね。何かの資料で、全体の監督としてりんたろうがいて、その下で虫プロとスタジオ・ゼロと東映動画がやってるんだ、みたいな感じの説明がなされてて、それを信じていたんじゃないかな。
小黒 うん。俺もそんな記事を読んだ気がする。
原口 虫プロでは『どろろ』があったり、TCJ(現・エイケン)では『サスケ』と『(忍風)カムイ外伝』があったりして、昭和44年(1969年)前後は、時代劇とか忍者もので、どれも荒々しい線のタッチのイメージが共通していると思ってた。『どろろ』の方がまだ見る機会があったから、同時期の『どろろ』や『カムイ』を見て、勝手に作品のテイストを想像していたようなところがあったんだよ。ただ、想像していたものと実際の作品は、そんなに違っていなかった。あの頃の格好よかった劇画調のアニメのスタイルって、それぞれがオーバーラップしているところがあるんだよね。だから自分の中で『佐武と市』というのは、ちゃんと観ていないものがあるにも関わらず、観たような気になる要素がずいぶんあった。そんな妙な作品だね。
小黒 なるほど。
原口 今回DVDの作業をしていて思ったのは、ひとつは、さすがは虫プロというか、りんたろう、真崎守、村野守美の演出はやっぱり只事じゃない、という事。もうひとつは、スタジオ・ゼロの回に関しては最初の頃は、試行錯誤してる感じがあるんだけど、ゼロはゼロで、別のリアルさがあるんだって事が分かった。それで自分の中で評価がちょっと変わったよ。
小黒 というと?
原口 例えば、虫プロの回っていうのはスタイリッシュであって、人物がまるで平面のようにバサッと真っ二つに切られるといった、画的に割り切った鮮やかさがあるじゃない。グラフィックと言ってもいいぐらいのね。でも、スタジオ・ゼロの方は、実写の時代劇をやるような感じで、セットを組んで、そこにカメラ置いているかのような画を、懸命に作っているんだ。つまり殺陣を――技術的にはなかなかそこまで達成できてないんだけど――動画で見せようとしてるのは、スタジオ・ゼロの方なんだよね。
小黒 ほうほう。
原口 この作品で、「座頭市」の殺陣の人に実際に、市の居合い斬りを指導してもらって、それをフィルムに撮って参考にしたみたいな事が、やたらと当時の新聞なんかで宣伝されているんだ。だけど、りんたろうさんに訊くと、そんな事をやった記憶は全くないって言うんだよね。でも、(ゼロの)鈴木伸一さんにはその記憶があるんだよ。第1回をやる時に、そのフィルムを見て参考にしたと言うんだ。だから、ゼロはむしろ動画として真っ当にやろうとしていたんだよ。それに、実験的という意味で言えば、実写を使っている度合いはゼロの方が多いんだよね。
小黒 あ、そうなの。それは意外だなあ。
原口 うん。虫プロは、実は本当に限られた話数だけ、沢山の実写カットを使っているんだ。いちばん極端なのは、27話の「地獄の用心棒」って回で、実写で一騎打ちをやっている。
小黒 それって、写真を使ったという事?
原口 違う違う、実写のフィルム。
小黒 生身の俳優が出てくるの?
原口 今回の解説書でも触れたんだけど、りんたろうさんの記憶では、江ノ島方面に朝早くでかけていったんだって。で、後の初代マッドハウス社長になる、おおだ靖夫さんに草鞋を履かせて、波打ち際瀬で一騎打ちしながら走る足を、実写で撮ったらしい。それで撮った素材をアニメにはめ込んで使っている。
 一方、ゼロはちょっとしたところに、花火だとか雨だとかの実写の映像をこまごまと入れているんだよ。だから、ゼロの方が、本来相容れないような映像の要素を組み合わせるという実験に、積極的だった。虫プロの方はどちらかというとレイアウトとか、作画のタイミングとかカット割りという点での実験性が強くて、基本的にはアニメであろうとしているみたいなの。
 そういう意味でも、両社のリアルの捉え方の違いとかスタイルの捉え方の違いがあって、いい意味で競作してる感じはした。以前は思い込みで虫プロの方だけがスタイリッシュで、スタジオ・ゼロは普通に作っていると捉えていたんだけど、そうではないんだ、と。

●データ原口さんに『佐武と市 捕物控』について教えてもらおう(2)へ続く

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『佐武と市 捕物控』DVD-BOXは漫画単行本つき
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▲左はDVDのジャケット。右は封入特典の原作マンガだ。
●商品データ
DVDBOX「佐武と市捕物控」(10枚組)
価格:44415円(税込)
発売日:2005年7月27日
封入特典:別冊解説書、原作マンガ
発売元:青林堂ビジュアル
販売元:
コロムビアミュージックエンタテインメント
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(05.07.20)

 
 
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