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熱烈再見『佐武と市 捕物控』

データ原口さんに『佐武と市 捕物控』について教えてもらおう(2)


小黒 なるほど。話は前後するけど『佐武と市 捕物控』のトピックスとしては、スタジオ・ゼロ、虫プロ、東映動画(現・東映アニメーション)の3社体制で作られたという事がまず、挙げられるよね。
原口 そうだね。ただ、東映動画は後から入っているから、基本的には2社体制だね。
小黒 で、その2社はどちらかが上に立っているわけでもないの。
原口 うん。このあたり、完全には追い切れていないところがあるんだけど、分かっているところを言うと、最初にパイロットフィルムを作ったのはスタジオ・ゼロなんだ。それで、TVアニメ化を意図してパイロットフィルムをいろんな人に見せていたんだと思う。そうするうちに、大阪電通が「やりましょう」と言ってきて、TV化が決まった。本来であれば、スタジオ・ゼロ1社という形が望ましかったんだろうけれど、ゼロは当時、例えば『おそ松くん』の制作をチルドレンズコーナーと半々で分担したり、『パーマン』を東京ムービーと半々でやったり、というように、TVシリーズをまるまる1シリーズ担当するにはちょっと、制作能力のキャパが足りない会社だったのね。『佐武と市』の企画が決まったときも、ちょうど『怪物くん』を東京ムービーと半々で受け持っている真っ最中だった。それで、どうしてももう1社必要だという話になったらしい。それで、大阪電通から虫プロに話が行った。だから、大阪電通の方がイニシアチブを握っていて、ゼロに半分、虫プロに半分話を持っていったという事みたいなんだ。それでも、企画を始めたのはゼロなんだから、主導権はゼロが握ってもいいはずなんだけど、どういう経緯なのか、オープニングとキャラクターデザインは虫プロがやってるんだよね。
 残っているデザインからすると、佐武と市とみどりの3人は少なくとも村野守美が作っている。で、色んな話を聞くと、スタジオ・ゼロも、メインキャラに関しては村野のデザインをもらって、それを元に作画したらしいのね。で、各回のゲストのキャラクターはそれぞれの会社が独自に作っていったらしい。メインキャラクターを用意して、オープニングまでりんたろうと真崎守と村野守美で作っているから、TVシリーズは虫プロ主導で動いたようにも見えちゃうんだけど、当事者の意識としては、基本的に全く対等で作っていたようだね。
小黒 なるほど。東映が入るのは何話ぐらいからなの。
原口 35話かな。「稲妻小僧参上」から。
小黒 あ、あれがそうなの。木村圭市郎作監の回ね。
原口 3クール目に入ってから「東映にも声をかけよう」という事になったらしい。ゼロなり、虫プロなりが間に合わなくなって、さらに別のところに出すみたいな話だろうと想像していたんだけど、そうではなくて、「別の会社にも頼んでみようか」という感覚だったらしい。「東映と言ったら時代劇の大御所だしね」ぐらいの発想で、大阪電通が話を持っていったらしいんだ。それで、最後の1クールぐらいは3社で動いていた。
小黒 3社で作っていたとすると、アフレコなんかはどうしていたんだろうね。
原口 そうそう、そこなんだ。実は少なくとも音響監督は(制作スタジオによって)別なんだよね。
小黒 ええっ? いくらなんでも、そんな事が(笑)。
原口 虫プロは明田川(進)さんが音響演出をやっていて、スタジオ・ゼロは浅野良一という東京テレビセンターづきの音響監督がいるんだよ。で、東映はいつものように各話の演出家が音響演出をやって、録音スタッフもついている。
小黒 じゃあ、声優さんは、毎回違うスタジオに行って、アフレコをしていた可能性もあるんだ。
原口 そう。少なくとも東映は別のスタジオだったろうね。よくできたなあ、と思うよね。それに、虫プロやスタジオゼロと比較すると、東映の回はね、明らかに声優の流れが違うんだよ。
小黒 と言うと?
原口 ゲストの人達や番組レギュラーが、虫プロ回とスタジオ・ゼロ回とは被る事が多いんだけど、「稲妻小僧参上」の回になった途端に、野田圭一とか山口奈々とか北川国彦といった……。
小黒 東映作品でお馴染みの声優さんが入ってくるのね。
原口 うん、明らかに別ルートでキャスティングしている感じがあるのね。
小黒 さっき、キャラクターデザインは村野さんという話だったけど、杉野昭夫はデザインしてないの? 昔から気になっていたんだけど。
原口 えーとね、虫プロ側の制作話数が2本上がるか上がらないかぐらいの時に、放映が始まるんだけど、始まって間もないところで村野さんはキャラクターデザインを降りているんだ。村野さんは「馘になった」と言っているんだけど、そのへんの詳しい事はよく分からない。1本目、2本目では、村野さんはキャラクターデザインもやって、同時に作画監督にあたる立場にもあった。で、その時すでに杉野昭夫も作監補佐みたいな立場にいたんだよ。だから、村野さんが抜けた時点で、それまで村野さんの補佐をしていた杉野さんに、仕事内容のすべてがバトンタッチされた形になった。杉野さんはキャラクターデザインと、同時に作監も引き継いだわけ。
 虫プロ担当回では、最初は「作画」として村野守美、杉野昭夫、沼本清海の3人の名前が出てるんだけど、いわゆる作監的な仕事を受け持っていたのが村野と杉野。沼本は、何名かいた原画のなかの1人。いわば筆頭格としてクレジットに表示されていた、ということらしい。実際はほかにも、原画として若林常夫、小川隆雄、八幡正、森田浩光といったメンバーがいた。
小黒 沼本さんは、作監という役職ではなかったのね。
原口 そうそう。で、村野さんが抜けてもすぐクレジットに反映されたわけじゃなさそうなんだけど、虫プロの5本目、放送9話の時に、杉野昭夫、森田浩光、沼本清海とテロップが変わるんだよ。それまで杉野さんがいたポジションに、森田さんが昇格した形になった。つまり、村野さんが抜けた以降は、作監が杉野、作監補が森田という体制に変わったということらしい。
 でね、その9話「恐怖の島送り」は、村野守美の演出回なんだよね。村野さん曰く、自分はある日、キャラクターデザインを降りろと言われて、馘になった。でも、生活はしなきゃならない。それで、りんたろうから演出をやれと言われて、そこから演出をやるようになった、という事なんだ。ただ、実際には『わんぱく探偵団』で演出回が1本あるから、厳密には初演出ではないんだけどね。
 もうひとつ、村野さんの弁によれば、キャラクターデザインだけじゃなくて、今風に言えば、アクションデザインみたいな感じの事をやってたって言うんだよね。つまり、殺陣の見せ方とか作画のタイミングの約束事を設計するみたいなところに噛んでいた、と。
小黒 ああ、それはありうるね。
原口 ええっ、どういう事?
小黒 村野さんって、後の『カムイの剣』(劇場・1985)でも、カムイ無拍子なんかのアクション設定を描いているみたいなんだよ。一度、それらしい資料を見た事がある。
原口 そうなんだ。虫プロ側の事だけ話を続けるとね、直前までやっていた『わんぱく探偵団』(TV・1968)の班が――正確に言うと、『アニマル1』(TV・1968)を終えた班も同時に存在していたので、両方が合流しているんだけど――そのまま入ってくるのに近いかたちになっているんだよ。『わんぱく探偵団』って従来の虫プロ的な、スマートで洗練された線なんだけど、『佐武と市』になった瞬間に、明らかに村野さんの手によって直線的で荒々しいデザインになるし、作画も輪をかけて太くて荒っぽさを残した線になる。実際に1、2話をやりながら、そういう事を現場で指導していったらしい。村野さん本人も、デルマを使って描いたと言っているし、作画の人達に、荒々しく激しいタッチで描け、というふうにも言っていたらしい。動画の人も多分線をわざと太くしてトレスしていたようなんだ。
小黒 当時、トレスマシンだったの? ゼロックス?
原口 トレスマシンだよ。東映はゼロックスかな。
小黒 トレスマシンだとしても、使い始めるのが早いね。
原口 で、スタジオ・ゼロは、ハンドトレスをしていた可能性が高い。スタジオ・ゼロは、村野風の荒いタッチをマシンを使わずに表現しようとしてる感じの回があるんだよ。もしかしたら、トレスマシンも併用していたのかもしれないけど。というのもね、スタジオ・ゼロの回は必ず毎回トレスがクレジットされるんだよ。だから、部分的かもしれないけれど、ハンドトレーサーが機能していた様子がうかがえるの。だから、ハンドトレスが混じっていた可能性があるのがゼロで、虫プロはトレスマシンで、東映動画はゼロックスなんだ――と思う。それもバラバラなんだよ(笑)。
小黒 なるほど早いなあ。『巨人の星』がトレスマシンになるのは翌年くらいだものね。
原口 でも、トレスマシンっていうのは1966年ぐらいから導入はされて、1967年くらいから番組によっては使われるようになってるから、あまり目立たなかっただけで、徐々に普及していたんだと思うのね。『佐武と市』は1968年だから、トレスマシン自体が業界に導入されて、3年目になるのかな。
小黒 トレスマシンが応用されるようになってきたわけだ。
原口 そうだね、使い方がある程度分かってやるようになった。これはちょっと自信がないんだけど、市の仕込み杖の軌跡が白い線で流れるところを、村野さんは、白カーボンを使ってトレスしてると言うんだよ。そんな事ってできるの?
小黒 できるでしょ。ただ、色カーボンって、ハンドトレスで引いたほどは綺麗に出ないと思うよ。
原口 ああ、じゃあ、トレスマシンをかけた上で補正したのかな。

●データ原口さんに『佐武と市 捕物控』について教えてもらおう(3)へ続く

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『佐武と市 捕物控』DVD-BOXは漫画単行本つき
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▲左はDVDのジャケット。右は封入特典の原作マンガだ。
●商品データ
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価格:44415円(税込)
発売日:2005年7月27日
封入特典:別冊解説書、原作マンガ
発売元:青林堂ビジュアル
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コロムビアミュージックエンタテインメント
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(05.07.21)

 
 
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