43年目の憐々
先日の「アニメスタイル」イベントは大盛況でした。協力してくださった方々、ご来場してくださった方々、ありがとうございました。今回の更新はその
イベントルポ
と「
animator interview 中村豊(3)
」、「
東池袋アニメ積読録
」。それとニュースが2つ。「animator interview」は、今回のシリーズの最終回です。
で、以下が本題。
先日、映画『ぼくの孫悟空』を観てきた。原作は手塚治虫の同名漫画だ。手塚アニメと西遊記にはちょっとした因縁がある。
手塚治虫関連の西遊記アニメは、これが4本目になる。最初が1960年に公開された東映動画の長編『西遊記』。これも手塚の漫画「ぼくの孫悟空」を原作にして作られた作品で、彼自身が構成、演出(共同)の役職で制作に参加。絵コンテも描いているが、他のスタッフの手でそれがアレンジされており、必ずしも彼が思った通りのものにはならなかった。「東映動画長編アニメ大全集」(徳間書店)で、手塚は「出来上がった『西遊記』は私のイメージの50%くらいのものでしかありませんでした」と語っている、そこまで言うのには、後述するヒロイン、憐々(りんりん)の問題が大きかったようだ。
3年前に川崎市市民ミュージアムで開催された「日本アニメの飛翔期を探る」という企画展で、手塚の描いた『西遊記』のコンテが展示されていた。その時に展示されていたページから、元のコンテは、多分、もっと原作に近いスラップスティックなものだったのだろうと僕は想像している。なるほど、全編があのノリだったのであれば、当時の東映動画のセンスと相容れなかったのも頷ける。
その後、手塚は虫プロダクションを設立。『鉄腕アトム』の後番組として、1967年にTVアニメ『悟空の大冒険』を制作している。これも原作は「ぼくの孫悟空」だが、CDの杉井儀三郎以下のスタッフの才能が炸裂し、傑作ギャグアニメとなった。原作「ぼくの孫悟空」も自由奔放な作品だが、アニメ『悟空の大冒険』はそれよりもトバしていた。「悪ノリ西遊記」という意味では原作の精神を受け継いでいるとも言えるが、キャラデザインやキャラクターの解釈が大きく異なっており(気が弱い三蔵や、宝探しが生き甲斐の沙悟浄など)、原作通りのアニメ化という印象はない。
3本目の西遊記は、彼が亡くなった半年後、1989年夏に24時間テレビの枠内で放送されたTVスペシャル。その名も『手塚治虫物語 ぼくは孫悟空』(「ぼくの」ではなく「ぼくは」なのだ)。これは、ちょっとした異色作。二部構成で、前半が手塚治虫の自伝だ。少年時代に中国の漫画映画「西遊記 鉄扇公主の巻」を観て感銘を受けた手塚が、やがて成長し漫画家となり、虫プロダクションを設立するまでを描く。後半は劇中で彼が制作した(という設定の)「西遊記」だが、これが宇宙を舞台にしたSF西遊記なのである。もちろん、ストーリーは全然違うが、キャラクターは「ぼくの孫悟空」のものを使用。
この作品を最初に観た時、劇中で手塚治虫が自分の手で作り上げたものという位置づけの西遊記が、何故こんなヒネった内容なんだ、と僕は相当に驚いた。ところが、それは彼が亡くなる前の、病床での構想を元にして制作した作品であるらしい。
で、今年の『ぼくの孫悟空』である。僕の興味は、今度こそ原作通りの『ぼくの孫悟空』になるのか、だった。東京地方での劇場公開はもう一段落しているようだが、いずれビデオ化された時に初めて観る人も多いだろうから、作品の内容については、あまり詳しくは書かない。大雑把に言えば、悟空の設定が随分と違うし展開も同じとは言い難いが、それ程原作から離れているわけではない。後で原作を読み直してみたところ、細かいところで意外と原作に沿った部分があった。でも、原作に近い作品にするなら、もっと自由奔放さや、悪ノリ的なギャグが必要だったかもしれない。原作通りかどうかの判断は、ちょっと難しい。
今回の『ぼくの孫悟空』は作画監督を、共同で監督も務めている杉野昭夫が担当。絵柄に関しては、手塚アニメらしさと杉野タッチが融合しており、魅力的なものだった。特にメス猿の愛鈴(あいりん)は、いかにも手塚アニメ的な可愛らしさ。クライマックスの展開も、ちょっと手塚アニメらしいところがあった。原作通りがどうかは別にして、手塚アニメらしい「西遊記」ではあったと思う。
ところで、この『ぼくの孫悟空』は、アニメ史的に原作通りかどうかとは別に重要なポイントがある。ヒロインの愛鈴が、中盤で死んでしまうのだ。それについて、映画を観る前にリスト制作委員会の原口さんに指摘されて、なるほどと思った。今回の愛鈴も、東映動画「西遊記」に登場した憐々も原作に登場しないオリジナルキャラだ。「東映動画長編アニメ大全集」や「手塚治虫劇場」(手塚プロダクション)等に掲載された、「西遊記」に関する手塚のコメントを読むと、元々、彼のコンテでは、ラストで憐々は死ぬ事になっていた。だが、東映動画側に反対され、憐々は生き延び、ハッピーエンドとなったのだ。彼は、それを残念に思っていたようで、先の「私のイメージの50%くらい」という発言になるわけだ。
愛鈴のキャラクターが、憐々を下敷きにしているのは間違いないだろう。40年以上の月日を越えて、憐々が愛鈴となって再びスクリーンに登場し、生命を落としたのである。その死がクライマックスでないのと、死ぬシーンが描かれていない(悟空が五行山で寝ている500年の間に死んでしまう)のが残念だが。関係者の想いが生んだキャラクターであったのだろう。やはり、手塚アニメと西遊記の因縁は深いのだ。
(03.08.08)
更新情報(03/08/08・第91回)
animator interview
中村豊(3)
東池袋アニメ積読録 小川びい
第3回
「文月は書き手の熱気と執念に圧倒される日々編」
TAF2003 東京アニメアワード
フィルムフェスティバル開催
『ふしぎ魔法 ファンファンファーマシィー』DVD化
貝澤幸男、伊藤郁子が手がける新作OP、EDに注目
「納涼! 第2回いろんなアニメを観ちゃおう大会」
大盛況で終了
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編集・著作:
スタジオ雄
協力:
スタジオジブリ
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