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『コゼットの肖像』監督 
  新房昭之インタビュー(1)

 異色のOVA『コゼットの肖像』について、新房昭之監督に話をうかがってきたぞ。『コゼットの肖像』については下記の関連記事も合わせてどうぞ。『コゼットの肖像』は原作もなければ、先行して作られたTVシリーズもない、正真正銘のオリジナル作品。まずは、その企画の成り立ちについての話から始めよう。

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■関連サイト
『コゼットの肖像』公式HP
http://www.cossette.jp/


2005年2月14日
取材場所/東京・光が丘
取材/小黒祐一郎 構成/小黒、でぞれ

PROFILE
新房昭之(AKIYUKI SHINBOU)

1961年9月27日生まれ。福島県出身。血液型O型。高校卒業後、東京デザイナー学院を経て、アニメ界へ。とある制作会社を経て、スタジオワンパターンへ。アニメーターとしていくつかの作品に関わった後、『からくり剣豪伝 ムサシロード』で演出デビュー。『幽★遊★白書』で力作、異色作を連発し、その才能が認められ、『メタルファイター MIKU』で早くも監督に抜擢される。その後、数々のOVAやTVシリーズで監督を務める。代表作は『新 破裏拳 ポリマー』『それゆけ! 宇宙戦艦 ヤマモト・ヨーコ』『てなもんや ボイジャーズ』『The SoulTaker』等。昨年は『月詠 MOON PHASE』『魔法少女 リリカル なのは』『コゼットの肖像』と3本の監督作品を発表し、大活躍であった。


小黒 『コゼットの肖像』は、これほどの異色作であるにもかかわらず──『コゼット』って、傑作というよりは「異色作」と呼ぶ方が相応しいと思うんですよ。
新房 (苦笑)。
小黒 これだけの作品なのに、あまり人に観られていないみたいじゃないですか。(同席している藤本昌俊プロデューサーに)そういう事を話題にしちゃまずいですかね。
藤本 いや、いいですよ。同じ新房監督の『月詠』はあんなに売れてるのに『コゼット』は、なかなか数字が伸びなくて。
新房 「そりゃ、なぜだ」と思いますよね(笑)。
小黒 やってる事は、あんまり変わらないですもんね。
新房 うん。変わらないんですよ。
小黒 お兄さんと小さい女の子がいて、不思議な事が起きる。大ざっぱに言えば同じ話ですから。
新房 構造はそんなに違っていない。『月詠』も「血の契約」とか言ってるし。「あれ、似てるなあ」と思うんですけどね。
小黒 これは企画としては、どういうところから始まった作品なんですか。
新房 藤本さんとの付き合いからだよね。『それゆけ! 宇宙戦艦 ヤマモト・ヨーコ』の頃だったかな。
藤本 J.C.STAFFで会ったんですよね。随分前ですね。
新房 突然、電話がかかってきてさ(笑)。大泉の喫茶店で初めて会った。
藤本 そうそう。「何か監督してくれ」と言ったんでしたね。
新房 その時の作品は、ボツになっちゃった。でも、その後も「何か企画をやろう」と言って、ずっと探偵ものの企画をやってたんだよね。違ったっけ?
藤本 いやあ、色々ありましたよ。初めはタツノコでやろうという話だったじゃないですか。
小黒 藤本さんはどういった経緯で、新房さんを見出したんですか。
藤本 「珍しい監督いないかな?」と思って探していたんですよ。
新房 (苦笑)。
藤本 作家性があって、次に出てきそうな監督という事で。私もその時、アニメの世界に入ったばっかりだったんです。それで『新世紀エヴァンゲリオン』を観てて、「ああアニメってこういう作家性の強い人がいるんだ。じゃあ次の庵野さんみたいな人を探そう」と思って、色々と作品を観てて、新房さんが斬新な演出をやってるのに気がついたんです。「あ、面白いな。ちょっとこの監督とやってみたいな」と思ったんですね。
小黒 その時に御覧になった新房さんの作品は、なんだったんですか。
藤本 『ヨーコ』のOVAですね。それから『(メタルファイター)MIKU』とか、一通り観ました。で、本人に会って、「『幽★遊★白書』のこの話も観てほしい」と言われて、観たりとか。「ああ、やっぱりこの人は他と違うなあ」と思って。
小黒 『幽★遊★白書』はやっぱり、ドクターのテリトリーの話(74話「テリトリーを打ちやぶれ!!」)ですか?
藤本 そうです。あれが印象がよくて。
小黒 やっぱりそうですか。
新房 あれ、そんな事を言ったっけ。
藤本 言ってたよ。
新房 うーん、言ってたっけ。覚えてない(笑)。
藤本 その時の企画は、『デビルマン』のリメイクみたいな話だったんです。だけど、なかなかかたちにならなくて。やっとまとまったのが『コゼット』なんです。
小黒 じゃあ、最初から新房監督の作家性ありきの企画だったんですね。
藤本 完全にそうです。だから、こうなるとは思っていました。
小黒 ああ、ここで謎がひとつ解けましたね。「これは一体どこから始まった企画なんだろう?」というのは、1巻を観た時から不思議に思っていました。
藤本 最初から、あんまり商業的な観点からは考えてない企画でしたね。
新房 (笑)。
小黒 どこからゴスロリが出てきたんですか。
新房 ゴスロリは藤本さん達からの提示でしたね。「これからはゴスロリだ」と言われて、ああ、そうなんだ、と。
藤本 暗いし、オカルト入ってるし、新房さん好きだろうな、と思って。元々、新房さんはオリジナルで「ダークヒーローものをやろう」と言ってたんです。だけど、それよりも先に『The SoulTaker』を作られたじゃないですか。「じゃあ全然違う企画にしなきゃ」と思って。
小黒 『SoulTaker』を御覧になって、やっぱり「やられちゃったあ!」と思われたんですか。
藤本 ええ、それはありましたね。ただ、『SoulTaker』って、観ていて話があんまり分からなかったんで、「話はもう少しシンプルにして、映像はあんな感じで」というコンセプトで行こうとは言ってたんですけどね。

▲ 新房監督の代表作『The SoulTaker』より。

小黒 そういう企画で始まった『コゼット』ですが、仕上がった作品は決して分かりやすくないですよね。それに関してはどうなんですか。
藤本 自分でやってるうちに、だんだん入り込んでしまって、「この話の流れはこうでこうだよね。うん、分かる分かる」という感じになってしまった。そのせいで、やや難解な作品になってしまったかもしれない。
小黒 なるほど。作品に入り込みすぎて、客観性を失ってしまった?
藤本 それはありますね。企画意図から外れたわけではないけれど、ちょっとやり過ぎたかもしれない。
小黒 いかん。反省会みたいになってしまった!
一同 (笑)。
小黒 新房さんへの質問に戻します。『コゼット』は渾身の作品ですよね。「ああ、新房さんが力を出し尽くすとこうなるんだ!」と思いましたよ。
新房 そうですか。それは自分では分からないですけどね。
小黒 作家性という意味では、『SoulTaker』の1話にも印象が近いですね。
新房 うん、でもそれとは別物にしようっていう意識はあったんですけどね。もうちょっと離れたものができる、と自分では思ってたから。でき上がったそのふたつが近いかどうかは自分では分からない。ただ、力の入れ具合で言うと、全3巻のシリーズで、コンテと演出を全部やったのは初めて(笑)。
小黒 『新 破裏拳ポリマー』ってどうでしたっけ?
新房 『ポリマー』もそれに近いか。だけど、あれは全2巻だし、コンテを人にやってもらっているしね。3本の作品をこれだけ時間かけてやったのは初めてです。
小黒 演出処理も全部やってるんですか。
新房 うん。
小黒 じゃあ、純度100%の新房演出ですね。
新房 そう。ただ、デジタルになってからだから、思うようにはいけてないというか。だいぶシステムが変わっちゃったんで、かなり周りに助けてもらった。
小黒 新房さんにとって、デジタルを積極的に取り込んだ作品はこれが初めてだったんですね。
新房 自分で演出したものはそうです。だから、分かんないんだよね。「これは大きく描いても平気」みたいに言われて、「ああ、そうなんだ」と思ったり(笑)。ちょっと勝手が違った感じはありました。
小黒 「大きく描いても」というのは、個々のパーツを?
新房 うん。「大きく描いて小さくはめ込めばいいんだよ」と教えてもらって、「あ、そうなの?」って(笑)。そういった事は作監の鈴木(博文)さんの方が詳しかったので、かなり助けてもらった感じですかね。鈴木さんは自分で撮影もしてますから。自分よりも、鈴木さんの力の方が大きいかもしれない。

▲ 新房監督の最新作『コゼットの肖像』より。 

小黒 いやいや。ちょっと、企画の成り立ちまで話を戻したいんですけど、元々、プロデュースサイドから「ホラーで、ゴスロリ」という提案があったわけですね。
新房 いや、「ゴスロリ」ですね。
小黒 「ホラー」は後から加えられたんですか。
新房 そうです。僕もホラーにするつもりはなかった。幻想もの、ファンタジーにしたかった。ホラーを入れると、ファンタジーが崩れると思ってたんです。ファンタジーっていうより、「雰囲気もの」かな。雰囲気で押していく作品を作るとき、あんまり直截的なものを入れると、どうしても流れが崩れちゃうんですよね。だから、本当はそっちに行かないようにしようと思って始めたんです。それが結果的にああなった(笑)、という。
小黒 それはなぜなんですか。
新房 やっぱり、勝手にそっちの方へ行ってしまったんですかね。自分の中では抵抗があって、コンテを描いてる時には、ホラーっぽい要素はなるべく外そうと思っていたんだけど(笑)。
小黒 脚本のままではあるんですか。
新房 うーん、そうですねえ。そうなんだけどねえ。
小黒 主人公の少年がいて、いないはずの女の子に惹かれていって、その女の子に囚われていくみたいなストーリーは初期段階からあったんですよね。
新房 そうです。
小黒 それは、どの辺りからあったんですか。脚本家が参加した段階ですか。
新房 いや、脚本の関島(眞頼)さんはプランを練る段階から参加してました。プランの段階から、大筋としてはそういう話ではあったけど、もうちょっと、グラスの中の少女の生活を描くような感じにしたいなあ、と思ってたんです。
小黒 ああ、なるほど。いきなり会うんじゃなくて。
新房 そう。徐々に取り込まれていくっていう風に、淡々と描いていきたかったんだけど、なかなかそうはならなかった。1巻の途中から幻想シーンに入るじゃないですか。ドクロが出てきたりとか。あそこは今観ると、ちょっと浮いてるなあと思うんですよね(苦笑)。
小黒 主人公の胸から血がドバドバ出たりするのは、最初のイメージにあったんですか?
新房 ない。
小黒 ないんですか。やってるうちにああなっちゃった?
新房 (笑)そう。結果、ああなった。
小黒 1話のラストで、主人公がモンスターになるじゃないですか。
新房 本当はねえ、変身もさせたくなかった。
小黒 脚本だとどうなってたんですか?
新房 脚本でもそうなってた。だけど本当はそうしないで、例えば「エクソシスト」でそういうシーンあるじゃない。除霊みたいな。
小黒 はいはい。
新房 ああいうシーンにしたかったんだ。モンスターそのものに変身するんじゃなくて、あのぐらいの感じでやっていきたかったんだけどね。でも、色々と考えていくうちに、あの方がアニメ的に派手でいいんじゃないかと(笑)。
小黒 モンスターを出すにしても、違った方向にしたかもしれないわけですね。
新房 うん。でも、ああいう映像を作れたのは、ひとつの収穫かなと思うんで、まあいいですけど(笑)。ただ、作品のテイストがまとまりきってないかな、という気はする。それがいいか悪いかっていうのは、自分では判断がつかないんだけど。
小黒 1話をまず作られてから、2話、3話と制作されていく間には、かなり時間があったと思うんですが。最初に1話を作り始めた時から、物語のプランは変わってないんですか。
新房 1話を作っている間に、シナリオ的には3本めまでできてたんですよ。最後にああなるのも、決まってたかな。でも、最初に悩んでたのは、3本でひとつの話にしようか、1本1話にしようかという事だった。まあ、どっちにした方がよかったかは分からないけどね。
小黒 大まかに言うと、3本とも前半に生活シーンがあって、クライマックスに幻想シーンがきて、エキセントリックな展開になだれ込むというかたちではありますよね。
新房 そうですね。ビデオで3本の作品だから、次の巻がリリースされるまでに時間がかかるじゃないですか。それで、1本1話のスタイルをとったと思うんですよね。例えばひと月おきの発売とか、連続してTVで放映するなら3本でひとつの話にしたかもしれないけど。随分と長い事、作っていたものね(苦笑)。2本めとか、終わんないかと思ったもん。
小黒 第1巻がいちばん時間かかってるように思えますけど。
新房 ええ。1本めがいちばん、時間をかけています。
小黒 1話のアバンに出てくる紫陽花の花は、CGで描いたんですか。
新房 あれは写真取り込み。
小黒 写真の取り込みで加工ですか。という事は、その後の街の描写もそうなんですか?
新房 そうです。
小黒 あの街って、場所は阿佐ヶ谷?
新房 うん、そうそう(笑)。
小黒 主人公がバイトしている店は、手描きの美術ですよね。
新房 そうですね。ただ写真加工も全部美術さんの方にお願いしているので、そんなに違和感はないのかな、っていう。
小黒 多分、今まで新房さんはそういった事はやられてなかったと思うんですけど、写真を取り入れたのにはどういう理由があったんですか。
新房 レイアウトが大変だから。
小黒 (笑)うわあ、身も蓋もない。
新房 でも、そうなんだもの。そこで新たに描いて煮詰めていくのって、どうしても時間がかかる。今回の作品では、背景は場所の説明でしかないから、そういう意味では特にこだわる必要はない。あの骨董屋以外は、カットを積んで雰囲気さえ作れればよし。そういう割り切りですかね。
小黒 でも、見応えある画を積み重ねて作っていこうというような狙いではあったんですよね。
新房 いや。あれは、どちらかと言うと「最初、日常から入ろう」という事を考えてやった。観てる人にとっては、やっぱりその方が観やすいんじゃないか、というのがあって。最初から別物の世界にすると、ついて来れない人はまるでついて来れなくなるから。それでつけたシーンだと思うんですよね。要するに、主人公が走っていって街を突っ切って、あの骨董屋の自分の場所に行くところまでは現実。で、現実だったら、いっその事、写真を使った方がいいんじゃないの? という演出意図ですね。
小黒 なるほど。今のお話は置いておいて、全体の画作りのコンセプトはどうなんですか。いつにも増して、ビジュアルがゴージャスじゃないですか。わりと僕は「大画面対応アニメ」かな、と思ったんですけど。
新房 そうですね。そういうのは意識してます。ビスタサイズになってる以上は、やっぱりそういう画面を作りたいから。
小黒 うちのモニター、ちっちゃいんですよ。最初に1巻を観た時に「うわ、何がなんだか分からん!」とか思って(笑)。「これは少しでも大きい画面で観なければいかんのだな」とは思いましたね。
新房 でも、30型で観てもらえれば充分かもしれない。ダビングの時にも思ったけど、大きいモニターでも意外ともつね。情報量は絞ってるつもりだったんですけど、意外と入ってますね。それは作監の鈴木さんの力なんだろうなあ。

『コゼットの肖像』監督 新房昭之インタビュー(2)に続く

(05.02.28)
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