第212回 『巨神ゴーグ』
『巨神ゴーグ』についての感想を言葉にするのは、ちょっと難しい。「もの凄く面白いアニメ」でもなければ「とてつもなくつまらない作品」でもなかった。「こんな作品だ」と断言できない感じだ。そして、最終回を観て「えー、これで終わっちゃうの?」と思ったのはよく覚えている。
これは全26話のTVシリーズ。オウストラルという島を舞台に、田神悠宇という少年と巨大ロボットゴーグを主人公とした連続冒険活劇だ。『CRUSHER JOE』に続く、安彦良和の監督作品であり、彼は監督だけでなく、原作、キャラクターデザイン、作画監督も兼任。作画監督は全26話中、23話を担当している。しかも、全話全カットのレイアウトも担当しているらしい。制作プロダクションは日本サンライズ(現・サンライズ)である。放映されたのは1984年4月5日から9月27日。ただし、当初は1983年秋放映開始を予定して制作が進められており、放映開始時には、フィルムは最終回近くまで完成していたそうだ。
期待値は高かった。僕は、これが安彦良和のオリジナル作品であり、作監も手がける事も、全26話の冒険物である事も、アニメ雑誌の記事で知っていた。優秀なクリエイターが作る全26話の連続冒険物なら、『未来少年コナン』ような、あるいは『ガンバの冒険』のような、ワクワクする作品になるのだろうと勝手に思っていた。しかも、安彦良和のキャラクターであり、彼の作監だ。安彦良和が作監を務めるTVアニメは、1979年の『機動戦士ガンダム』以来だった。
僕は、毎週ちゃんと観ていた。面白いと思ったのは、主人公達がオウストラル島に行くまでの序盤。悠宇とゴーグとの出逢い。それから後半で、ゴーグと似た別のロボットが出てきたあたりも「面白くなってきたぞ」と思った。ただ、シリーズを通じてワクワクしたかというと、そうでもない。何か物足りなさを感じていた。なぜ物足りないと感じたのか、当時は分からなかった。
この原稿を書くにあたって全26話をDVDで観返してみた。本放映後、一度も観ていなかったので、四半世紀ぶりの再見だ。しかし、初見時と印象はほとんど変わらなかった。観返してみて「ちょっと薄味だな」と思った。今は物足りない理由を言葉にできる。『巨神ゴーグ』は冒険物としては、淡泊な作品だったのだ。あまりにシンプルな結論で申し訳ない。キャラクターの描写も、ドラマも、こってりしたところがない。なにもギトギトに濃ければいいというわけではないのだけれど、もう少し何かが欲しかった。こってりしていないのは、昔風のオーソドックスな作りを狙ったからだ、という意見もあるだろう。確かに、作り手がそのように狙ったのは間違いないだろうし、そういったノリが好きなファンがいるのも知っている。だから、これは単純に好みの問題だ。
作画に関しては、全編が超ハイクオリティというわけではなかったけれど、見どころが随所にあった。キャラクターのいい表情も多かったし、メカアクションの見せ場もあった。オープニングの走りも好きだった。本放映当時は、毎週、安彦良和の作画が観られるのが嬉しかった。レギュラーキャラに、レイディ・リンクスという女ギャングがいるのだが、安彦良和が一番楽しんで描いていたのは、彼女だったのではないかと思う。
こんな事を言うのは、一所懸命に作ったスタッフに対して失礼になるかもしれないが、やはり、1人の人間がTVシリーズ26話分のストーリー作りと、画作りを同時にやるのは無茶だったのかもしれない。才人である安彦良和だからこそ、やり遂げる事ができたのだが、彼が担当したのが話だけ、あるいは画だけであり、それ以外を他のスタッフに任せていれば、また違った仕上がりになっていただろう。
終盤の展開については、次回改めて触れたい。
第213回へつづく
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(09.09.16)