第247回 『魔法のスター マジカルエミ』15話
『魔法のスター マジカルエミ』の放映当時に、僕はよく友達とスタジオぴえろ(現・ぴえろ)の「魔女っ子シリーズ」を、「ウルトラシリーズ」になぞらえて話をした。つまり、バランスがとれたエンターテインメントの「ウルトラマン」に相当するのが『魔法の天使 クリィミーマミ』であり、その延長線上にあり、テーマ性が強くなった「ウルトラセブン」にあたるのが『マジカルエミ』だ。それでは、前後の作品より対象年齢が低かった『魔法の妖精 ペルシャ』は何かと言うと、「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」の間に入った「キャプテンウルトラ」にあたるのではないか。
まあ、アニメマニアの冗談ではあるけれど、そんな話をするくらい、僕達はスタジオぴえろの「魔女っ子シリーズ」が好きだった。それと『クリィミーマミ』と『マジカルエミ』の関係を、「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」になぞらえるのは、納得できるたとえだった(この冗談には、「実相寺昭雄に相当するのが望月智充か」とか、「『マジカルエミ』はむしろ「帰ってきたウルトラマン」ではないか」といったバリエーションがあった。さらに余談だが、この冗談の元ネタは早稲田のサークルが出した「ヤッターマン」の同人誌だった)
ただ、『マジカルエミ』は言葉にするのが難しい作品だった。『クリィミーマミ』よりもずっと難しい。難しいから言葉にしたいと思っていたのかもしれない。本放映当時は、ポエジーな作品だと思っていた。放映からしばらく経ってからは、生活感を重視した作品だと思った。「普通の人が普通に生活していく事の価値」を描いた作品だと思った事もあった。怖いから読み返さないけれど、そんな内容の原稿を雑誌で書いた気がする。今思えばちょっと頭でっかちになっていた。今、観返すと生活感よりは情緒の作品だ。あるいは「味わいが魅力」の作品だ。
シリーズ前半で好きだったのは、15話「風が残したかざぐるま」(脚本/園田英樹、絵コンテ・演出/望月智充、作画監督/加藤鏡子)だった。台風が関東地方に近づいているある日、街にシェリーという名の少女が現れた。彼女は舞達と知り合いになり、舞の父親を気に入って「素敵だ」と言う。彼女にはちょっと変わったところがあり、舞とトポは彼女の正体を探る。シェリーは、地上に降りて帰れなくなった風の妖精だった。エミは台風が来た日に、ビルの屋上でマジックショーをやる事になっていた。その時に魔法の力を使って、シェリーを空に帰してやるのだった。お話としてはそれだけ。シェリーの正体を探ろうとしてから、風の妖精だと分かるまではあっという間だし、シェリーを空に帰すのにもこれといった苦労はしない。シェリーが舞の父親を好きになった事に関しても、これといったドラマが生じるわけではない。ただ、好きである事が描写されただけだ。実は、シェリーが、舞とエミが同一人物だと気づいていたというオチはあるが、そのオチのせいでこの話が面白かったわけではない。
であるにも関わらず、この話は面白かった。ここまで書いて気がついたけれど、『マジカルエミ』について言葉にするのが難しいのは、こういうところだ。要するに「風が残したかざぐるま」は心地よいフィルムだった。台風が迫っている日の静かで、しかし、ちょっと緊張感のある感じを上手に出しているのがよい。ラストシーンで台風が去った後、屋根の上に寝転がっている舞を、たっぷりと尺を使って見せているところがよい。シェリーと舞の父親の関係も、ドラマらしいドラマにはせず、ただ、彼女が好意を抱いた事だけを描いているために、かえって、その感情が大事なものとして感じられた。小さな事件、小さな感情を、雰囲気を重視してしみじみと描いた。その筆致が心地よかったのだろう(ひょっとしたら脚本ではもっと複雑な話だったのを、雰囲気中心のエピソードにするために、演出で削ったのかもしれない)。
また、この話は望月演出回らしく、小技も効いていた。前半で、舞の弟の風船が飛んでいってしまった場面で、やたらと凝ったカメラワークがあった。カメラが水平に180度回転して、シェリーがフレームに入ったところで、今度は彼女を中心にして回り込む。それを1カットでやった(正確に言えば、そういった実写のカメラワークをアニメで再現したカットだった)。あまりに複雑な構成のカットだったので、ビデオを観ながら、僕は、紙にカメラの動きを書いて解析してみた。
同じファンタジー寄りの話だと、26話「枯葉のシャワー」(脚本/園田英樹、絵コンテ・演出/高山文彦、作画監督/洞沢由美子)がある。これも大変な力作だった。それについては次回触れたい。
第248回へつづく
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