第256回 生活感を重視した演出の流行
1980年代中盤、僕の興味は、作画から演出に移っていった。友達とも、TVアニメの演出について話す機会が増えた。それは第156回「新世代の演出家たち」で書いたような、若手演出家の活躍があったからだ。
この頃、演出的に突出した作品は、生活感を重視したものが多かった。日常を舞台にして、丁寧に描写し、説得力あるものとしてドラマを描いていく。そんな作品が新しかったし、魅力があった。タイトルを挙げると、1983年の『魔法の天使 クリィミーマミ』、1985年の『タッチ』『魔法のスター マジカルエミ』、1987年の『エスパー魔美』『きまぐれオレンジ★ロード』といったところだ。1986年に始まった『めぞん一刻』の一部にもそういった傾向があった。それらの作品の全てに、メインあるいは各話のスタッフとして、亜細亜堂のメンバーが参加している点、小林七郎が美術監督を務めている作品が多い点について、注目すべきだろう。
実は他のアニメファンの発言で「あの頃、生活感を重視した作品が多かった」というものを目にした事がない(勿論、個々の作品について、個々のクリエイターについての発言はある)のだが、間違いなく、そういった流行があった。
先日、たまたま1987年の「アニメージュ」を読み返していたら、TV情報ページの下段に僕も参加したアニメファン座談会が掲載されており、その事に触れていた。僕は『エスパー魔美』『きまぐれオレンジ★ロード』が、リアルタッチの作品として作られている事を「タッチ・シンドローム」と呼んでいた。今、『魔美』や『オレンジ★ロード』を観てもそんなふうには思わないかもしれないが、「当時はなんて渋い作りだ。まるで『タッチ』みたいだ」と感じたわけだ。
今思えば、生活感を重視した作品の流行は、昭和40年代に『巨人の星』や『あしたのジョー』をきっかけとして、劇画タッチと熱いドラマが流行ったのと、状況的に似ているかもしれない。
また、生活感を重視し、リアルタッチで描写していくという事は、派手な表現を抑える事や、大袈裟な作劇をしないという事にもつながる。第204回「「クサい」「ダサい」の時代」で、1980年代半ばにアニメやドラマの大袈裟な描写や、ドラマチックな内容に対して、視聴者が「クサい」とか「ダサい」と言ってバカにする風潮があったと書いた。それと生活感を重視した作品が、受け入れられたのはリンクしていた。
第257回へつづく
(09.11.25)