第324回 『マシンロボ クロノスの大逆襲』
僕は『マシンロボ クロノスの大逆襲』のLD BOXは購入したのだが、DVD BOXは買っていない。最近、LDプレイヤーも不調で、とても再生できそうもない。本編を観直しながら書く事もできないので、各話について触れるのは、またの機会にする。
『マシンロボ クロノスの大逆襲』の舞台となるのは、クロノス星。そこで活躍するのは、機械生命体達だ。超物質ハイリビードをめぐり、天空宙心拳の使い手であるロム・ストールと、宇宙の無法者集団ギャンドラーの戦いが続く。シリーズ構成は園田英樹、監督は吉田浩、キャラクターデザインは羽原信義、アニメーション制作は葦プロダクションだった。放映されたのは、1986年7月3日から1987年5月28日。
羽原信義は、当時23歳の若手アニメーターだ。それまでも『特装機兵ドルバック』や『超獣機神ダンクーガ』で活躍していたが、本作でブレイク。彼のデザインはシャープであり、キャッチー。彼の仕事には、同時期に活躍していた菊池通隆、後藤隆幸と同じ匂いがあった。彼らの登場に「新しい時代が来たなあ」と思ったのを覚えている。
『クロノスの大逆襲』は、子供に玩具をセールスするための作品だ。作りは粗かったし、話もよく分からないところがあった。ではあるが、アニメファンに妙な人気が出た。主人公のロム・ストールには「人、それを××と呼ぶ」という決めゼリフがあった。その時代がかったところが面白く、それも本作の見どころだった。
アニメファンの注目が集まったのは、どちらかと言えば、ロムではなくて、妹のレイナだった。可愛らしい外見、妹というポジション、新人声優であった水谷優子の甘えた感じの芝居が相まって、人気キャラクターとなった。アニメ雑誌には、レイナの描き下ろしイラストが掲載され、後に彼女を主人公にしたOVAシリーズも作られた。あれよあれよという間に加熱していった印象で、OVAシリーズの頃になると「ええっ、こんなに人気が出ちゃったの?」と驚いた。
レイナも人間ではない。首から下は、ロボットのような形状だし、設定では髪の毛がなかった。初期エンディングは、彼女がヘルメットを脱ぐと、髪があるというものだった。しかし、それはエンディングのみのお遊びだった。本編で髪が描かれているのは、アニメーターの悪ノリだったのだ。アニメーターが思い入れして、レイナを可愛く描き、それにファンが思い入れして、アイドル化していった。そういった経緯だと記憶している。
作画マニアの目で見ると、『クロノスの大逆襲』は、やたらと出来のいい回もあったけれど、全体としては凸凹が激しかったと記憶している。そして、若手アニメーターの暴走が目立った。トータルで見ると、決して出来がいいわけではないのだけれど、たまにある作画がいい回や、暴走を楽しんでいた。作画で、より本作を楽しんでいたのは、僕よりも少し年下のアニメマニアであったようだ。「WEBアニメスタイル」の「もっとアニメを観よう」から引用しよう。まずは「第3回 井上・今石・小黒座談会(3)」から今石洋之の発言。
—— 『マシンロボ クロノスの大逆襲』。
今石 これはもう、羽原(信義)さんも、大張さんも、松尾(慎)さんも、佐野(浩敏)さんも、田村(英樹)さんも、合田(浩章)さんもいて、さらに大平(晋也)さんもやってるんですよ。
井上 ああ、大平君まで山下さんっぽいの描いてるね。
今石 これもまた無責任なアニメで。これ以上無責任なロボットアニメはないだろうという。80年代にもなって、もう回を追うごとにディテールが変わっていくんですよね。そこがいい。もう葦プロ大好き人間ですから、僕は。
彼は「今こそ語ろう『天元突破グレンラガン』制作秘話!!」の第3話 顔が2つたぁナマイキな!!」でも、羽原信義の仕事について「さすが『マシンロボ(クロノスの大逆襲)』の人だ」と思ったと語っている。次は「第12回 長谷川眞也・吉松孝博対談(1)」から、長谷川眞也の発言だ。
—— で、『クロノスの大逆襲』という順番になるわけですね。
長谷川 印象的なのは、やっぱり佐野さんが入ってる話数なんです。毎回画が違うのも面白いんですけど。
—— 激しく違っていましたね。
長谷川 そうそう。それが許されるのが凄いと思って。
吉松 かなりケッタイな作品でしたね(笑)。
長谷川 巧い人も全然似せようとしないんですよ。
吉松 まあ、当時は目立った者勝ちみたいなところがあったから。まあ“群雄割拠”してたんですかね(笑)。
長谷川 この頃にファンが描いた同人誌なんかも目にするようになって。同人誌の画って、元の作品に似てないけど、自分なりに元の画を消化しているんですよね。『クロノスの大逆襲』には、そういうものに近いところも感じたんですよ。
こうして読み直すと、2人とも熱い。僕は、それまでに作画暴走アニメをたっぷり観ていたので、彼らほどは『クロノスの大逆襲』に対して熱くなかった。
作りの荒っぽさと、過剰なレイナ人気、暴走しまくりの作画。それらが相まって、一部のアニメファンにとって『クロノスの大逆襲』はカルト的な作品になった。カルトという言葉は、ちょっと大袈裟な気がするが、あの気分を表現するのに、一番適切な言葉はカルトだろうと思う。
僕は視聴者として観ていただけでなく、仕事でもこの作品に関わっている。アニメージュの「TVアニメーションワールド」で、何度か『クロノスの大逆襲』を取り上げた。フィルムストーリーを2回やり、レイナの描き下ろしイラストを羽原信義に依頼した。彼とは後に『機動戦艦ナデシコ Martian Successor Nadesico』の『ゲキガンガー3』で一緒に仕事をするのだが、話をしたのは、この時が最初だ。『クロノスの大逆襲』最終回のフィルムストーリーで、画のセレクトを彼に誉めてもらったのが嬉しかった。
第305回「1986年はTVアニメ冬の時代」でも触れたように、当時、ティーン以上のアニメファンが楽しめる作品が少なかった。僕達は、マニアックなノリの作品に飢えていた。だから、マニアックな引っかかりのある『クロノスの大逆襲』を、喜んで観ていたという事情もあった。僕もフィルムストーリーで作画のいい話を選んだり、レインの描き下ろしを載せるのが楽しかった。
第325回へつづく
(10.03.11)