アニメ様365日[小黒祐一郎]

第350回 角川映画とマッドハウスの時代

 振り返ってみると『Manie-Manie 迷宮物語』で、角川アニメとマッドハウスの一時代が終わっている。この後、マッドハウスは、劇場アニメから『妖獣都市』『ロードス島戦記』のようなOVA、あるいは『YAWARA! a fashionable judo girl!』をはじめとするTVシリーズに活躍の場を移す。角川春樹は、この後も『宇宙皇子』や『ファイブスター物語』といった劇場アニメを製作するが、マッドハウスと組んだ作品はしばらくない。
 1980年代に、角川書店とマッドハウスが組んだ劇場アニメは、1983年の『幻魔大戦』、1985年の『カムイの剣』『ボビーに首ったけ』の2本立て、1986年の『時空の旅人』と『火の鳥』の2本立て、そして、『迷宮物語』の4プログラムのみ。しかも、『Manie-Manie 迷宮物語』の公開は小規模なものだった。それだけしか作品数がないにも関わらず、当時の僕達にとって、この作品群は非常に存在感があるものだった。
 第233回「『カムイの剣』と『ボビーに首ったけ』」でも書いたが、『幻魔大戦』『カムイの剣』『ボビーに首ったけ』は、角川映画「戦国自衛隊」や「里見八犬伝」と同じく、大人向けの、あるいはヤング向けの作品だった(『幻魔大戦』は仕上がりは、それほどは大人っぽくはなかったが、宣伝などでアピールしていたイメージは、もう少し大人向けの作品だったはずだ)。要するに、アニメではあるが、『幻魔大戦』や『カムイの剣』も角川映画の1本だった。角川映画のイケイケ感も共有しており、それまでにない新しいアニメがここから始まるのではないか、という期待感があった。
 角川アニメ第2作の『少年ケニヤ』は、マッドハウス作品ではないけれど、企画や宣伝まわりには、同様の勢いがあった。実写の角川映画にも「ねらわれた学園」のような作品があったのだから、『少年ケニヤ』における大林宣彦監督のアバンギャルドな作りも、ある意味、角川映画らしいものだったといえるのかもしれない。
 『時空の旅人』と『火の鳥』の2本立ては、ロードショー時に劇場で観て、少し物足りないと感じた。「あれ? 角川アニメにしては、なんだか普通だなあ」と思った。両作とも出来は悪くないのだけれど、『幻魔大戦』や『カムイの剣』にあったような、ワクワク感がなかった。当初の予定どおり『時空の旅人』と『迷宮物語』の2本立てであったなら、分かりやすいエンターテインメントと超マニアック映画で——ほとんどの観客は戸惑っただろうが——面白いプログラムになったはずだ。僕は「さすがは角川アニメ!」と思ったかもしれない。
 1980年代にあって、クオリティが高く、画的に面白みのある作品を連発していたマッドハウスは、アニメ界において特別な存在だった。1980年代初頭から『迷宮物語』まで、マッドハウスが手がけたタイトルの大半が劇場作品だった。劇場作品という舞台でパワーアップし続けたマッドハウスの、行き着いたところが『迷宮物語』だった。そして、凝りに凝ったマッドハウスのアニメーションと、角川映画はマッチしていた。

第351回へつづく

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(10.04.19)