第393回 読者からの反応
今のアニメージュ編集部でどうなっているかは知らないけれど、僕が仕事を始めた頃は、集計が終わったアンケートハガキが段ボール箱に入れられて、皆が使う作業机のあたりに置かれていた。僕は仕事の合間に、それを読むのが楽しみだった。
自分がやった記事についての反応があるのも嬉しかったし、他の記事についての感想、あるいは要望を読むのが楽しかった。アニワルで『ミスター味っ子』の23話「激突!超豪華 シーフードカレー」をやった時に、女性読者のアンケートに「タコが気持ち悪くて、あのページを開けません」と書かれていた。それを目にした時はちょっとショックだった。タコというのは、オカダコゲロゲロの事だ。
『アニメ三銃士』特集のお手伝いで、少しだけ原稿を書いた事がある。『アニメ三銃士』では、男装の麗人アラミスに、女性の人気が集まっていた。僕はアラミスの決めカットのキャプションで、「素敵なアラミス様の……」などと書いて、最後にハートマークをつけた。後でアンケートハガキを見たら、そのキャプションについて「あの原稿を書かれたのは男性の方ですか、女性の方ですか。もしも、男性が書かれたとしたら、私達、女性ファンを馬鹿にしていると思います」と非難する文章があった。別に女性ファンを馬鹿にしたわけではなく、むしろ、ファンの気持ちに寄りそったつもりだったのだけど、読者からすれば上滑りしている感じだったのだろう。「なんちゃって」な感じで書いてしまったかもしれない。そのハガキを見た時に、心にもない事を書くのは辞めようと思った。
ファンレターをもらった時には驚いた。僕は、アニワル内で「まにあおぐろのこれがスルドイ」という小さなコラムを書いていた。『DRAGON BALL』『エスパー魔美』『きまぐれ オレンジ☆ロード』等について、思いつくままに書いていた。いただいた手紙は、そのコラムに対する感想だったはずだ。今でも、メールやTwitterで感想をいただくと嬉しいが、当時は読者から、感想をいただけるなんて夢にも思っていなかった。この広い日本のどこかに、自分が書いた原稿に共感してくれた人がいた。その事に驚いたし、嬉しかった。ネットで、日本中どころか、海外の人とも簡単に言葉を交わす事ができる現在とは、まるで感覚が違っていた頃の話だ。
ファンレターをくださった読者は数人いて、そのうちの1人の女性からは何度か手紙を送ってくれた。その方は、バレンタインにはチョコレートまで送ってくれた。確か年齢は、僕と同じくらい。お勤めされている方だった。その人の手紙は、文章が巧かった。特に手紙の書き出しが洒落ていて、僕にはとても書けそうもない感じだった。要するに彼女は、僕よりもずっと文章が巧かったのだ。「こんな巧い人からファンレーターをもらっていいのかな」とも思ったのを覚えている。
その後、アニワルのコラムが無くなり、僕は「まにあ小黒のコマ送り倶楽部」という連載をはじめる。こちらは見開き2ページのボリュームのある記事で、自分的には力を入れた仕事だった。ところがこの連載でファンレターをもらう事はあまりなかった。振り返ってみると「まにあおぐろのこれがスルドイ」は、普通のアニメファンに近い目線で、自然体で書いていた。だから、共感を持ってもらったのだろう。20年以上のアニメ雑誌人生で、ファンレターをもらう頻度が一番高かったのが、仕事を始めてからの2年間だったかもしれない。
雑誌で自分の意見を書く事の怖さを、身をもって感じた事もあった。なかむらたかしの『ドテラマン』についてネガティブな感想を書いた時の事だ。それについては次回で触れたい。
第394回へつづく
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(10.06.23)