アニメ様365日[小黒祐一郎]

第419回 『うる星やつら』LD BOXを買った

 1987年くらいから、LDソフトを買うようになった。仕事するようになっていたので、収入があるにはあったが、LDは安価なものではないので、次々に買うわけにはいかなかった。OVAに関しては、サンプルビデオやレンタルで観て、内容を確認してから、どうしても欲しいものを購入するというかたちだった。
 僕はアニメビジョンで仕事をしていた。アニメビジョンを製作していたのは日本ビクターであり、日本ビクターは、LDとライバル同士だったVHD側のメーカーだった。アニメビジョンもVHDソフトとしてリリースされていた。いわば、僕はVHDソフトを売る仕事をやっていたわけで(アニメビジョンには、VHDの販売促進的な意味もあったと記憶している)。LDソフトを購入するのが、日本ビクターやVHDに対する裏切り行為のような気がして、躊躇していたというのもあった。

 そんな僕が、LDで最初に散財したのが『うる星やつら』のLD BOXだった。散財という言葉がぴったりだった。それは『うる星やつら』TVシリーズ全話を50枚のLDに収録したセットであり、定価は33万円。誤記でもなければ、文字化けでもない。33万円のセットである。別に等身大ラムちゃんフィギュアとかがついてくるわけではない。50枚のディスクが箱に入っただけの商品だ。驚いた事に解説書すらついていなかった。それでも、当時は「1枚当たりの価格が7000円弱だから、高くはない」と思った。
 購入する気になったのは、ここで買わないと『うる星やつら』全話を自分のものにする機会は、一生ないだろうと思ったからだ。当時は再放送ではエンディングや予告がカットされるのが当たり前だった。下手すると本編もカットされていた。CSのアニメ局で完全版が放映されたり、レンタルショップに全話のソフトが並ぶ日がくるなんて、予想もできなかった。

 ネットで調べてみたら『うる星やつら』LD BOXがリリースされたのは1987年5月であり、初版分が3000セットで、再版分も3000セット出たらしい。僕が買ったのは再版分だ。友人が初版分を買って、その商品内容につい熱く語っており(そして、50枚の盤質確認で大騒ぎをしており)、それが羨ましかったのも、購入する気になった理由のひとつだ。しかし、33万円を一括で支払う事はできず、ローンを組んだ。24回ローンだった。ビデオデッキよりも高い商品を購入するのは、生まれて初めてだったし、ローンを組んだのも初めてだった。
 『うる星やつら』LD BOXがアパートに届いた時の事は、よく覚えている。信じられないくらい大きな段ボール箱が届いた。その段ボール箱には、小さめのミカン箱くらいの大きさのLBOXがふたつ入っていた。ひとつのBOXでは、50枚のディスクが収まらないので、ふたつのBOXに分けて収納してあったのだ。そのボリュームは、ビデオソフトというよりは、冷蔵庫とか洗濯機に近かった。自分のアパートに家具がひとつ増えた感じだった。
 その大ボリュームを、ちょっと嬉しいと思った瞬間に、僕は人の道を踏み外していたのだが、その時は大事につながるとは思わなかった。つまり、TVシリーズを全話収録したLD BOXなんてものが、その後、次々と発売されるとは予想もできなかったし、それを自分が購入し続けるとは思わなかったのだ。

 33万円も出して購入して、ディスクを観たかというと、実はほとんど観なかった。仕事が忙しかったので、片っ端から再生して、盤質をチェックしたりもしなかった。再生したのは、14回B(27話)「面堂はトラブルとともに!」、132回(155話)「お見合地獄!ヨロイ娘は美女?怪女?」、133回(156話)「ヨロイ娘の恋!乙女心はグラグラゆれて」のみ。いずも作画をチェックするために観た。33万円も出して、観たのはたった3話。現在に至るまでで、その3話だけだ。1話あたり11万円だ。友達が仕事で必要だと言うので、47回(70話)「戦りつ! 化石のへき地の謎」の入ったディスクを貸し出した事がある。開封したディスクはそれで全部だ。ちなみに「化石のへき地の謎」が収録されたディスクは、貸し出して20年ほど経つが、いまだに戻ってきてはいない。

 第136回「そんな老後はこなかった(番外編5)」でも書いたように、僕が、録画しまくったり、ソフトを買いまくったのは、「好きな時にいつでも観られる」という状況を作るためでもあった。「観る事」ではなくて「いつでも観られる状況」が贅沢だったのだ。LDソフトは、その初期において「映像が永久不変」であると言われていた。だから、コレクションとして集めるのに最適だった。一度買っておけば「一生モノ」になるわけだ。しかし、やがてLDソフトの映像が永久不変ではなく、劣化していくものである事が判明。今ではプレイヤーを入手するのさえ困難だ。永久不変なんて大嘘だった。僕達はLDで買ったタイトルをDVDで買い直し、今度はBlu-rayで買い直そうとしている。DVDとBlu-rayには、30年後にも現役でいてもらいたい。

 『うる星やつら』LD BOXを購入した事について、後悔はしていない。若気の至りとしては、可愛いものだ。後悔はしていないが、33万円も出して3話しか観なかった自分を馬鹿だなあ、とは思う。本当に馬鹿だなあ。だけど、馬鹿な事をやり続けるのがマニアの人生だ。

第420回へつづく

TVシリーズ完全収録版 うる星やつらDVD vol.1

100分/片面1層/カラー/4:3/スタンダード/ドルビーデジタル/モノラル/1〜8話収録
価格/5040円(税込)
発売元/キティフィルム
販売元/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
[Amazon]

(10.07.30)