第420回 『ルパン三世 風魔一族の陰謀』
『ルパン三世 風魔一族の陰謀』は、『ルパン三世』ファンにとって話題の多い作品だった。特に大きいのが『新ルパン』から不動だったキャストを、一新した点だ。『カリオストロの城』を手がけた大塚康生が監修を務め、テレコム・アニメーションフィルムが制作。ルパンが着ているのは青ジャケで、デザインは『旧ルパン』路線。内容的には石川五右ェ門が結婚する話である。作画監督・キャラクターデザインは友永和秀、美術監督は小林七郎。録音監督は浦上靖夫、音楽は宮浦清。声優だけでなく、音響スタッフも交代したのだ。
元々はOVAとして制作されたものだが、ビデオリリースよりも先に、劇場版第4作として、1987年12月26日に劇場公開された。だから、劇場作品として扱われる事もあるし、OVAとして扱われる事もある。本編は73分。僕は公開前後に、アニメージュで、この作品の記事を担当した。話をうかがった時に、大塚康生が「ビデオ作品にしては、出来がいいでしょ」と言っていたのを憶えている。よく動く作品であり、その意味では劇場クオリティと言えるかもしれないが、構図の取り方等はむしろTVアニメ的であり、画角もビスタではなく、スタンダードだ。やはりOVAらしい作品だ。
今回の舞台は日本の飛騨。五右ェ門が、墨縄家の跡取りである紫という娘と結婚する事になり、ルパン、次元、不二子も式に参列する。式の途中で、謎の一味が乱入。一味の正体は、400年に渡って墨縄家の財宝を狙っていた風魔一族だった。財宝のありかが記された壺を奪うのに失敗した風魔一族は、紫を誘拐。紫を奪い返すために五右ェ門が動きだし、ルパン達もこの事件に絡む事になる。やがて、壺の謎は解け、財宝争奪戦が巨大洞窟で展開される。
73分の内容で、カーチェイスが2回。他の場面もアクション中心であり、それだけにドラマは薄い。五右ェ門がメインの話ではあるが、彼の何かを描ききろうとしている感じではないし、紫との関係も、一応の決着はついているが、あっさりしたものだった。ラストが『カリオストロの城』をなぞった感じであったのにも、首をひねった。
この頃は、まだTVスペシャルシリーズは始まっておらず、『ルパン三世』の長編アニメは『マモー編』『カリオストロの城』『バビロンの黄金伝説』しかなかった。『マモー編』『カリオストロの城』は名作だし、『バビロンの黄金伝説』も盛り沢山な映画だった。当時は、どうしてもそれらと比べてしまった。比べると、ビジュアル面は別にして、内容についてはちょっと物足りない感じだった。
大塚康生の著作「作画汗まみれ 増補改訂版」と「リトル・ニモの野望」によれば、当初は若手の監督を起用していたが、彼が仕上げた絵コンテは「止め」「口パク」が多いTVアニメ的なものであり、それに対してテレコムのアニメーター達が改善を申し入れると、彼は絵コンテを描けなくなり、現場から去ってしまった。そのため、大塚康生、友永和秀、田中敦子といったアニメーター達が、シーンごとに絵コンテを担当。演出不在のまま、作品を仕上げる事になった。なお、大塚康生は演出の代わりに、全カットの原画に目を通して、動かし方の指導をした。大塚自身が、「作画汗まみれ 増補改訂版」で、本作について「最後に手がけた劇場用長編」だと記している。
ストーリーやキャラクター描写について、厚みがないのは、監督不在で作られたためでもあるのだろう。『マモー編』や『カリオストロの城』は作家の作品であり、『バビロンの黄金伝説』にもそういうところがある。だが、『風魔一族の陰謀』は作家の作品ではなかった。そういう事なのだろう。また、アニメーターがアイデアを出して、動かしまくった。そういった作り方したという意味でも、1980年代OVAらしい作品だった。
とにかく、当時は「『ルパン三世』の長編なのに、なんだか薄味だなあ」と思った。ひょっとしたら、僕は雑誌の記事でもそんなふうに書いてしまったかもしれない。ではあるが、今になって思えば、贅沢な感想だった。その後、『ルパン三世』のTVスペシャルが量産されるようになった。ここは注意深く言葉を選ばなくてはいけないが、TVスペシャルは、決して傑作揃いではなかった。それらのTVスペシャルに山ほど触れた後に、『風魔一族の陰謀』を観ると、物足りないと思ったのが申しわけなくなってしまう。ひとつひとつの見せ場をきちんと作ろうとしている。気楽なアクション活劇としては充分な出来だった。
『風魔一族の陰謀』の魅力はアクションにあった。やはり最大の見どころは、2度あったカーチェスだろう。特に、フィアット500と銭形のパトカー軍団が、旅館内や温泉を走り回るシークエンスは『名探偵ホームズ』の追っかけを彷彿させるもので、馬鹿馬鹿しくて楽しかった。
『ルパン三世』マニアにとっては、細かいお遊びが嬉しかった。それについては、木曜更新あたりの原稿で触れる。次回は、キャラデザインと作画についてだ。
第421回へつづく
(10.08.02)