アニメ様365日[小黒祐一郎]

第453回 『星矢』オールナイトの思い出

 アンドロメダ瞬がピンチに陥った時、どこからともなくフェニックス一輝が現れて瞬を助ける。瞬は喜んで「兄さん、やっぱり助けにきてくれたんだね!」と言う。それが劇場版『聖闘士星矢』で繰り返されているパターンだ。原作でも一輝は瞬を助けにくるのだが、劇場版シリーズではそれを茶化しているところがあった。僕は男子同士の関係を楽しむような才能には乏しいのだが、一輝と瞬のアマアマな関係については、なかば突っ込みながらも楽しんでいた。友達と、瞬は一輝に助けてもらうために、わざとピンチになっているのではないかなどと冗談を言い合っていた。

 『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』前半で、崖を登っていた瞬が突風に押し上げられて、地上に落下しそうになる。その瞬の手を、誰かが掴んで助ける。瞬は喜んで「ありがとう! にっ……」とまで言って、言葉を飲み込む。助けてくれたのは、一輝ではなくて紫龍だったのだ。その後で、瞬は「紫龍!」と言って喜ぶ。愛しい兄貴でなくても素直に喜ぶところが、瞬の可愛いところではある。それにしても、凄まじいばかりの突っ込みどころだ。瞬は、条件反射で「兄さん」と言っている。お前は一年中、一輝の事を考えているのか! 兄貴ラブラブにもほどがある! 作り手の「さあ、突っ込んでください」という声が聞こえてくるようだ。
 物語は進み、瞬は魚座ピスケスのアフロディーテと戦う。アフロディーテのブラッディローズでとどめを刺されそうになった時に、一輝が登場。瞬が「兄さん、やっぱり助けに来てくれたんだね!」と言えば、一輝が「勿論」と返す。序盤で、一輝と紫龍を間違えたのは、ここで盛り上げるための段取りだったのである。ではあるが、前半でパターンを外されているために、このやりとりも妙におかしく感じられる。まるで大人のカップルが、なにかのプレイをしているかのようだ。一輝の「勿論」のセリフも味わい深い。彼は、瞬のピンチの時に現れる役回りであるのを自覚しているのだなあ。
 劇場作品『DRAGON BALL Z 危険なふたり! 超戦士はねむれない』でも同様のギャグがある。劇場版『DRAGON BALL Z』シリーズでは、ピッコロが、悟飯のピンチに助けにくるのがパターンだった。この映画では悟飯のピンチにピッコロが駆けつけたのかと思ったら、それはピッコロのコスプレをしたクリリンだった。なんだそりゃあ! 驚くくらい強引なギャグだった。『危険なふたり! 超戦士はねむれない』は『聖闘士星矢』の森下孝三プロデューサー、小山高生脚本、山内重保監督が手がけた作品だ。このネタを思いついたのが、3人のうちの誰なのかが気になる。おそらくはギャグ作品を得意とする小山高生だろうとは思うのだが。

 話は変わるが、1988年の秋か年末に『聖闘士星矢』をメインにしたオールナイト興行が、東京のテアトル池袋であった。上映作品は『マジンガーZ対デビルマン』、劇場版『惑星ロボ ダンガードA』(2本あるうちのどちらか)、『聖闘士星矢』劇場版第1作、『神々の熱き戦い』、『真紅の少年伝説』、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』だったと記憶している。ひょっとしたら、もう1本くらい劇場版『マジンガー』シリーズの作品をやったかもしれない。東映まんがまつり系の作品+『逆襲のシャア』のプログラムだったわけだ。『最終聖戦の戦士たち』が入っていないのは、当時、まだ公開されていなかったからである。
 そのオールナイトに、ライターの友人2人と参加した。お目当ては劇場『聖闘士星矢』3本である。僕はロードショーで『真紅の少年伝説』を見逃していたので、ビデオソフトよりも先に劇場で観たいというのもあった。『真紅の少年伝説』まで鑑賞したところでお腹一杯になってしまい、僕と友達の1人は『逆襲のシャア』を観ないで劇場を出て、喫茶店で始発まで時間を潰した。その頃はまだ『逆襲のシャア』にハマっていなかったというのもあったし、劇場版『聖闘士星矢』の余韻に浸っていたかったというのもあった。話はさらに脱線するが、そのすぐ後に、僕は『逆襲のシャア』にハマる事になる。ハマった後で『逆襲のシャア』について熱弁を振るっていたら、オールナイトで劇場に残って最後まで観た友人に「だけど、君はあの時に『逆襲のシャア』を観ないで帰ったじゃないか!」と突っ込まれた。いや、申しわけない。あの時は『逆襲のシャア』のよさが分かっていなかったんです。

 話を戻すと、そのオールナイトは、若い女性の観客が多かった。青銅聖闘士の活躍にファンの声が上がっていた。僕らの真後ろに座っていた女性グループがあんまりにも騒がしいので、一緒に行った1人が上映中に「静かにしてほしい」と注意しなくてはいけないくらいだった。一番盛り上がったのが、さっき話題にした「ありがとう! にっ……。紫龍!」の個所だった。単独で観ても笑ってしまうところだが、第1作から続けて観ると、ルーティンぶりが強調される。劇場内は大爆笑となった。ファンが大勢集まっている場ならではの楽しさだった。『真紅の少年伝説』について話をすると、いつもオールナイトで爆笑した話になる。

第454回へつづく

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(10.09.16)