第466回 サザビーVSνガンダム
当時のアニメ雑誌(「Newtype」1988年4月号)の記事で富野由悠季監督が、『機動戦士Zガンダム』までの『ガンダム』シリーズの歴史をダイジェストにしたのが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』だと語っている。ハサウェイは、本来はカツがやるべき役柄だったし、クェスはカミーユの写し絵なのだそうだ。確かにクェスの死から、シャアとアムロの決着がつくまでの展開も、『ガンダム』第1作の終盤を思わせるところが多い。クェスの死に方は、ララァの最期を思わせるものであるし、シャアとアムロが戦闘中にモビルスーツから降りて、バズーカ等を使って戦うのも同じだ。
ドラマの作りとしては『Zガンダム』でやろうとした事を、改めてやったのだろうと思う。以前にも書いたが(第243回 『機動戦士Zガンダム』続きの続き)、僕は『逆襲のシャア』にハマってから、『Zガンダム』をビデオで一気観した。その時に、本放映時に分からなかった『Zガンダム』の狙いが分かったような気がしたし、それを『Zガンダム』でやり切れていない事も分かった。
クライマックスについて触れよう。すでにアクシズは地球に向かって動き出している。地上にいるミライ達からも、地球に迫るアクシズが見えた。ロンド・ベルのブライト達は、内部から破壊するため、アクシズに乗り込んでいた。その頃、シャアとアムロの戦闘が始まった。アムロはνガンダムに乗り込んでいる。遂に新ガンダムに搭乗したアムロと、シャアの戦いである。ファンネルの応酬やビームサーベルによる斬り合いを経て、シャアとアムロはアクシズの内部で生身で戦う。しかし、そこでも決着はつかず、2人はモビルスーツでの戦闘を再開。その戦いの中、ブライト達の工作により、アクシズの爆発が始まる。サザビーとνガンダムの戦いは、最終的には拳を使った殴り合いとなる。やっているのはモビルスーツだが、このあたりはシャアとアムロとしては、意外なくらい男らしい戦いになっている。そして、殴り合いの結果、νガンダムがサザビーを倒す。この後も、分断したアクシズをめぐってドラマは続くのだが、モビルスーツ戦はここで終了だ。
悪を為そうとしていたシャアを、アムロが倒したかたちである。勧善懲悪。決着を着けるあたりのアムロは、まるで熱血漢だ。設定的にはアムロのパイロットとしての技量と、νガンダムのパワーが、シャアとサザビーを凌駕したというかたちなのだろう。アクシズの爆発やナナイに気をとられたところで、シャアはとどめを刺されており、指揮官とパイロットを同時にやっていた彼が、パイロットだけをやっているアムロに負けたのだと考える事もできる。シャアはアムロに対して「私はお前と違って、パイロットだけをやっているわけにはいかん」と言っていたが、やはり、さすがの彼も政治家とパイロットを同時にやって、アムロに勝つのは無理だったという事かもしれない。
アムロとの戦闘中に、シャアが気になるセリフを2度言っている。ひとつがアクシズに入る前の「パワーダウンだと!?」であり、アクシズから出てきた後の「サーベルのパワーが負けている!?」だ。前者は、腹部から発射する拡散メガ粒子砲のパワーが落ちた事を言っているのだろう。それまでの戦闘で、拡散メガ粒子砲を使いすぎたのかもしれない。後者はビームトマホークとビームサーベルの斬り合いで、サザビーのビームトマホークのパワーが、νガンダムのビームサーベルに負けているという意味だ。
つまり、徐々にサザビーのパワーが落ちてゆき、遂にνガンダムに負けたわけだ。これについて「逆襲のシャアの友の会」の取材で、『美少女戦士セーラームーン』シリーズ等で知られる幾原邦彦が、口論とモビルスーツのパワーダウンを関連づけて話していた。つまり、口論をやった挙げ句に、疲れてしまい、そこでモビルスーツがパワーダウンしてしまうのが面白いという話だった。それは興味深い考え方だったし、改めて『逆襲のシャア』を観直すと、色々と納得できる。以下、その着眼点を元にして、話を進めてみよう。
シャアとアムロは戦闘を続けながら、言葉を交わしていた。シャアが「ララァが死んだ時のあの苦しみ、存分に思い出せ」と言う。それに対してアムロは「情けない奴!」と返す。いまだにそんな事を引きずっていて、しかも、それを口に出すのか、という意味だ。その後で、別のやりとりがあり、拡散メガ粒子砲を放った後で、シャアが「パワーダウンだと!?」と言う。アクシズの中で、アムロはシャアに対して革命を語る。「世直しの事、知らないんだな。革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激な事しかやらない」「しかし、革命の後では、気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って、世間からも政治からも身を退いて世捨て人になる。だったら……」と言う。アムロのこの発言は、前からこう言ってやろうと考えていたものだろう。その後で、2人は戦闘を再開し、ビームトマホークとビームサーベルのチャンバラになり、シャアが「サーベルのパワーが負けている!?」と言うわけだ。
その言い争いで、シャアも反論はしているが、彼の方が劣勢である。アムロはシャアの痛いところを突いている。シャアがアムロに言い負かされていくのとリンクするかたちで、拡散メガ粒子砲やビームトマホークのパワーが落ちていった。勿論、これは設定的な話ではなくて、作劇の問題だ。口論で負けてしまい、精神的にダメージをくらって、結果的に戦闘に負けてしまう。それを表現するために、モビルスーツのパワーが落ちるという描写をやっているわけだ。
νガンダムが、サザビーにとどめを刺す前に、シャアは「ナナイ! 男同士の間に入るな!」と叫んでいる。指揮をとるために戻ってほしいというナナイの連絡に対して、邪魔をするな、と言ったわけだ。そう言った次の瞬間に、背後からνガンダムの攻撃をくらい、サザビーは地面に激突。シャアが乗ったコクビットが、サザビーから飛び出す。これは女性を利用し、時には甘えてきた彼が「男同士の間に入るな!」等と偉そうな事を言ったので、バチがあたったという意味の演出だと思っている。もっと言うと、そんなふうに受け止めているのは、日本広しと言えども僕だけかも知れないが、「男同士の間に入るな!」と言った次の瞬間に、「アホか」とアムロが突っ込みを入れているように見えてならない。コクビットがサザビーから飛び出すカットも、見事なくらい情けないビジュアルだ。このあたりから、シャアがはっきりとかっこ悪い人間として描かれる事になる。
第467回へつづく
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(10.10.07)