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『時をかける少女』応援企画

初心者のためのホソダマモル入門・その5
今宵は『どれみ』で、しっとりと

タライふゆ  

 はい、どうも。細田守親衛隊、隊員のふゆです。今回は心に深く沁みこむ、至高の1本をご紹介しましょう。『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』40話「どれみと魔女をやめた魔女」です。

 『おジャ魔女どれみ』シリーズは、東映アニメーションが制作した魔法少女もの。1999年より、朝日放送、日曜朝8時半の枠で4年に渡って4シリーズが放映。さらにCS放送用に『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』が作られた人気シリーズです。子供を中心に、大きなお兄さんまで、広く見られておりました。
 いつも明るい魔女見習いの主人公・春風どれみと友人達が、時に悩み、時に友情を深めながら、日々を送り、成長していくというシリーズです。不登校や離婚など、主人公達が直面する悩みや事件の現代性や、主人公が年を経るたびに1学年ずつ進級していくといったリアルタイム性などが、これまでの魔法少女ものにはあまりない特徴でした。
 放映当初小学3年生だったどれみ達も、『ドッカ〜ン!』の時点では6年生。この先には卒業がくる、そしておそらくこの物語にも終わりがくる――そうした終わりの始まりともいうべきエピソードに、細田は登板したわけです。
 実は、細田はこれが『どれみ』初登板。長いシリーズを終えるカギとなる重要なエピソードに、錚々たる『どれみ』演出陣を差し置いて登場、というあたり、五十嵐卓哉シリーズディレクターや、関弘美プロデューサーの並々ならぬ信頼がうかがえます。
 本作は、声高に何かを語るわけではありません。変身バンクすらありません。むしろ言葉少なく、とつとつとストーリーは展開します。そのぶん、視聴者がどのように受け止めるかによって、受け取るべきポイントは変わりうるとも言えるでしょう。以下、私が感じとったポイントをご紹介しましょう。

●檸檬のように
 本作に流れる独特な空気感。これにまず注目したいです。その空気を形成する大きな要因は、風景が通常の『どれみ』以上にクローズアップされている事。どれみを取り囲む日常的な光景。静かな、穏やかな、でもいつもと違う……。細田の「観察するかのような」視点の置き方とも相まって、そこはどこか不安が漂う世界です。
 どれみは、この話で大きな選択を迫られる事になります。そこでの町並みは、不安を煽り立てるものになります。いつも一緒なはずの家族や、教室も、どれみには、ちょっと違ったものに映っているようです。
 梶井基次郎の「檸檬」の主人公が感じている世界のように、今まで馴染んでいた世界に対して違和感を持つ……。どれみが知っているいつもの美空町ではなく、どこか別の異世界に迷い込んでしまった。そんな不思議な感覚を味わう事ができます。
 突然、文芸作品が出てきましたが、これは本編中、担任の関先生がどれみ達に読み聞かせているテキストです。

●移りゆく時を生きる
 本作で、どれみは、未来さんという女性に出会います。意味深な名前ですが、彼女は魔女――「魔女をやめた」魔女です。長い時を生き続け、それがどれほどの悲しみを背負うことになるかを知った女性です。本作におけるポイントはこの未来さんの話にあるのですが、彼女の深い、悲しみとも諦念ともつかない生き方は、是非作品を実際に見て、お楽しみください。
 どれみは、ガラス職人である未来さんにならって、ガラス細工を作ろうとします。が、作業の途中、未来さんに「あなた、どうしたい?」と問いかけられたどれみは、作業に失敗してしまいます。自分ひとりだけ「なんにも見えなくて」と呟くどれみに、まだ一葉だけ色付かない葉が重なります。
 未来は語ります。「ガラスってね、冷えて固まっているように見えて、ほんとはゆっくりと動いてるのよ」。ずっと続いていくと思われたどれみの楽しい世界にも、ひとつの区切りが近づいています。卒業し、それぞれが別の道を歩んでいく。変わる事への不安。そして、自分がまだ何もなしていない事に対する焦り……。
 さらに、未来さんの生き方は、「魔女になるという事」が「他の人とは異なる時間を生きる事」である、という現実をどれみの前に突きつけます。
 どれみは本作の最後で、ひとつの選択を果たすのですが、それは本編を実際に見ていただくしかないでしょう。

 どれみが決断する直前、関先生が授業の中で、「檸檬」の一節を読みあげます。
 「『そうだそうだ』その時私は袂の中の檸檬を憶い出した」
 「檸檬」の主人公が、今まさに、ひとつの決断に至るくだりです。丸善に檸檬を置き、それを爆弾に見立てる主人公。彼がとらわれていたのは「得体の知れない不吉な塊」でした。
 どれみの中にもまた「得体の知れない不吉な塊」があったのです。
 しかし、最終的に、どれみはガラスを見事完成させました。葉も色づいています。
 変化は誰もが恐れる「得体の知れない」ものですが、またそこには「成長」という希望もあります。どれみは自分の成長をきっと受け入れる。ラストは、その希望を信じさせてくれるものになっています。
 本作は未来の生き方の話でもあり、どれみの「未来」についての話でもあります。そして、シリーズを通して見たときの「魔女になるとは」という問いの集大成でもあり、また最終回へ向けての問題の再提示でもあるのでしょう。
 こういった要素が重層的に折り重なり、しかも見事なアンサンブルを奏で、私達に迫ってくるのです。見事としか言いようがありません。

●細田演出に目を向ける!
 さて、こういった世界を形成するため、一体どのような演出が行われていたのか。本作でも細田演出は全開です。特に目立つところに触れておきましょう。
 まず、全体に満ちる定点観測のような視点。常々言われる細田の特徴ですが、今回に関しては特に、非日常のような日常空間が強調されています。監視カメラから捉えたような映像がそれを際だたせ、どれみが街を縦横に歩き回る、というより、街にどれみが歩き回らせられているとでもいうような不思議な感覚を覚えます。
 また、本編のファーストカットに、正面から出てきて、視聴者の度肝を抜く二股に分かれた「道路標識」。道路標識で何かを暗示する手法は、細田ファンにはおなじみですが、今回は道路標識以外にも、同じモチーフが繰り返し出現します。それは「二股に分かれている何か」です。
 道路標識、頻出するY字路、道路沿いにある電灯など、Y字を意識させるものが、目に付くように散りばめられています。細田お得意のシンメトリックな構図がさらにそれを際立たせます。これは、日常と異世界との境目とも、どれみが「選択をしなければならない」という状況の隠喩とも、仲間達との別れの暗示ともとれます。
 これ以外にも、意味ありげなカットが一杯です。何度か繰り返し見ていくうちに、「あれはこういう意味だったんじゃないかな」なんて、色々うがってみるの事ができるのも楽しいところです。

 また、今回のエピソードのキーワードとなるのが、随所に出てくるガラスです。素晴らしい演出処理によって幻想的で美しく表現されています。特に、どれみが未来から貰ったガラス玉を覗きみるシーンは圧巻。ガラス越しに何かを見るというカットも多く、そういった表現に、どれみの感情が仮託されているようです。これは、前回お話した「心情を仮託できるレイアウト」に通ずる話です。

 さて、今回の話で、随所に大林版「時をかける少女」の匂いを感じた人も多かったのではないでしょうか。細田自身は本作を作る際、大林版「時かけ」は構想の念頭になかった(読売新聞6月29日付夕刊より)と言っていますが、未来さんの声優が原田知世である事や、坂の多い町の風景、「時間」に関するテーマなどから、当時の匂いを感じとり、懐かしさを覚えた人もいるのでは、と思います。
 今や細田は『時をかける少女』の監督。本作を見ていたファンからすれば、その「選択」に思わず納得してしまった方もいたのではないかと思います。
 そういう意味でも、この『どれみ』は『時をかける少女』を見る前に見ておきたいところ。もしかすると、本作と『時かけ』は全く違う映像かもしれませんが、それはそれで、『時かけ』を楽しむための格好の材料になるはず。さあ、あなたも、レッツトライ!

●初心者のためのホソダマモル入門・その6へ続く

●DVD情報
「おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン! Vol.10」
第37話「全滅!? 眠れる魔法使いたち」、第38話「ついに再婚!? あいこの決意」、第39話「心をこめて! 幸せの白いバラ」、第40話「どれみと魔女をやめた魔女」の4話を収録
発売元:マーベラスエンターテイメント
価格:6090円(税込)
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●関連サイト
『時をかける少女』公式サイト
http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/

『時をかける少女』公式ブログ
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(06.07.05)

 
 
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