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『時をかける少女』応援企画

初心者のためのホソダマモル入門・その3
細田守の代表作を概観してみるぞ!

タライふゆ  

 ハイナァ! 細田守親衛隊、隊員のふゆです! 『デジモンアドベンチャー』という作品の括りのなかで、前回、前々回とお話してみましたが、いかがでしたか!? 少しでも、ホソダマモルという人を注目すべき、と感じていただけたなら幸いです。今回は、次の作品に移る前に、細田守が『時をかける少女』まで、いかに歩んできたのか。細田監督のプロフィール紹介も兼ねてお話しておこうと思います。
 前回の最後に「初期傑作にスポットを当ててみることにします!」なんて言ってしまいましたが、ここで突然デビュー作まで話を戻してしまうのも、ちょっと乱暴なのでは、と思いました。なので、初期傑作は次回までのお楽しみ、という事で。ごめんなさい。

●細田守前史
 『少年ケニヤ』。細田守がアニメーションの世界へと、一歩を踏み出したのは、この劇場作品のアニメーター一般公募がきっかけでした。

 細田守は富山県出身。1967年生まれ。『少年ケニヤ』(監督:大林宣彦、今沢哲男/1984年公開)公募当時は高校1年生でした。中学生の頃にNHK教育のトーク番組「YOU」に触発され、当時のアニメージュの1コーナー「アニメ塾」を参考にペーパーアニメを作っていた彼は、それに応募します。見事、最終候補3本の中に入り、映画を制作していた東映動画(現・東映アニメーション)より電話がかかってくるのですが、細田は「中間テスト」のため東京行きを辞退。ちなみにこの時最終候補に残っていた他の2人は、ゲーム「ラングリッサー」などで知られる、今や押しも押されぬ人気イラストレーターの、うるし原智志と、『ぱにぽにだっしゅ!』など様々な作品に絵コンテマンとして参加している、福田道生だったといいます。

 その後、細田はしばらくアニメから遠ざかり、現代美術の世界に惹かれていきます。大学は、金沢美術工芸大学。アニメージュ「この人に話を聞きたい」2000年4月号インタビュー(以降の引用も、特に明記されない限り本インタビューに依拠)内においての彼自身の発言を引用すれば「油絵科の学生だったけど、(中略)油絵を描かなかった」ような「不真面目な部類」の大学生だったそうです。
 ここで、細田は50本近い映像作品を手がけ、2本の劇映画を「ぴあフィルムフェスティバル」「イメージフォーラムフェスティバル」などに応募。この2本以外は、ビデオアート(映像を使ったインスタレーション作品など)なるものを制作していました。

 細田がアニメの世界へ戻ってくる直接の理由は、就職先がなかったため。そこで、細田は、かつて『少年ケニヤ』の件で電話をかけてくれた、東映の田宮武プロデューサーに連絡。演出を志望しましたが、田宮プロデューサーの勧めにより、東映動画にて、アニメーターとしてデビューする事になるのです。

●東映アニメーター時代
 アニメーターとして、細田は6年の間、様々な作品に参加します。この原画マン時代に関して、彼自身はインタビューなどであまり語っていません。ですが、レベルの高い人達に圧倒され「上手く描けないことで非常に惨めな思いをし」たという話はしています。
 ただ、一応補足説明を加えておきますと、この細田の発言は、先にあげた福田道生や、細田の画に関する師匠でもある山下高明といった、所謂「スーパーアニメーター」に較べての話です。実際には、数多くの劇場作品に参加。『Coo 遠い海から来たクー』では作画監督補佐を務めるなどしており、巧い原画マンであった事が窺い知れます。また、アニメージュ2002年5月号の「この人に話を聞きたい」林明美の回における、細田が巧いアニメーターだった、という旨の発言もその裏付けになるでしょう。

●東映演出時代
 細田守が最初に絵コンテを担当した作品が、95年『十二戦支 爆裂 エトレンジャー』(監督:岡嶋国敏)になります。担当したのは第27話「砂漠の白い悪魔」(Aパートのみ)、第33話「哀しきニャンマーの過去」、第37話「めざめよ珠献!」の3本でした。
 細田が念願の演出デビューを果たすのが、次回お話する予定の『ゲゲゲの鬼太郎[第4期]』(シリーズディレクター[以下SD]西尾大介)です。ちなみに、東映における「演出」は、各話における絵コンテと演出処理を担当する役職というだけでなく、各話の監督という位置づけになります。
 詳細は次回に譲りますが、『ゲゲゲの鬼太郎』は水木しげるのマンガが原作のアニメーション作品。主人公である鬼太郎が妖怪仲間とともに、悪い妖怪を懲らしめます。現在まで68年、71年、85年、96年と4作が作られている大人気作品(3作目に続き、1作目と2作目も今秋DVD化されます)。
 細田は、本作を皮切りに、『ひみつのアッコちゃん[第4作]』『デジモンアドベンチャー』『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』『明日のナージャ』と一連の東映動画の日曜朝の作品に参加していくことになります。
 ここで細田は演出助手として5本を担当。また、演出として第94話『鬼太郎魚と置いてけ堀』、第105話『迷宮・妖怪だるま王国』、第113話「鬼太郎対三匹の刺客!」の3本を担当します。東映の先輩達の教えをここで受け、細田は作品演出のイロハを獲得していったのです。
 最初は、プロット打ち合わせ、シナリオ打ち合わせなど「どう進めていいか分かんなかった」という細田ですが、2本目からシナリオとして「どうやって自分のやりたい方向にもっていけばいいのかなっていうのが、ちょっと見えてきた」そうです。また、『鬼太郎』演出は後半からの登板という事もあり、細田としてはもっと『鬼太郎』をやりたかったという想いが強くあった事も補記しておきましょう。その後、細田は立体映画『ゲゲゲの鬼太郎 〜鬼太郎の幽霊列車〜』の演出も担当する事になります。

 『鬼太郎』において際立った演出作を残した細田の、次の作品が98年『ひみつのアッコちゃん[第3作]』(SD芝田浩樹)でした。
 こちらも詳細は次回に譲りますが、『ひみつのアッコちゃん』は69年、88年、98年と、リメイクされている人気シリーズ。赤塚不二夫のマンガが原作で、テクマクマヤコンテクマクマヤコンの呪文を唱えると、主人公の少女「アッコちゃん」が変身。困っている人を助けていきます。
 細田が演出を担当したのは第6話「学校を守れ! アッコ校長」、第14話「チカ子の噂でワニワニ!?」、第20話「華麗なるマジシャン!」、第30話「ロミオがいっぱい!?」の4本。
 細田自身は「2本目からやりたい事が見えてきた」と言いますが、この2本目の作品「チカ子の噂でワニワニ!?」は現在でも細田ファンの間で語り草になっています。同ポ繰り返しの多用、超高密度なレイアウトなど、見所の多い本作の詳しい説明は、次回行いたいと思います。
 また、本作では関弘美との出会いも大きかった、と細田は様々なインタビューで語っています。アニメスタイル第2号(美術出版社)における細田自身の寄稿「わたしの好きなアッコ」では、その第一印象を「これは今まで以上に気合を入れて取り掛からないと、捕って喰われる」と語っています。
 関弘美は『ママレード・ボーイ』や『デジモン』シリーズ、『おジャ魔女どれみ』シリーズなどで有名な東映アニメーションのプロデューサー。作品のコンセプト面に大きく関わり、演出家に対して的確なアドバイスをする事で知られています。演出家になりたてだった細田にも、多くの助言があったのではないでしょうか。
 また、のちに劇場版『デジモンアドベンチャー』を共に手がける事になる、脚本の吉田玲子とも出会っており、その後の細田守を考える際にも、『ひみつのアッコちゃん』は避けて通れない作品である事が分かります。

 これら作品を経て、細田は、前回、前々回お話しました『デジモンアドベンチャー』に辿り着く事になります。
 細田初の劇場作品となったのが、99年公開の映画『デジモンアドベンチャー』。TVシリーズの準備とほぼ同時に劇場版が作られるという異例の展開です。前回では、ピンと来なかった方も多いかもしれませんが、ここまでの展開を見てもらえれば、これがいかに例外的な事であるかご理解いただけるかと思います。細田がここまで演出を手がけてきた作品本数はそう多くはありません。シリーズディレクターの経験もありませんでした。そこに、突然の新作、突然の劇場作品。そこには先の関プロデューサーによる英断があったのです。『ひみつのアッコちゃん』で、細田の力を認めた彼女が、劇場監督に抜擢。しかも、20分の短い尺という「宿題」つき。細田はこの難しい要求に見事に応えます。その流れで、TVシリーズ21話「コロモン東京大激突!」も担当し、劇場2作目『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』にて、トータルクオリティの高さが話題を呼び、不動の評価を築きました。これらについては前回、前々回にお話したとおりですね。

 また、この頃は3DCGによる立体映像の作品も立て続けに監督をしています。これら一連の作品群も、細田の代表作といえるでしょう。特殊な眼鏡をかけることで、飛び出して見える、3DCGアニメーションで、前述の99年『ゲゲゲの鬼太郎 〜鬼太郎の幽霊電車〜』、00年『銀河鉄道999 ガラスのクレア』、『デジモンアドベンチャー3D デジモングランプリ』と、どれも立体で見せる演出を意識した作りになっています。

 しばらく劇場作品や立体映像が続いた後、TVシリーズに戻ってきたのは、2002年の『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』になります。
 『おジャ魔女どれみ』は東映アニメーションのオリジナル人気アニメシリーズ。魔法少女もので、99年『おジャ魔女どれみ』(SD佐藤順一、五十嵐卓哉)、00年『おジャ魔女どれみ♯』(SD五十嵐卓哉、山内重保)、01年『も〜っと! おジャ魔女どれみ』(SD五十嵐卓哉)、02年『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』(SD五十嵐卓哉)と4作が作られ、さらにPPVにて04年『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』が放映。主人公の少女どれみと、その仲間達の日常と成長を描きました。
 本作は細田の盟友、五十嵐卓哉がSD。プロデューサーは、件の関弘美。久々の演出作品に細田ファンは期待を大きくして待っていたわけですが、その期待以上の出来といえる会心作40話「どれみと魔女をやめた魔女」を披露。『どれみ』全体のエポックともなった作品です。
 続けて49話「ずっとずっと、フレンズ」も担当し、その健在ぶりをアピール。この話は、五十嵐監督が気に入っていたキャラクター、「はづき」に焦点を当てた物語で、それを細田に振った事からも、その信頼が読み取れます。『どれみ』という作品が持つポピュラリティもあって、細田守はさらに新たなファンを獲得していくのです。

 03年には、続く東映作品にしてやはり五十嵐卓哉がSDを務めた『明日のナージャ』の各話演出も担当。主人公ナージャの母親探しの旅と、恋愛とが描かれました。細田はオープニング、エンディングの演出も担当しており、作品の初期イメージリーダー的な役割も兼ねていたと言っていいかもしれません。担当作は5話「星の夜・二人だけのワルツ」、12話「宝探しはロマンチック!?」、26話「フランシスの向こう側」の3本です。

 また、この年にはアーティスト村上隆とのコラボレーションでも話題になった『SUPERFLAT MONOGRAM』も監督します。これは5分の短編で、LOUIS VUITTONのPRフィルム。世界各地18店舗含む、全国のLOUIS VUITTONの店で見る事ができました。細田守の活躍の舞台はさらなる広がりを見せていきます。

 04年。TV版『ONE PIECE』199話「迫る海軍の捜査網! 囚われた二人目!」を担当したのち、『ONE PIECE』の劇場版、『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』を監督。
『ONE PIECE』は少年ジャンプ連載、尾田栄一郎の正統派冒険マンガ作品を原作にしたアニメ。99年より現在まで放映されています。主人公ルフィが海賊王になるため、仲間とともに島々を巡り冒険する、という物語。TVシリーズのSDは宇田鋼之介、境宗久が担当しています。
 この劇場版が現時点での細田守の最新作となります。「仲間」という題材の取り扱い方や、後半のホラー調といってもいい展開から、「異色作」として捉えられる事もあります。
 本作を監督するのとほぼ時期を同じくして、細田は東映アニメーションを去り、フリーとして活躍する事になり、現在に至るのです。

 そのフリー1本目が次回作、劇場『時をかける少女』。これまでもそうだったように、本作も歴史に残る1本として記憶される事でしょう。

●初心者のためのホソダマモル入門・その4へ続く

●DVD情報
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!/デジモンアドベンチャー」
DSTD02003/カラー/60分/片面1層/MPEG-2/ドルビーデジタル/16:9(レターボックス)
価格:4725円(税込み)
発売日:2001年1月21日
映像特典:細田守監督・関弘美プロデューサースペシャルインタビュー、メイキング、劇場予告・TVスポット
製作元:東映ビデオ株式会社
発売元:東映株式会社
[Amazon]

●関連サイト
『時をかける少女』公式サイト
http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/

『時をかける少女』公式ブログ
http://www.kadokawa.co.jp/blog/tokikake/

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