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初心者のためのホソダマモル入門・その4
『アッコ』と『鬼太郎』で大爆笑!
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やってまいりました。ホソダマモル入門! 前回は、細田守の作品をざっと概観してみました。そのうえで、今回は『ゲゲゲの鬼太郎[第4期]』と『ひみつのアッコちゃん[第3期]』について語っていきます。これらは細田守の初期作品。また、コメディ要素の強い作品でもあります。えっ、細田守がコメディ? と、驚かれる方がいるかもしれません。細田監督というと「クールな映像派」と見られがち。また、10年近く前の作品という事で、見ていない方も多いのではないでしょうか。そんな方に特に今回の紹介をお送りしたい! この2作、頬が緩みっぱなしになるくらい笑えるんですよ! クールな映像派といっても、生み出す映像がカッコイイということであって、おバカな作品を作らないという事ではないのです。細田監督の別の面を垣間見てもらえれば、と思います。また、初期作品ではありますが、すでに「細田節」とでも呼べるものも炸裂。これも見所ですね。作品に詰め込まれた楽しさを紹介しつつ、このあたりにも触れていきます!
●『ゲゲゲの鬼太郎[第4期]』「鬼太郎対三匹の刺客!」で笑おう!
『ゲゲゲの鬼太郎』といえば、何度もアニメ化されている人気作品。細田が参加したのは、西尾大介がSDを務めた第4作目になります。1996年放映で、細田は演出として3本を担当。演出としてのデビュー作でもあります。今回取り上げるのは、113話『鬼太郎対三匹の刺客!』。
この作品の笑いどころは、なんといっても3匹の刺客! その情けなさでしょう!
えっ、主人公は鬼太郎じゃないの? と思った方もいるかもしれませんね。実は、本作では視点が鬼太郎側に置かれていないのです。それどころか、鬼太郎は前半眠りっぱなし。起きてからもなんにもしてません! 主人公がこんな事でいいんでしょうか。逆に、立ち向かう3匹の刺客は、もうおおわらわ。その対比が、さらに3匹の刺客に悲哀を漂わせます……。では、その3匹の刺客が、どのように情けなく「おおわらわ」だったのか。ちょっと覗いてみる事にしましょう。
「みさこ、ゆうた、怖いよ〜、まだ死にたくないよ〜」
これは3匹の刺客の1匹「如意自在」の台詞です。
実に情けなくて味のある言葉……。『ゲゲゲの鬼太郎』といえば、主人公の鬼太郎が強くて悪い妖怪と闘う――なんてイメージを抱いている人もいるかもしれませんが、これではまるで締まりません。
でも、それが本作の醍醐味。こういう弱さや脆さがあってこそ、人間らしいってなもんです(まあ、妖怪ですけど)。だいたい、このほうが親近感も湧きますよね。
刺客達は貧乏生活を送っています。「五徳猫」はいまにも倒れそうな家で傘張り、「如意自在」はゴルフ場のロストボールを集めて、小銭を稼いでいます。別に妖怪がリッチな暮らしをしているなんて視聴者は思っていない……というより気にも留めていないでしょう。でも、まさかこんな生活を送っていようとは! 今日び、妖怪も大変ですねえ。しみじみ。でも、「如意自在」に関しては、さらにリアルな感じで大変なんですよ。なんといっても、彼には家族がいるんです! 上の台詞にある「みさこ」と「ゆうた」です。妖怪に家族というのも凄い発想ですが、その家族の外見が全員一緒なのも笑いどころ。みんなディアボロモンみたいなお腹です。家族がいるから、命の危険のある仕事はできない……というのも、なんとなくしがないサラリーマンの生活を思い浮かべてしまいます。「うん。しょうがないよね、如意自在」。酒を飲みながら声のひとつも掛けてやりたくなりますね。妖怪なのに。
闘う相手が「鬼太郎」と聞いてショックを受けるシーンも、可哀想な感じです。小物っぷりがよく出ています。それまで相手を侮り、ずうずうしいくらいに飯をかっ食らう助っ人達。どんちゃん騒ぎの中、雇い主から闘う相手「鬼太郎」の名が発せられると――油灯が揺らぎ、画面が暗転。不安定な構図で、時間が停止したかのようなカットが次々と現れます。灯の揺らぎが元に戻ると同時に、暗転も戻り「き、き、き、鬼太郎――?」。やっと仰天するのです。
この長い「間」! 刺客達が、「鬼太郎」という恐ろしい単語を理解するのに、それだけの時間が必要だったという事なのでしょう。その衝撃が哀れさとともに観ている側に伝わってきます。一方、次のカットは、寝返りを打つ鬼太郎。鬼太郎のこの余裕ある態度が、刺客達の情けなさを、より視聴者に印象づけます。細田守、この頃から容赦ありません。さすが「クールな映像派」ですよ! ってかクール過ぎだよ!
鬼太郎との対決から逃げようと、「五徳猫」と「如意自在」が、「ぬらりひょん」の屋敷を見つからないように抜け出そうとするシーンは、もうコントです。ドリフなんかを髣髴とさせますね。
まず、「五徳猫」が抜き足差し足。「しーっ」と人差し指を口にあてて進みます。次のカット、同じカメラアングル、同じ動きで「如意自在」が登場。その後、ワンワンと吠える犬の影。ふたり、全く同じ動きでそちら(カメラ正面)を向いて「しーっ!」。
この時点で、細田流「繰り返し」がなされているところに、まず注目してください。面白いのは、その後もう一度、ほぼ同じシーンがある、ということです。一度、私物を持ち出し、さあ、今度こそ逃げるぜ、というところ。状況は同じなのですから、同じシーンになるのは当然と言えば当然なのですが。ここでのポイントは……犬が2匹になっとる! なぜだ! よく分からないのですが、これが面白い。見ている側は繰り返しだと油断しているので、余計に笑ってしまいます。まあ、このあと犬が2匹に増えたからかどうか分かりませんが「ぬらりひょん」に捕まってしまう、という、やっぱり哀れなオチです。「細田流繰り返し」はこの頃から冴えまくりなんですね。
「繰り返し」というと目立つところで、もうひとつ。「妖気合体」のシーン。これが相当イケてます。私は、今でもひとりになると、なんとなくここの真似をしてしまうんです。私的お気に入りシーン。
三匹の刺客達が、それぞれの能力を駆使し、それでも歯が立たなかった鬼太郎に対しての最後の手段。それが妖気合体です。凄い! カッコいい! それが実際は「ただの肩車」であったとしても、その心意気に惚れちゃいそうです!
すでに何かを悟ってしまったらしい「如意自在」。「トォーッ」なんて叫びながら、意気揚々と肩車に挑みます。ですが、まだコダワリを捨てきれない「五徳猫」は、まったく同じアングル、同じポーズ、同じセリフであるにも関わらず、顔だけが何かを捨てきれておりません。この時の声優、堀川亮(現・堀川りょう)の演技も、やけっぱち感が出ていて物凄くいい!! このシーンも、上述した「繰り返しの中に、ちょっとだけ違和感を混ぜる」という特徴がありますね。
近作である『明日のナージャ』「宝探しはロマンチック!?」でも、この手法が活かされていました。主人公であるナージャと、ケンノスケが、お宝に関する話を聞くたびに、リッチな生活への妄想をエスカレートさせていくというところです。最初は控えめな妄想なのですが、同じアングル、同じポーズでその妄想がエスカレートしていく。視聴者にとっては、その妄想の飛び具合だけが強調されて感じられ、さらに笑えてしまうのです。当時も今も、細田守はやはり細田守、なんですね。……『時をかける少女』でも、この手法、期待できるかもしれません!
本作の面白さのポイントだと私が思う「刺客達の情けなさ」について、ざっと語ってみました。まだまだ、三匹の刺客はいろんな事をやらかしてくれてます。ここでお話したい事はまだ色々あるのですが、あとは本編を見てのお楽しみ、という事にしておきましょう。みんなで楽しく笑いながら見るのに打ってつけの1本です!
●『ひみつのアッコちゃん[第3期]』「チカ子の噂でワニワニ!?」に驚け!
お次は『ひみつのアッコちゃん』。こちらも何度もアニメ化されている作品ですね。細田は1998年、芝田浩樹がSDを務めた第3期に参加しました。
細田が演出として担当したのは4本。今回は、14話「チカ子の噂でワニワニ!?」をクローズアップします。
「チカ子の噂でワニワニ!?」を初めて見た時のショックは、正直、言葉では言い表せません。自分だけでなく、私の周りでは今でも、細田といえばこの「ワニワニ」という人が多いですね。ほとんど伝説の域に達している傑作、いや、怪作とすら言っていいのではないでしょうか。
とにかく細田演出の特徴が色濃く出ているエピソード。緻密なレイアウトと、同ポ繰り返しが非常に効果的に使われているところが見所です。
特にそのレイアウトは、TVアニメの常識を遥かに超えています。この頃から、細田は緻密なレイアウトを組み、同ポ繰り返しを効果的に使っていた――いや、この作品があったからこそ「同ポ繰り返しと緻密なレイアウト」=細田演出という認識がなされた、と言いたくなるほどです。
……なんて、ちょっと仰々し過ぎたでしょうか。本作はとにかく楽しく笑いながら見る作品なんで、あまり構えず、衝撃を「笑撃」に転じて楽しんで見るのがイイんでしょうね。
まず、鮮烈なのは冒頭。画面一杯、サイケにぐるぐる回る花が登場です。そして、唐突に流れるチカ子の歌。「聞ぃーちゃった、聞ぃーちゃった!」という台詞。枚数を使ってたっぷり踊る濱洲英喜作画のチカ子。それら一連のカットが、本編で何度かテンポよく繰り返されていきます。うむう、言葉ではうまく言い表せませんが、これでひとつの表現になっているのです。
「これがチカ子の歌のプロモーションビデオです」なんて言って、このシーンだけを見ても納得しちゃうかもしれません。こんな始まり方をするアニメにはちょっとお目にかかったことがありません。
それから緻密なレイアウト。これも凄いというか、はっきりいって異常です、呆れます。とにかくTVシリーズでは通常あり得ない密度です。『デジモンアドベンチャー』の回でも、レイアウトについては散々お話してきました。ですが、ここまできたら言っちゃいましょう。私はこれを「心情を仮託できるレイアウト」と呼びたい!
このレイアウトは兼用されて、何度も繰り返されるのですが、チカ子が同じ場所を、時間をおいて通り過ぎるたび、視聴者には全然違った風景に見えるのです。チカ子が楽しそうな時は明るく、悲しそうな時はなんとなく寂しげに映る。それは単純に撮影効果だけの問題ではなく、そういう心情に寄り添う事ができるだけのキャパシティが、このレイアウトにはあるからだと思います。これに関しても、『時かけ』でもまたやってくれるんじゃないか、と期待大な部分ですね!
全体としてテンポよく、「詰まった」感じのする作品です。でも、作画枚数はなんと驚きの「2999枚」(「ひみつのアッコちゃん DVD COMPACT BOX1 解説書」より)。これは東映アニメーション作品では常識的な数字です。同ポ繰り返しの部分の枚数の多い動きや、密度の高いレイアウトを何度も兼用することで、他の話と同じ程度の作画枚数で他を圧倒するだけの作品を作りあげる事ができるのですね。しかも、それはあくまで、演出的な効果のため。ローコストハイリターンを地で行っているんです。限定された条件の中で、いかに最善を尽くすか。これも「監督」として優秀な資質といえるのではないでしょうか。
他にも「ワニワニ」は、多くの面白い要素を持ち合わせている作品ですが、最後に、ひとつだけ。
このエピソードでは、アッコの立ち位置がかなりはっきりしています。ちょっと語弊がある言い方かもしれませんが、それはアッコが徹頭徹尾「おバカな子」であるという事。突き詰めて言ってしまうと、アッコは全くトラブルを解決できてません。ほとんど空回りしています。ですが、その空回りがきっかけとなって、渦中にいる本人が自力で立ち直ってしまうのです。「おバカな子」という位置づけに曖昧さがなく、主人公に対する、この演出側のスタンスが、物語を引き締めている一因となっているように感じられるのです。
こうした解釈にたどり着くまで、細田はずいぶん悩んだようです。『ひみつのアッコちゃん』自体は、すでに1作目放映から30年近く経っています。その間に時代は変化しています。魔法の力で人が幸せになれる、という原作の根幹の部分が、いまもリアリティを持っているのか、と問われれば、難しいところでしょう。細田はアニメスタイル1号に寄稿した「わたしの好きなアッコ」で、以下のように語っています。
「なお物語の主人公として常に『特殊なひと』であらねばならないアッコは、現在においてどのような象徴的役割があり得るのか。現在、3たび『アッコ』が復活する現在的意義はあるのか」
細田は、最初の担当である6話の演出を、未消化のまま終える事になります。悩む彼に大きな力を与えたのは、クビ覚悟で挑んだ脚本打ち合わせの席で出会った、吉田玲子のプロットでした。そこまできて、やっと細田はひとつの結論に行き着くのです。
「アッコは困っているひとのために、善意と魔法の力によって行動する。だがその行動が見当はずれなため、魔法と善意が空回りする。困っているひとは、自力でその苦境から脱出する。アッコはそれを見て満足する」
同ポ繰り返しのテンポとインパクト、心情を仮託できるレイアウトなどとともに、この「時代との格闘」があって初めて、「ワニワニ」は傑作たりえたのだと、私には思えます。いま現在において『アッコ』を造形する意味を考える――演出家にとって基本的な姿勢と言ってしまえばそれまでですが、細田が常にキャラクターと向き合い、真摯にフィルムを作っているという証でしょう。だからこそ、細田のフィルムは輝いているのです。
さてさて「鬼太郎対三匹の刺客!」「チカ子の噂でワニワニ!?」の見所をざっと紹介してきました。コメディ的な面白さや、この頃から全開バリバリな細田演出の楽しみを少しでもお伝えする事ができたでしょうか。
見て楽しんでもらうのはもちろん、『時をかける少女』でどんな笑えるシーンがあるか想像して楽しむ、なんてのもアリかと思います。『時かけ』主人公の真琴は元気があり余っているようなので、笑いにも期待したいところです!
さて、次回は……本作で細田守という存在を初めて知ったという方も多いかもしれません。『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』より「どれみと魔女をやめた魔女」を紹介します! お楽しみに!
●初心者のためのホソダマモル入門・その5へ続く
●DVD情報
『ひみつのアッコちゃん 第三期』 コンパクトBOX
発売元:東映アニメーション株式会社 株式会社コムストックオーガニゼーション
販売元:BIG TIME ENTERTAINMENT
価格/1:22000円、2:21000円(全て税込)
発売日/BOX1、2とも発売中
[Amazon]
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「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!/デジモンアドベンチャー」
DSTD02003/カラー/60分/片面1層/MPEG-2/ドルビーデジタル/16:9(レターボックス)
価格:4725円(税込み)
発売日:2001年1月21日
映像特典:細田守監督・関弘美プロデューサースペシャルインタビュー、メイキング、劇場予告・TVスポット
製作元:東映ビデオ株式会社
発売元:東映株式会社
[Amazon]
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●関連サイト
『時をかける少女』公式サイト
http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/
『時をかける少女』公式ブログ
http://www.kadokawa.co.jp/blog/tokikake/
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