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『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』水島努監督インタビュー
(1)「なぜ僕が呼ばれたのか」を考えました


 公開中の『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』は、ホラーテイストと小気味よいギャグが解け合った快作だ。監督は『ジャングルはいつも ハレのちグゥ』や『撲殺天使 ドクロちゃん』でお馴染みの水島努。彼とCLAMP作品との取り合わせも意外だったが、彼がProduction I.Gで監督をするのも意外だった。だが、仕上がった作品は、CLAMP作品の魅力も、水島監督の個性も、そして、Production I.Gならではの豪華な画面作りも、堪能できるものだった。

●2005年9月6日
取材場所/東京・Production I.G
取材・構成/小黒祐一郎・岡本敦史


●関連サイト
『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』&『劇場版ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』
http://www.holic-tsubasa.com/


PROFILE
水島努(Mizushima Tsutomu)

1965年12月6日生まれ。長野県出身。1986年に制作進行としてシンエイ動画に入社。『美味しんぼ』で初演出、その後、TV&劇場版『クレヨンしんちゃん』を演出。初監督作品『ジャングルはいつも ハレのちグゥ』で注目を集め、次いで、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』を監督。2004年8月にフリーとなり、その後、OVA『撲殺天使 ドクロちゃん』、OVA『いちご100%』(構成・脚本)などを手がけている。


―― 今回の『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』では、水島さんはどのあたりからの参加になるんでしょうか。
水島 『×××HOLiC』という作品をやる事は決まっていて、メインスタッフもほぼ決定していた頃ですね。監督という立場ですが、かなり後の方で参加した感じです。
―― その段階で、映画のプランはどのぐらい進んでいたんですか。
水島 えーと、まだプロットができるかできないかぐらいの状況でした。でも、意外と入り込みやすかったですね。
―― 館を舞台にするというのは、すでに?
水島 決まっていました。でも、決まっていたのはそれぐらいだけかもかもしれないですね。ただ、文章になっていなかっただけで、本当はもっと具体的なプランが、櫻井(圭記)さんと藤咲(淳一)さんには出来ていたのかもしれないですけど。とりあえず僕は、シナリオ打ち合わせの時には、大人しくしていました(笑)。「うんうん」と頷く感じで。
―― 内容について、意見は出さなかったんですか。
水島 ちょこちょことは言いましたけど、基本的には「この人、なんでいるんだろう?」と思われるくらいに大人しくしてましたよ(笑)。
―― 水島さん本人としては、最初、どのように取り組まれたんでしょうか。
水島 まず、最初に考えたのは、「なんで呼ばれたんだろう?」という事でした(笑)。もし僕が必要とされているなら、I.Gの作風やCLAMPの世界観もふまえて、バランスを意識しなきゃいけないなと思いました。



―― 自分が呼ばれた理由を考えるところから、始まったわけですか。
水島 そうです。最初に原作をもらって、そこでまた、ちょっと混乱したんですよ。とんでもないスラップスティックなやつだったら、「なるほど」と思うんですけど。ホラーテイストだし、いろんな要素のある作品じゃないですか。そこで「これで自分は何ができるんだろう」という事は、最初に考えましたね。それで原作を読んでいくうちに、コミカルな要素もある事が分かって、そういうところでバランスをとっていけばいいのかな。そう思って作っていった感じです。
―― シナリオ会議では大人しくしていたとおっしゃいましたが、仕上がったシナリオに関してはどう思われたんですか。
水島 屋敷の中だから、窮屈な空間じゃないですか。どちらかと言うと、僕はそっちの方が得意なんですよ。舞台が外に広がるよりは、内でどう動くか、という方が作りやすいんですよね。だから、やりやすいと思いました。
―― ……えーと、さっきから、大変に控えめに喋っていますけど「俺様モード」とかで話さなくていいんですか。
水島 いやあ、「俺様」はないですよ(苦笑)、若いころならともかく。どこへ行っても、なるべく大人しくしていようと思っているので。
―― (笑)。それは水島さんの性分なんですか。
水島 うーん、基本的に僕は画が描けないんです。画が描けない人が、アニメ業界で俺様モードという事はないだろう、というのがあるんですよ。これは心からそう思うんですよね(笑)。シンエイでは、制作の人よりも描けなかったんですよ。会社の中で最もダメダメなので、「お気の毒な人」みたいに言われてました。
―― それについて御自身はどうだったんですか。
水島 しょうがないかなあ、と。
―― いいんですか、それで(笑)。
水島 スタッフのチームワークがないと、何もできませんから。自分1人で暴れてたって、作品はでき上がらないじゃないですか。だから「仲よくしていこう」という方向で、これからもやっていくと思いますよ。
―― なるほど。
水島 喧嘩の仲裁が、自分の仕事のひとつだと思ってるんです。それは現場の中だけの問題じゃなくて、外からの注文にどう応えるかという事でもあるわけですよ。そういう事が自分の仕事かな、と思ってるんですよね。
―― なるほど。『×××HOLiC』の話に戻りますが、シナリオができた後、それを映画としてどう成立させるかについて、どのように考えられたんでしょうか。
水島 コンテ描いてるうちに考えよう、ぐらいでしたね。
―― (笑)。
水島 “有機物”にしたいな、とは思ってました。例えば建物の崩壊とかって作画的にもの凄くく大変なんですけど、そのわりには、あんまり観た人は感動してくれないんですよね。そういったものは、そのうちにCGでやるようになっていくと思うんですよ。作画の強みってやっぱり有機的なものだと思うので、最後はそういう方向にもっていこうと考えていました。
―― それは、具体的な見せ方について?
水島 そうですね。つまり、クライマックスをどう見せるかという問題。
―― ああ、なるほど。
水島 普通に考えると、あの屋敷がガラガラと崩れていくスペクタクルをやる事になりそうですよね。だけど、それって作業的に大変なだけで、それほど面白くなるとは思えなかった。やりすぎるとスタッフが死んじゃいますしね(笑)。やっぱり人間が動いて、それで盛り上がっていく方が面白いと思うので、そっち方向がいいかなと。
―― わりと趣味的と言うか、マニアックなテイストの映画に仕上がっていると思うんですが。
水島 そうですかね(苦笑)。自分ではマニアックだとは思ってないんですけどね。あと、観客層に女の子が多い、というのはもの凄く意識しました。やっぱり「ちょっとキモ怖カワイイ」ぐらいの、そういうところを押さえていきたいな、という気持ちはありましたね。それと男の子向けではないので、やたら長いアクションシーンは入れない。だからクライマックスのアクションも、3分ないはずです。男の子向きの作品なら5分くらいやってあげたいし、それとは別に中盤で1回やっておいてあげないとダメかな、と思いますけど。
―― なるほど。
水島 『ハレグゥ』は割と女の子のファンが多いんですよ。「そういったあたりはどうだったかなあ?」とか思い出しながら「でもよく分かんないな」みたいな(笑)。そんな方向でやっていきました。
―― ちゃんとキャラクターものの作品になってましたよね。ボケとツッコミとか。
水島 ええ。そこらへんはね、散々やってきた部分なので(笑)。あとは、CLAMPっぽくしたいなあ、と。
―― CLAMPっぽくですか。
水島 もう自分ではCLAMPになりきるつもりでやったんですけど。違いましたかね?
―― いや、僕はあんまりCLAMP作品に詳しくないので(笑)。でも、CLAMPファンが求めるキャラクターのシャープさみたいなものは出てたんじゃないですか。
水島 それだったらよかった、という感じですね。
―― 人物の生身感が薄いところも。
水島 生身感、ないですかね? まあ、確かにないか。そこまでは意識してなかったですけどね。それと当たり前ですが、「エグいギャグはやらない」というのも決めてました。ちょっとマイルドにしておこうというのは、かなり意識しました(笑)。
―― 『ハレグゥ』とか『しんちゃん』のギャグは、エグいんですね?
水島 そうです。
―― あるいは『(撲殺天使)ドクロちゃん』とか。
水島 あれは最もそっち方向の、行き着いたところですね(笑)。



―― 美術やレイアウトがああいった凄いものになるというのは、最初の段階で分かっていたんですよね。
水島 僕はこれまで、動く事が大前提のアニメ、作画の動き主体のものばっかり作ってきました。だけど、今回は(美術や設定に)凄い人がいっぱいいる事もあって、美術を見せる事をかなり意識しました。「背景をじゃんじゃん見せるぞ」とか、「かっこいいアングル見せるぞ」とか。ただ、「どうだ!」と言って見せるのではなくて、さりげなくしようとは思ってました。
―― コンテは早めに上がったんですか。
水島 いやあー、引っ張っちゃいましたよ(苦笑)。メチャメチャ引っ張っちゃいました。昨年の12月中旬にインして、4月1日にアップしました。四月一日(「ワタヌキ」と読む。主人公の名字)と同じ日に。
―― なるほど、狙ったんですね。
水島 いやいや(笑)。狙ってはいないんですけど、「4月1日を越えちゃマズイ」とは思ってました。そういう意味では狙ってるかもしれないですが。
―― 公開が夏だから、作画を考えると、そのくらいに上がらないとマズイという事ですね。
水島 ただ、相当に遅らせちゃっていたので、「ちょっとずつでも必ず出す」というのは自分の中で決めてました。最低でも毎週、できれば3日にいっぺんずつコンテを出していく。だから、もの凄い細切れで出して、作画打ち合わせもじゃんじゃんやる、みたいな感じですね。
―― なるほど。
水島 あと、大変なシーンは絶対に最後に残さない、というのも決めてました。最初にドアタマを描いて、次に真ん中を描いて、次にラストの戦いを描いて。で、あんまり大変じゃないところを残しておく。そうすると尺調整もできるんですよ。そうやって、かなりバラバラに描いていきましたね。最後に描いたのは、コレクターたちが消えていくというところだったかな。いちばん最初に描いたのがアバンで、その次は四月一日が化粧室を探して(館の中を)彷徨うところ。そこを描き終わって、コレクターの部屋。で、クライマックスを描きましたね。そうやっていかないと、自分も疲れていって、クライマックスをやるあたりで元気がなくなっちゃったりするんで。そんな経験が今までにあるので、元気のいいうちに、元気のいいところを描こう! というところですね。
―― さすがですね。それはアニメーターさんの作業効率も考えて、という事ですね。
水島 そうですね。特に、クライマックスを残すのは犯罪ですから。そこはなるべく最初にやっておかないといけない。でも、クライマックスのコンテを上げたのは、2月だったかなあ。

●『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』水島努インタビュー
(2)キャラクターは14等身ぐらい?へ続く



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