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『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』水島努監督インタビュー
(3)このクオリティで、あのツッコミが!


―― じゃあ、コンテの話を。一応ホラーものじゃないですか。しかも、ああいうかっちりした画面なのに、やっぱり水島さんらしいギャグとか、トリッキーな感じとかがちゃんと出てましたね。
水島 そうですかね? 今回、どれだけ自分を抑えるかというところは、かなり気をつけたんですよ。
―― 抑えたんですか。
水島 ええ。もちろん、「なんで呼ばれたか」という事を考えると、ある程度は必要だったんですけど。あんまり(自分を)出さないように気をつけなきゃな、と。
―― おそらく多くの『ハレグゥ』ファンは、ツッコミのタイミングに懐かしさを感じたというか、「あのツッコミをI.Gの映画で観られるとは!」みたいな感慨があったと思うんですが(笑)。
水島 「あのクオリティで!」。
―― 「このクオリティで、あのツッコミが!」(笑)。
水島 だけど「こんなクオリティで、まだ同じ事やってるよ!」と言われるのが怖くて。
―― 怖かったんですか。
水島 ギャグってやっぱりすぐ古くなるんで、気をつけていかなきゃいけないし。多分、同じ事は長くできないと思うんですよ。いちばん大切なのは、この業界で長続きする事だと思うので、飽きられないように。
―― 大切な事って、自分にとって?
水島 そうです。60歳までこの業界にいられたらいいなと思います。出来れば65歳まで。それは水島精二さんとも話したんですけど。
―― つまり「ダブル水島監督」の願いなんですね。60歳まで業界で仕事をしよう(笑)。
水島 ええ。「ふたりの目標:長続きする事」って(笑)。
―― 夏の劇場でぶつかり合った、ダブル水島の願いが、そんな事だったとは(笑)。
水島 この前、兄貴の映画(『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』)を観に行こうとしたら、立ち見だったので帰ってきちゃいました。
―― え、精二さんの事を兄貴って呼んでいるんですか。
水島 いや、お互いを「兄貴」って呼んでるんです。このあいだ、『ドクロちゃん』のネットラジオで「精二の兄貴が」と話をしたら、みんな、兄弟だって信じちゃったみたいで(笑)。


―― 今回、対象年齢はいくつぐらいを考えてたんですか。
水島 中学生・高校生かなあ。同時上映の『ツバサ(『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君)』もあったので、小学生が観に来るのも分かっていました。で、実際に公開したら(客層に)予想外にちっちゃい女の子もたくさんいたんです。それは考えていなくて、ちょっと怖くし過ぎたかな、とも思ったんですよ。『×××HOLiC』は脅かしが多かったから、小さい子には、ちょっと可哀相だったかもしれないですね。小学生ぐらいなら大丈夫だと思うんですが。小さい子が来るのが分かっていれば、もう少し抑えたかも。
―― 中盤は、確かに怖かったですよね。
水島 ダビングで「もっとダーンと行こう」とか言って、派手に音をつけて、後で油断して自分で引っ掛かったりしたんですよね(笑)。「わあ、びっくりした!」って。
一同 (笑)。
水島 『×××HOLiC』では、脅かしの後に面白い顔の四月一日を入れるというのがルールでしたから、あれで少し和ませようと思ってたんだけど。多分ちっちゃい子だと、和むどころじゃないですよね。逆に四月一日の悲鳴で、恐怖が倍増しちゃうかもしれない。そういえば、あそこはあんまりウケなかったな……。少女が窓からドン! と現れた時に、四月一日が逃げりゃいいのに、カーテン閉めるじゃないですか(笑)。凄く無駄な事をやってるんですよね。あれはウケるかなと思ったら、全然ウケなかったですね。
―― ウケる以前に、怖かったですよ。閉める直前に少女の顔が大写しになるじゃないですか。あのカットがいちばん怖かったです。
水島 ああ、ちょっと恨めしそうな顔してるところですね。
―― トイレを探してたはずの四月一日が、変な魚のいる部屋のところで「俺、何してたんだっけ?」と言うところは、結構ウケてましたよ。トイレで手を洗ってるところは、ちょっと「シャイニング」っぽかったですね。
水島 ……すいません、ちょっと意識しちゃったかもしれません(苦笑)。えーっとですね、トイレの場面のコンテに「キューブリック風」って書いてました。
一同 (笑)。
―― 蛍光灯の照明とか、相当かっこよかったですよ。
水島 ええ、それはもうバッチリ。いやあ、背景の力って凄いですよね。
―― (笑)。メイキングの話に戻りますが、コンテが終わってから制作終了まではスムーズにいったんですか。
水島 もの凄くスムーズでしたね。今までも何本かの映画をやって、映画というのは身も心も疲れ切っちゃうもの、というイメージがあったんですよ。「こんな事をずっと続けてたら早死にしちゃうだろうな」と思っていたのに、今回は凄く楽というか、サクサクとイイ感じで進みましたね。ダビングで全部色がついてる。しかも、ダビングが朝10時に始まって、夕方の6時に帰れる。ダビングって泊まり込むのが当たり前だと思ってたんで、「明るいうちに帰れるって、すげー!」と思いましたよ。
―― 原画もスムーズに上がってきたんですか。
水島 かなりイイ感じで上がってきましたね。一度に、そんなにたくさんチェックはしてないんですけど、丸1日やっても30か40(カット)ですかね。とにかく、こんないい作り方は初めて、という感じですね。徹夜って、一度もしてないんですよ。
―― ほう。
水島 朝まで仕事したのも1回か2回。ただそれは、自分のコンテが遅れているとか、そんな理由で徹夜していた事はありますけど。それ以外で引っ張るような事は、全然なかったですね。全てのアニメがこうなると楽だなあ、と思いましたよ(笑)。
―― それはI.Gの制作管理能力の賜物ですか。
水島 それは間違いないですね。他にも管理能力がしっかりしているところもあるとは思うんですが、そういうところって、おそらくクオリティを……。
―― ちょっと甘くしたり、各スタッフのこだわりを許さなかったり。
水島 そうですね。粘る事は許されていて、管理がしっかりなされているって、凄いんじゃないですかね。
―― 併映作品(『劇場版ツバサ・クロニクル 鳥カゴの中の姫君』)とのリンクというアイデアについて、水島さんとしてはいかがだったんですか。わりと観客は面食らうと思うんですけど。
水島 原作で『×××HOLiC』と『ツバサ』が完全にリンクしているというのと、2本立て興行であるという事を活かすためにも、やるべきだったんじゃないですかね。ただ、単体で観た時に(リンクする部分が)ストーリーの中の核心になっちゃうと、もう1本も観ておかないとわけが分からなくなる。だから一応、後日談的な部分でリンクするようにした感じですね。
―― それは水島さんの意見も、反映されてるんですか。
水島 いや(笑)。でも、もしリンクが本筋に関わってきていたら「ちょっと待って、それはやりづらいかも」と言ったかもしれない。でも、そうはなっていなかったので「そうそう、よかった」と思って、黙って聞いてました。……シナリオ会議では本当に、ただ無口な人という感じでしたよ(笑)。
―― 先ほど、小さな子どもの観客が意外と多いという話が出ていましたが、完成してから、劇場には足を運ばれたんですね。
水島 ええ、もちろん行きましたよ。
―― いかがですか、お客さんの反応とか。
水島 そうですね、思ったよりみんな笑ってくれるんだな、と思い、ホッとしましたね。ああ、ひと安心、という感じですかね。……まあ、概ねよかったと思います。
―― なるほど。御自身の手応えとしてはどうだったんですか。
水島 えーと、手応えって、ある程度、時間が経ってみないと分からないものじゃないですか。今作りたてのホヤホヤなので、何とも言えませんね。自分にとっての作品に対する手応えは、DVDが出る頃に初めて分かるんじゃないかと思います。……あとはそうですね、ネットでも見ますかね(笑)。
―― ネットに出ている感想ですか。
水島 ええ。自分で、一番参考にしたいのは個人のブログなんですよ。そういうところは結構覗いてますよ。
―― 最初の話に戻りますけど、「自分が呼ばれた理由」とのバランスが難しいという事だったんですけど。具体的に作業をする時に、そういう判断をしたわけですか。「このギャグは、やりすぎちゃいかん!」とか。
水島 思いますよ。だって、お下劣なギャグはできないじゃないですか(笑)。コンテ描いてる時ってどうしても集中してやっちゃうので、よく分かんなくなっちゃいますけどね。「なんか面白いネタはないかなあ」と考えながら描いてるんで、そういう時は、理性というか、バランス感覚がちょっと壊れちゃうんですよ。だけど、やっぱり自分の中で抑えなきゃいけない気持ちっていうのは、いつでも持ってなきゃいけない。それがないと突っ走った『ドクロちゃん』みたいになりそう。
―― なるほど。
水島 あれは「悔いを残さず行くところまで行って、作り終えたあとはいい大人になろう」という考え方でやっているので(笑)。今、DVD4巻が完成したんですけど、かなりえげつないですよ。TVオンエアではお見せできないところがあります。6シーンも。
―― 『ドクロちゃん』が最たるものですが、『クレヨンしんちゃん』の各話演出をされている頃から思ってたんですけど、“不穏な空気”みたいなものを作るのが巧いなあ、と。
水島 不穏な空気?
―― 『ヤキニクロード』の序盤で、野原一家の周りの人々がどんどん密告者になっていく、あのイヤ〜な感じとか。
水島 えーと、多分、それは性格だと思うんです。『しんちゃん』をやっている時は、本郷(みつる)さんや原(恵一)さんから「黒い」と言われてましたから。
―― (笑)。そうなんですか。
水島 「お前は悪人だ」って、しょっちゅう言われ続けましたね。多分、そういうところじゃないですかね。何をやってもダークさが出ちゃうんですよね。その黒さもホントは消していきたいというか……。
―― いやいや(笑)。そこが好きなファンもいるでしょう。
水島 多分、歳とると、そういう部分は、だんだんなくなっていくと思いますよ(苦笑)。若い頃には悲劇的なものとか、怨念とか、憎しみとか、そういうのが大好きだったんですけど。今は「ハッピーエンドじゃなきゃ嫌だな」「幸せにならないものは嫌だな」と思うようになってきましたね。
―― なるほど。
水島 若い頃はもう「全人類を呪う」みたいな(笑)、そういう負のエネルギーを持っていたんですよ。そういうのがだんだん、なくなってくるんですよね。脂っこくなくなってくるというか。自分の中では、それはよい事だと思ってます。
―― 確かに『×××HOLiC』は、ホラーであるにもかかわらず、そういった意味でのダークな感覚はあまりないですよね。
水島 原作がそうでしたからね。どこかサバサバとした感じが欲しいな、とは思いましたね。……あ、今の話をして思い出したんですが、四月一日が、観客にウザいと思われないようにしたいと思ったんですよ。だから早めにブレーカーが落ちるタイプとして考えてました。ギャーギャー騒ぐけど、変な事が起こると、ブレーカーが落ちちゃう。感情がなくなる。だから黙々と変な空間を歩いたりとか。そういう風にはさせたんですよ。
―― じゃあ、作品に関しての総括はまた今度という事で。I.Gとの仕事のやり方などに関して、どうでしたか。
水島 考え得る中で、ベストの制作会社だと思いますね。ベストじゃないところは、もうちょっと早めに呼んでほしかった事ぐらいかなあ(苦笑)。
一同 (笑)。
水島 こんな作品をやるんだけど、どう思う? といったところから参加したいな、というのはありますよ。
―― なるほど。
水島 でも、「劇場をやれてよかった!」とは思っています。今はその気持ちでいっぱいです。自分に向いているか向いていないかはともかくとして、映画は楽しいなあ。決して、自分の中で差をつけてはいないのですが、TVシリーズやOVAより、やっぱり作っていて映画は面白い。水野晴郎さんみたいなオチになっちゃいましたけど(笑)、そう思いましたね。
―― 確かに、ファンとしても、水島さんがフリーになられて、こんなに早く映画を作るとは思いませんでしたよ。
水島 いや、ビックリでしたよ! 「ラッキー!」って感じ(笑)。


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