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『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』水島努監督インタビュー
(2)キャラクターは14等身ぐらい?


―― 美術設定なんですが、先に上がってきた美術設定をコンテに取り入れたりしたんですか。それとも、コンテが先で、コンテから設定を起こしていったんですか。
水島 両方あります。四月一日が化粧室を探して彷徨うあたりは、最初から渡部(隆)さんが起こしてくださって。それをそのまま使わせてもらいました。内側に向いたような障子がある部屋とか、変な魚が部屋の真ん中の池にウヨウヨしてるとか。あのシークエンスに関しては、コンテから起こしたところは、そんなにはないんじゃないかな。ちょっと変更したところとしては、神社の境内みたいなところが室内という設定だったんですけど、それをコンテの段階で外にした、とかはありますけど。それは雨が欲しかったというのと、外には出たけど(館からは)出られないという、そんな感じが欲しかったからなんです。(畳が六方を取り囲んだ)和風「CUBE」と、狭いところは自分のコンテが先かな。狭いところは『しんちゃん』でも散々やってるんですけどね、今回もやってしまいました(笑)。あれは「新耳袋」のエピソードからイメージを頂いてるんです。
―― どれですか。
水島 第1巻の、家を改築してたら地下室の下から、畳と白壁の無駄な空間が出てきたという話。その大きさのイメージをいただいて、通路にしちゃいました。あれ、凄く怖い話ですよね。何に使われたのか分からないし、出口がないというのが。
―― 『しんちゃん』でやった狭い場所というと?
水島 『しんちゃん』はですね、(しんのすけが)やたらと狭いところに行きたがるんですよ(笑)。
―― ああー、『(クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!栄光の)ヤキニクロード』の配管内の追っかけとか。
水島 そうですね。とにかく、狭い空間はさんざんやった覚えがありますね。『(クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!モーレツ)オトナ帝国の逆襲』のデパートで狭い場所に隠れてヒロシに見つかるところとか、『(クレヨンしんちゃん)嵐を呼ぶジャングル』の牢屋代わりのロッカールームとか。いつも狭いところを出したくなっちゃうんですよ。



── 今回、手足のやたら長いキャラクターなので、狭い場所にいる画がなおさら効果的で、面白かったですね。
水島 わざと「長い手足を狭いところで絡ませてみよう」という考えはありましたよね。
―― キャラクターデザインは、いかがでしたか。
水島 ああ、慣れました。
―― 「慣れました」ですか(笑)。プロポーションの事ですね。
水島 ええ、慣れました。最初にもらった時は「手足が長い」というイメージはなくて、「顔がちっちゃい」という……まあ同じですけど。「顔がちっちゃいなあ」というところと「どうやったら歩くんだろう?」という事で、まず悩みましたね。でも、「まあいいや、普通で」と思って、普通にやっちゃいましたけど(笑)。(フレームから)足を切ると、あんまり気にならないんですよね。
―― 座ってたりすると、そうでもないですよね。
水島 そうなんですよね。で、細いキャラだけど、現実の周りのものは普通の世界と同じなので、そこらへんが不自然にならなければいいな、とは思っていました。
―― やっぱり、水島さんから見ても、黄瀬(和哉)さんのキャラクターデザインというのはインパクトのあるものだったんですね。
水島 いやあ、びっくりしましたよ! 「どっひゃー」って。でも、それと同時に、面白いと思えたんです。それを動かす事に興味が持てたので、「よし、行ってみよう!」という感じですね。
―― アニメーターの知り合いで、黄瀬さんのデザインを見た人から、「設定がかなりイケてたよ」という話は聞いていたんですよ。本編を観て「なるほど!」と思いました。
水島 私は、今までやっていたのが2頭身のキャラだったので……。
一同 (笑)。
水島 2頭身から10何等身に、劇的に変わって(笑)、とても面白かったですね。
―― あれ、12等身ぐらいあります?
水島 14等身ぐらいあるんじゃないですかねえ。
―― ああ、凄いッスね。やはり、原作のエッセンスを活かしたデザインという事なんですか。
水島 当然そういう事です。黄瀬さんは、さすがですよね。
―― しかも、堂々としてるんですよね。画面から「いいのかな、これで?」みたいなオーラが出てない。「こうだろう!」という描き手の自信が、映像に満ちているところが素晴らしい(笑)。
水島 黄瀬さんって、本当にどんな事でもできるんですね。キャラ表もそうなんですけど、作画でも、デフォルメの具合を凄くこだわってくださったので、それが嬉しかったですね。こう言ってはなんですけど、黄瀬さんがそういう仕事をするというイメージはなかったんですよ、
―― ほとんどのファンも、そう思ってますよ。
水島 だけど、リアクションをする四月一日のデフォルメには、もの凄くビシッと修正が入ってて。凄くこだわってもらった感じですね。
―― デフォルメのカットで、黄瀬さんの修正が入ったのは芝居についてですか。
水島 表情、芝居、全てですね。動かし方に至るまで。
―― 序盤で、アヤカシにまとわりつかれた四月一日がドタバタする時に、手がいっぱい見えるっていうのがあったじゃないですか。あれは凄かったですね。
水島 ああー! あれは宮澤(康紀)さんという原画の方が描いてくれたんです。3コマで、つまり普通のコマ打ちで、手がいっぱいある(笑)。
―― 早く動いてるからたくさんに見えるんじゃなくて、本当にいっぱいあるみたいに見えるという(笑)。
水島 ええ、あれは面白かったですね。宮澤さんはいちばん最初に打ち合わせをして、冒頭のシーンを描いていただいたんですけど、最初の打ち合わせから、制作の最後までやっていただいて。ずーっと、楽しいものを見させてもらいましたね(笑)。
―― 最初に道を歩いてて、アヤカシに乗っかられているというところも、宮澤さんなんですね。
水島 そこも宮澤さんです。最初と、それからもう1回アヤカシが来て、ドンッと壁に手をつけるとヒューッと抜けていくところも宮澤さんです。最後の方で四月一日が(屋敷の吹き抜けで)少女に落とされますよね。あそこも宮澤さん。そうそう、一原だけですけど(屋敷内の)狭いところで手足が絡まってるところもそうでした。
―― じゃあ、わりと愉快な芝居を中心に。
水島 ええ。宮澤さんが描いたところは、宮澤ワールドになってますね。
―― 他に活躍の目立ったスタッフというと、誰になるんですか。
水島 まあ、もちろん大平(晋也)さん、沖浦(啓之)さん。あとは松田(勝巳)さんですかね。沖浦さんと松田さんはクライマックスの侑子が歩くシーンで、タッグのような感じで。
―― 沖浦さんの前後が松田さん?
水島 前ですね。前の部分をやってもらいました。
―― 沖浦さんは、クライマックスの、手前に向かって侑子が走ってくるあたりですよね。
水島 ええ。あそこと、(四月一日と百目鬼が)屋敷のベッドルームに向かうところを、やってもらいました。沖浦さんのギャグも、効いてますよね。
―― 沖浦さんの作画が、今回、最も異質だと思ったんですけど。
水島 え、そうですか!?
―― どちらかというと硬質な感じの世界の中で、ひとりだけ躍動感のある肉体を描いている。胸とか揺れていたので驚きました。
水島 ああー、そうですね。ただ、ちょっと考えていた事があるんですよ。CLAMPの世界観の中では、侑子ってあんまり動かないキャラなんです。で、誰が見てもびっくりする事をさせたい。だから煙がブワッとなって、次に侑子の姿が見えてきたら侑子が走ってる。もうそれだけで、原作を読んでいる人はびっくりだと思うんですよ。「侑子が走ってるよ、おい!」っていう。だから、あそこは躍動感が欲しかったところなんです。
―― ああ、じゃあちょっと異質な感じなのは、演出的にも正解なんですね。
水島 そうです。この先、もしこの後に『×××HOLiC』の映画が10本作られても、侑子が走ったのは1作目のみになるでしょう(苦笑)。侑子のイメージとしては、あれは反則に近いですね。だから、作画的にも驚くものになっていた方がいいんです。あそこで精霊が腰を抜かしてるじゃないですか。そのぐらい不思議な事なんだと思います。
―― 松田さんが担当されたのは、具体的にはどこを?
水島 侑子が精霊に向かって歩き出して、どんどん攻撃が激しくなっていくところですね。カット数的に言うと、沖浦さんと松田さんが半々ぐらいじゃないかな。
―― じゃあ、沖浦さんは走り出すところから?
水島 いや、もうちょっと前からなんですけど。意外と上手く、分からないように切り替わってますね。
―― で、大平さんはその前の、ウサギが出てくるイメージ的なシーンですね。
水島 そうですね。
―― 今回驚いたのは、大平さんの作画が浮いてない! という事でして(笑)。
水島 大平さんの原画もよかったですよね。大平さんも、最近は有機物をあまりやってないんじゃないですかね。
―― なるほど。あのあたりが、さっきおっしゃった“有機物的なクライマックス”なんですね。
水島 そうですね。それがCLAMPの世界に合うのかどうかは分からないんですけど、原作でもキツネとか出てくるので、まあアリかなという事でやってみたりしました。
―― で、橋本晋治さんの原画が、コレクター達がメタモルフォーゼするところですね。
水島 そうなんです。橋本さんに描いてもらえたのは、ちょっとだけだったんですよね。あそこは、本当はパパパパッと見せるつもりだったんですけど、橋本さんがやってくれると聞いた途端に、尺を全部倍にしました(笑)。
―― じゃあ、橋本さんはあの場面だけ。
水島 ええ、そうです。コレクターだけでなく、百目鬼とかも変な顔になってたところが、面白かったなあ。後ろの方で「どうした?」って(四月一日に)言いながら、モグモグモグモグ。百目鬼はオイシイですよね、無口な食いしん坊(笑)。滅多にないキャラクターなので、やっていて楽しかったですよね。



―― 
おそらく「館」の話というプロットが考えられた段階から、予想された事だと思うんですけど、やはりI.Gライクと言うか『INNOCENCE』的なところのあるフィルムになりましたよね。
水島 “リーズナブルな『INNOCENCE』”って感じですかね。
―― いや、俺は“ギャグ入り『INNOCENCE』”だと思ったんですけど(笑)。
水島 そういうスタッフが集まっているから、そうなるのは当たり前だし、I.G色っていうんですかね? そういう画でこの映画を観たいなと、まるで素人みたいに思っていたので、「よかった、よかった」という感じですかね。
―― こういう構図を作れば、こんな画面ができるのかな? みたいな。
水島 ええ。「いやー、『INNOCENCE』みたいな背景が上がってくるのかなあ、ワクワク」という感じでしたね(笑)。

●『劇場版×××HOLiC 真夏ノ夜ノ夢』水島努監督インタビュー
(3)このクオリティで、あのツッコミが! に続く



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