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水島精二監督が語る劇場版『鋼の錬金術師』
その3 アクションシーンと中村豊コンテ
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小黒 アバンでウラニウム爆弾が出てきたあたりから、ジプシーと一緒にトラックに乗るあたりまで、やたらと2コマ作画が多かったじゃない。最初に観た時は「うわっ! この映画ずっとこれでいくのか!」と思った(笑)。
水島 はっはっはっ(笑)。意図的に2コマにしたわけではなくて、それはアニメーターが頑張ってくれたんです。あのあたりは巧い人に任せているし、まだスケジュールがあったんですよ。それとアバンのところは映画っぽいものを作って、宣伝にいっぱい活用しようというプランもあったし、僕自身にも「これは映画だ!」という思い入れが強かったんです。それから、ジプシーのところは演出やってる子も、初めての映画だったんで、あとで僕が注意するくらい2コマを使ってたんですよ(笑)。レイアウトチェックをする段階で「ここは動き 2コマで」と指示していたので。TVと同じ3コマでいいよと言って、3コマに戻したりしているんです。あそこも、高橋久美子さんという上手い方やってくれたので、お芝居をいっぱい入れてくれてたんですよね。
小黒 ああ、高橋さんなんだ。ウラニウム爆弾のあたりは?
水島 鈴木典光さんとか、斎藤恒徳さんとか、それと富岡隆司さんとかがやってくれて。スケジュールに余裕があるところで、良い原画マンにいい仕事をしてもらって、それをいっぱい宣伝に使おうというプランだったんですよ。ふっふっふっ(笑)。
小黒 言われてみれば、予告とか宣伝で使っているのはアバンのカットが多かった。中盤のグラトニーのバトルなんて、全く宣伝に使ってないものね。予告を観ると、あの科学者とのバトルが映画のクライマックスかと思うよ。
水島 (笑)。あれはこの映画を観てくれる人達に、安心してもらおうという意図もあったんです。ちゃんと2人の活躍のシーンもありますよ、ってね。
小黒 ちゃんとセリフで「鋼の錬金術師だ!」と言ってキメたりね。うわ、凄い少年マンガだと思った。
水島 そうそう。あれで『鋼』っていうのが、こういうマンガでしたよというのを思い出してもらって。
小黒 しかも、TVシリーズ初期のノリを。頭の1クールはこんなんでした、という。
水島 でしたっていう(笑)。そのへんは會川氏のプランですね。しかも、俺が言っていた、錬金術と科学との対比をこんなところに入れたのかよ、って!
小黒 さっきアバンが長いって言ったけど、後になって感心したんだよ。キャラ紹介をしつつ、人体錬成がいけないという事の説明もして、さらにあそこで出てきたウラニウム爆弾が、後で現実世界と錬金術世界をつなぐ鍵にまでなっている。なんてネチっこい構成だろうと思った(笑)。
水島 (笑)。だから、脚本を読んじゃうと、あのシーンは外せないんですよ。それから、その後の展開で錬金術でのアクションをやるシーンがないんです。エッカルトはずっとロケットに乗ってるし、エッカルト自身はアクションをやるような女性ではないので、やっぱりあそこでやっておかないと、どうにもならないよというのがあったりとかね。かと言って、敵が策士で、しかも強くて殺陣ができるという風にしちゃうと、ちょっとできすぎてるかな、うーん、と思って。
小黒 今回もかなりの脚本アニメだったじゃない。
水島 はいはい(笑)。
小黒 そのせいだと思うけど、申し訳ないけど、もの凄い作画のアクションがあっても、俺は、あんまり気持ちが動かなかった(笑)。
水島 ああ、まあそういう人もいるでしょうね。しかも、一番ボリュームがある中盤のアクションにしても、戦ってんのがグラトニーとラースですからね。
小黒 頑張っている事は分かるんだけど。TVの時もそうだったんだよ。シリーズ終盤で凄い作画のアクションがあっても、なぜかワクワクしない。冷静に「凄い作画だな」とか思ってしまう。
水島 ああ、それは分かりますよ。今回のシナリオのアクションシーンって、実はそのアクション自体がさほど重要じゃないんですよね。
小黒 2度目に映画館で見て分かったけど、要するにアクションやってる時に、他の事を考えているんだよね。普通だと、勝つか負けるかとかを考えながら見るんだよ。だけど、あのシーンでグラトニーとラースが戦ってるのを観ながら……。
水島 次の展開の事とかを考えちゃうんでしょ(笑)。
小黒 そうそう。それと、その人物が戦う理由とか、戦いの設定的な意味とか。
水島 分かる分かる。
小黒 しかも、あの場面って、どっちが勝ってもその後の展開は変わらなさそうじゃない。
水島 あっはっは(笑)。あのねえ、最後のエドとエッカルトのアクションもそうなんですよね。だから、延ばそうと思えば延ばせるけど、トキメかないでしょ? どっちが勝つなんて分かってんだから。
小黒 ロケットに乗り込むまで。錬金術で足場を伸ばして接近していくあたりが、一番高揚感があったかな。あそこがもう1カットか、2カットくらいあると、もっとよかった。
水島 確かに、ああいうところはたっぷりさせた方がよかったかもしれない。だけど、そんな余裕はなかったかなあ。
小黒 中村さんがやったのは、グラトニーとラースの戦いだよね。あそこだけ画面のメリハリが全然違うから、意識しないで観ていても「あ、コンテマンが変わった」と分かった(笑)。
水島 どうしてコンテマンが変わったのが分かるかと言うと、カッティングも中村豊が頑として譲らなかったから(笑)。
小黒 ああ、そうなんだ。
水島 やっぱりね、中村君って独特なんですよね。他の人にコンテを描いてもらっても、カッティングで自分の間合いに持っていけるんですけど、彼は間を切らせない。切らさないような画を作る。不思議な事に、普通なら切らないとタルくなるところを、中村豊のフィルムは切らない事によって彼自身の間になってくるんですよ。大きい流れに関しては理詰めで説得して、細かいところに関しては編集の時に「切る」「切らない」って話を繰り返しましたね(笑)。
小黒 中村豊パートって原画は誰なの?
水島 色んな人がやっていますよ。でも、どんな巧い人が描いても中村君は手を入れるからあれだけ統一感が出る。なんで、あのシーンはよく上がったなあと思いますよ。いちばん最後までやってましたからね。
小黒 アクションに関しては、ロイの見せ場があったのが嬉しかったね。それでTVシリーズでの、ストレスが解消された。
水島 あ、そうですか。
小黒 彼って、もっと活躍しそうなキャラクターじゃない。
水島 確かにロイの活躍って、あんまりないですからね。しかも、ロイのアクションのあたりって、小森(高博)さんとか川元(利浩)さんが原画描いてるから、格好いいんだよ。
小黒 焔のエフェクトは統一されてたよね。
水島 あれは誰が統一したんだろ? 金子秀一さんがやってくれたのかなあ。メカ作監でクレジットされてる金子秀一さんという方が、飛行機関係のシーンをやってくれたんです。だから、金子さんがエフェクトもしてくれたのかな。そのあたりになると、分からないなあ。
小黒 今回エンディングで、いちばんたくさんクレジットされたのが、吉成鋼さん?
水島 うんうん。
小黒 あれどういうかたちでの参加だったの?
水島 吉成君にも、中村君のパートをやってもらってたんです。ラースが、グラトニーに吹っ飛ばされて、飛び石みたいにポチャンポチャンと飛んで、川にボコボコと落ちるまでの3カットくらい。あれは動画も仕上げも彼が自分でやってるんですよ。カットを全部自分でやるというかたちだったので、色んなところに名前が表記される。原画、動画、仕上げ、撮影協力だったかな。南さんも「この映画でいちばん多くクレジットされてるのは、吉成だなあ」と言ってましたからね。やってもらったカットは少ないけど、仕事ぶりを観ると、吉成君はやっぱ凄いですよね。
小黒 ピンポイントな話ばかりで申し訳ないけど、クライマックスの飛行船の中でのバトルが、富岡さん?
水島 原画は、動画工房の向田(隆)君ですね。
小黒 あれは目立っていたよね。
水島 エドがくるくる回ったりするところですね。最初の向田君のラフだと、もっと軽業師みたいにくるくる回ってたりしたんですけど、もうちょっと地に足着いたアクションにしたいという事で、あれでも直してもらったんですよ。10秒使った最後の(アクションの)見せ場なので。エッカルトは刀を振り回すけど、もともと武術に長けている人ではないから、それをエドが軽々と避けてるというニュアンスにしたかったんですけどね。
小黒 いやいや、あれは楽しかったよ。
●水島精二監督が語る劇場版『鋼の錬金術師』
その4 映画のラストとオープニング に続く
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シャンバラを征く者 シナリオブック」
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